第133話 アイアンゴーレムのボスドロップ

 マリアが俺に顔を向ける。

「グリム先生の魔法レベルは上がらなかったの?」

「数ヶ月前に、魔法レベル13になったばかりだから」


 カリナが分かるというように頷いた。

「魔法レベルは二桁になると、簡単に上がらなくなるんですよね」


 俺たちはボスドロップが何かを確かめる事にした。アイアンゴーレムが死んだ場所へ行き探すと、マリアが黒魔石<小>を見付けた。


「黒魔石か。まずは利益確保というところだな」

 カリナが少し離れた場所で、長さ一メートルほどの細剣を発見した。

朱鋼しゅこう製細剣です」


 朱鋼は鮮やかな朱色の金属で、頑丈な点に関して三本の指に入る金属である。魔装魔法使いが使う武器としては、魔導武器を除くと最高級のものだ。その細剣はカリナに使ってもらう事にした。


 俺はまた指輪を発見した。マリアが指輪を見て、

「魔導装備でしょうか?」

「アイアンゴーレムのボスドロップだから、そうだと思うけど調べてもらわないとダメだな」


 ちなみにマリアは『アイテム・アナライズ』を使えないそうだ。

 俺たちは来た道を戻り、夜の十時頃に冒険者ギルドへ戻って来た。ここの支部長に報告して、ボスドロップ品を調べてもらう。


 細剣はカリナが言ったように朱鋼製細剣だった。指輪は『痛覚低減の指輪』だと分かった。俺はカリナとマリアに頼んで、『痛覚低減の指輪』を手に入れる事にした。俺にとって重要なキーアイテムになるものだ。


 黒魔石は換金して三等分にする。魔導装備である『痛覚低減の指輪』をもらうのだから、全部をマリアの取り分にしても良いと言ったのだが、あまり役に立てなかったからと言って三等分にしたのだ。


 遅くなったので、冒険者ギルドの車で渋紙市まで送ってもらった。俺は魔法レベル8で習得できる生活魔法の魔法陣をカリナに渡した。


 これで一人前の生活魔法使いになるために必要な十一個の生活魔法を習得できる。それを魔法学院の生徒に教えてもらえば、生活魔法使いの評価も上がるだろう。


 翌日は昼まで寝ていた。かなり疲れていたのだ。食事をしてから冒険者ギルドへ行くと、カウンターでマリアが眠そうな顔をして仕事をしている。昨日の疲れが取れていないのだろう。


「大変ですね。俺は起きたばかりですよ」

「羨ましい」

 そう言ったマリアが、先輩の加藤から睨まれた。


「羨ましいのは、マリアよ。一日で魔法レベルが三つも上がったんでしょ?」

「えへへ、そうなんですよ。こんなの初めてです」

 大物を倒して一日に魔法レベルが二つ上がるというのは偶にあるが、三つというのは珍しいそうだ。マリアが満面の笑顔で加藤に答えている。


「ところで、今日は魔法文字を勉強するには、どうすればいいか、聞きに来たんです」

 加藤が少し考えて、

「やはり大学へ行って勉強するのが、一番です」


 俺は肩を落とした。金はあるので勉強さえすれば大学に入れるだろう。だが、それだと魔法文字を習得するのは、ずっと先になる。俺はそろそろ魔導書をちゃんと調べようと思って尋ねたのだ。


 俺がガッカリしたのに気付いた加藤は、別の提案をした。

「大学が嫌なら、家庭教師を雇ったら如何ですか?」


「家庭教師? 魔法文字を教えてくれる家庭教師とか居るの?」

「大学で魔法文字を教えている講師や准教授を、家庭教師として雇えばいいのよ」

「准教授や講師は、副業なんかできるんですか?」


「大学に申請すれば、大丈夫みたいですよ」

 冒険者ギルドでもダンジョンで見付かった書籍などを翻訳してくれるように頼む事が有るそうだ。俺は何人か紹介してもらった。と言っても、大学のパンフレットを見せてもらっただけである。


 その中から魔法文字を教えている若い講師に目を付けた。村瀬誠一という人物だ。星聖大学で魔法文字を教えている優秀な人物らしい。


 俺は星聖大学へ行って、村瀬に直接会って交渉した。最初は渋っていたが、相応の対価を払うと約束すると引き受けてくれた。


 村瀬は黒縁メガネを掛けた理知的な人物で、礼儀正しい話し方をする。

「現役の冒険者から教えて欲しいと頼まれたのは、初めてですよ」

 俺は魔法文字を教えてもらう約束をして戻った。


 冒険者ギルドに戻って、加藤とマリアに礼を言っているとアリサたちが来た。どうやら俺に用が有るらしい。


「グリム先生、宝物庫へ行く隠し扉を見付けました」

 アリサが教えてくれた。隠し扉を見付けたが、まだ中には入っていないという。


 最初は俺も一緒に行こうという話だったのだが、アリサたちが自分たちだけでガルムを倒したいというので、俺はアドバイスだけする事にした。


 宝物庫の鍵を守っているガルムは巨大な犬だ。その巨体で暴れ回られると危険である。セブンスハイブレードで倒せると思うが、『ヒートシェル』も教えた方がいいだろう。


 四人に『ヒートシェル』の魔法陣を渡した。由香里は魔法レベルが足りないので習得できないだろうが、アリサが持っているマジックバッグに仕舞っておけば良い。


 そこに鉄心が来た。俺を目にして寄って来る。

「これを見てくれよ」

 そう言うと冒険者カードを見せた。E級だったカードが、D級になっている。


「おめでとうございます」

「D級になれたのは、生活魔法を教えてもらった御蔭だ。感謝している」

 鉄心は生活魔法の魔法レベルを『7』に上げ、『8』を目指しているらしい。目的は『ハイブレード』と『ウィング』である。


「『センシングゾーン』や『オートシールド』も、便利で重要な生活魔法なんですけど」

「分かっているよ」


 せっかく鉄心に会えたので、ガルムと戦った経験がある鉄心に話を聞いた。ガルムは眷属であるブラックハイエナを召喚する能力が一番厄介であるが、もう一つ気を付けなければならないものがあるという。


「ガルムの尻尾だ。あの尻尾は弱い電気を帯びていて、尻尾に触るとビリッと来るんだ。一瞬だけ動けなくなる瞬間ができる。それで怪我をした者も居る」


 アリサたちは熱心に聞いていた。実際に宝物庫へ行くのは次の日曜日だというが、無事に帰ってきて欲しい。


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