第132話 アイアンゴーレム
面白い事を聞いた俺は、試してみようと思った。
休憩を終えて六層の奥へと向かった俺たちは、スケルトンソルジャーを仕留めた後にスケルトンナイトに遭遇した。
「カリナ先生に教わった倒し方を試してみます。こいつは、俺に任せてください」
二人が笑って頷いた。
スケルトンナイトはスケイルアーマーと槍、盾を装備したスケルトンである。その槍の技術は高く、正面から攻撃すると盾で防いでしまう。
そこで斜め横からクイントプッシュを頭蓋骨に叩き付けた。『プッシュ』は正面から真っ直ぐ押し出す場合が、一番威力が有る。斜め横だと威力が少し落ちるのだが、それでも頭蓋骨を弾き飛ばした。
頭蓋骨が無くなったスケルトンナイトは、本能的に頭蓋骨を探そうとするようだ。その背後に回った俺は、用心しながら聖属性付きの聖銀製短剣を仙骨に突き刺す。
スケルトンナイトの身体がクタッと力を失い地面に倒れる。残念ながら今回は金の玉を残さなかった。三回に一回なのだから、仕方ないだろう。
カリナが感心したような顔をする。
「そんな『プッシュ』の使い方があったのね。知らなかった」
「スケルトンという種族には有効なようです」
次にスケルトンナイトに遭遇した時、もう一度試してみた。聖銀製短剣を仙骨に突き刺した瞬間、骨が分解され金の玉が地面に転がった。
「あっ、出た!」
マリアが大声を上げる。カリナの言った事は本当だった。だけど、この事を最初に発見した冒険者は、どんな人物だったのだろう。どんな状況で、聖属性付きの武器でスケルトンナイトの仙骨を刺す事になったのだ? ダンジョンは奥が深い。
俺たちは六層を抜け七層に下りた。七層は気温四十度の砂砂漠が広がるエリアだ。ギルドからもらった地図によると、階段まで三キロほどを歩かなければならないらしい。
しかも起伏が激しい砂砂漠である。俺とカリナは大丈夫そうだが、マリアの体力だと厳しそうだ。そこでマリアはD粒子ウィングに乗ってもらう事にした。
『ウィング』を発動してD粒子ウィングを出し鞍を付けると、マリアを乗せる。
「ごめんなさい。これから身体を鍛え直すから」
「ギルド職員の仕事だと、身体が鈍るのは仕方ありませんよ。でも、鍛え直すのは賛成です」
「グリム先生、この子はダンジョンに潜っていた時も、運動は苦手だったのよ」
「へえー、そうだったんですか」
俺はD粒子ウィングを操りながら砂砂漠を歩いて階段まで辿り着いた。途中で遭遇したサンドウルフとブルースコーピオンは瞬殺した。
八層は湿原エリアだったので、
九層に下りると草原エリアだった。カリナがセブンスブレードでアーマーボアを仕留める。魔装魔法を使い身体能力を上げてから、ロングソードよりリーチの長い『ブレード』で攻撃していた。鮮やかなものである。
「生活魔法は、魔装魔法使いと相性がいいのよ」
カリナがそう言った。その手に持つ蒼銀製ロングソードは百二十センチほどで、かなり重そうだ。それを軽々と振り回すのだから、大したものだ。
「でも、生活魔法で攻撃するなら、ロングソードではなく短剣でいいんじゃないですか?」
「そう思うんだけど、短剣だとちょっと不安になるのよ」
C級冒険者の上条とは逆に武器が短いと不安になるらしい。それだけロングソードの間合いで戦っていた期間が長かったという事だろう。
九層を最短ルートで攻略した俺たちは、目的の十層に下りた。そこは迷路だった。しかも遭遇する魔物はスモールゴーレムである。迷路に入ってすぐにスモールゴーレムに遭遇した。
「困ったわね。こいつを倒すには、『スタブプラス』と『パワータンク』が必要なのよ。中ボス戦に備えて魔力を温存しとかなくちゃならないのに」
カリナが心配そうに声を上げる。
「それなら、俺が仕留めます」
「中ボス戦が有るのよ。魔力は大丈夫なの?」
「胸の中心に穴を開ければ、一撃で仕留められるはずです」
俺は五メートルまで接近させてから、クイントパイルショットをスモールゴーレムの胸を狙って放つ。D粒子パイルは胸に命中して潜り込み貫通した。スモールゴーレムの背中から飛び出したD粒子パイルは、背後の迷路に突き刺さり止まる。
「クイントは必要なかったな」
クワッドパイルショットで十分だったようだ。それから遭遇したスモールゴーレムをクワッドパイルショットで仕留め進む。
「グリム先生、その生活魔法は『ヒートシェル』とは違うのですか?」
カリナが尋ねた。
「これは『パイルショット』という魔法です。残念ながら、魔法レベル11で習得できる魔法なので、カリナ先生たちは習得できないと思います」
「そうなんですか。残念です」
カリナとマリアが本当に残念そうな顔をするので、劣化版でも創ろうかという気になった。
それはともかく、俺たちは中ボス部屋の前に到着した。
「ここが中ボス部屋らしいです。慎重に行きましょう」
中に入った時、ドシンという音と地面が揺れるのを感じる。部屋の中央に全長二メートル半ほどのアイアンゴーレムが居た。
鉄製だからだろうか、地響きを立てながら迫ってくる様子は、ゴーレムというよりロボットのような感じがする。
俺はカリナにセブンスサンダーボウル、マリアにはダブルプッシュで攻撃するように指示した。
カリナは『パワータンク』で身体能力を上げ、アイアンゴーレムの周りを素早く動きながらセブンスサンダーボウルを放ち、マリアは恐る恐るダブルプッシュを放つ。
カリナのセブンスサンダーボウルは小さなダメージを与えていたが、マリアのダブルプッシュは全くダメージを与えているようには見えない。
「このままでいいの。全然効いてないみたいよ」
マリアが不安そうに声を上げた。
「仕留めるのは、俺の役目ですから、任せてください」
俺はアイアンゴーレムの頑丈さをチェックするために、セブンスハイブレードを横殴りに叩き込んだ。D粒子の刃が鉄製の胸に命中して甲高い金属音を響かせ、アイアンゴーレムの重い巨体を転ばせる。
カリナとマリアがチャンスとばかりにセブンスサンダーボウルとダブルプッシュを叩き込む。アイアンゴーレムが立ち上がるのに時間が掛かりそうなので、『ヒートシェル』の準備を始めた。
「今から『ヒートシェル』を放ちます」
二人に宣言してから、セブンスヒートシェルを発動する。銅リングを内蔵したD粒子シェルが立ち上がったアイアンゴーレムの胸に命中してメタルジェットを噴き出した。
メタルジェットの噴出と同時に起きた爆発が、爆風を俺たちに叩き付ける。俺たちは後退しながら、アイアンゴーレムの様子を確認した。
アイアンゴーレムは地面に横たわり弱々しく藻掻いている。その胸には大きなヒビと穴が出来ていた。アイアンゴーレムが身体を捻った時に、穴の奥に金属製の球体が見えた。
それがアイアンゴーレムの心臓のような存在らしい。カリナがチャンスとばかりにセブンスアローを放ち、球体を壊した。それがトドメとなったらしい。鉄製の巨体が消え、カリナとマリアが声を上げる。どうやら魔法レベルが上がったようだ。
カリナが魔法レベル8、マリアが二つ上がって魔法レベル4になったという。
俺はアイアンゴーレムの防御力は、スティールリザードより一枚上だと認識を改めた。
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