第124話 ケンタウロス
ケンタウロスがニッと笑って、驚くべき脚力を使って飛び掛かってきた。ヤバイ、と思いクイントカタパルトを発動する。
D粒子リーフが俺の身体を掴み、右斜め上に投げ上げた。槍を突き出したケンタウロスが空振りして、空中を飛んでいる俺に視線を向ける。
まさか、そう思った時、ケンタウロスが素早い動作で腕を引き凄まじい速さで槍を投擲した。俺は慌ててクワッドオーガプッシュで迎撃する。
クワッドオーガプッシュは槍を弾き返したが、その槍はケンタウロスの手元に戻る。空中でクワッドオーガプッシュを発動した事でバランスを崩し着地に失敗した俺は擦り傷を負うが、素早く立ち上がりセブンスジャベリンをケンタウロスに向けて放つ。
そのセブンスジャベリンをケンタウロスが槍で弾いた。
嘘だろ! セブンスジャベリンは存在感は有るが、目に見えないはずだぞ。ケンタウロスはD粒子が見えるか感知する能力を持っているのかもしれない。
生活魔法使いにとっては厄介な魔物だ。俺は連続攻撃を仕掛ける事にした。ケンタウロスの周囲を駆け回りながら、セブンスジャベリンを三連発する。
ケンタウロスは、飛んでくるセブンスジャベリンに向かって素早く槍を払って弾いた。その槍術の技量に、俺はゾッとする。
『ジャベリン』が通用しないと分かり、クイントハイブレードで横に薙ぎ払う。ケンタウロスは跳躍して飛び越える。空中に浮かぶケンタウロスにセブンスオーガプッシュを叩き付ける、
ケンタウロスは両手で槍を持ちセブンスオーガプッシュを受け止めようとした。だが、高速で回転するオーガプレートは槍を弾き飛ばし、馬体を斜め上にかち上げる。
空中で一回転半したケンタウロスは、背中から地面に落ちて
ケンタウロスが必死に地面を転げ回って、セブンスハイブレードを避けた。そして、立ち上がり鬼の形相で俺に向かって迫る。その胸にはオーガプッシュで刻み込んだ傷跡があり、血が流れ出していた。
ケンタウロスの手に槍が戻っていた。飛ぶように駆け寄ったケンタウロスが、連続で槍による攻撃を放つ。突き、突き、払い、突き、その凄まじい突きの攻撃はD粒子シールドや黒鱗鎧の防御があっても安心できないように思えた。
俺は必死で攻撃を躱した。三橋師範との修業がなければ、攻撃を受けていたかもしれない。ケンタウロスの攻撃が途切れた瞬間、セブンスオーガプッシュを放つ。
またケンタウロスが宙を舞った。今度は地面に叩き付けられる前に、セブンスサンダーアローを放つ。それがケンタウロスの尻に命中して、落雷したかのような轟音と火花を散らす。
倒れたケンタウロスは死んではいなかった。無事な前足で立ち上がろうと藻掻く。俺はセブンスハイブレードを叩き込んでトドメを刺した。
ケンタウロスの首が刎ね飛んで、その姿が空中に溶けるように消えた時、どこからか宝箱が現れた。しかも二つである。
一つの宝箱には、魔法文字が書かれていた。『最初』という意味を現す魔法文字だ。もしかすると生活魔法使いが初めてケンタウロスを倒した褒美なのかもしれない。
俺は宝箱を開けた。その中には一つの巻物が入っていた。巻物を取り出して開いてみると魔法陣のようなものが描かれている。
それを見た瞬間、自動的に賢者システムが立ち上がった。賢者システムは巻物の魔法陣みたいなものから情報を吸い上げているようだ。
吸い上がった情報が賢者システムに追加され、『D粒子一次変異』という情報グループの他に『D粒子二次変異』というものが出来ていた。
『D粒子二次変異』と言えば、<不可侵>とか<貫通>という特性を思い出す。但し、それらの特性は新しい魔法を創造する時には使えなかった。
特性の名前だけが分かっていてもダメなのである。しかし、今回は巻物から情報を得て使えるようになった特性がある。その特性は<
「これで『D粒子二次変異』を使った生活魔法が、使えるようになったという事か」
ちょっとワクワクする。早く『D粒子二次変異』を使った生活魔法を創りたくなったが、その前にもう一つの宝箱を確かめなければならない。
俺はもう一つの宝箱を開けた。これが本来の生活魔法使い用に用意された宝物なのだろう。中に入っていたのは、食卓塩の容器に似た形の魔道具だった。
それを拾い上げた瞬間、俺は外に放り出された。気が付くと目の前に冒険者ギルドの職員が立っていた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
ケンタウロスの槍から逃げ回った時に出来た擦り傷以外の怪我はない。
「では、魔物に勝たれたんですか? それともエスケープボールを?」
「ちゃんと勝ったよ」
「おめでとうございます。詳しい事を知りたいので、冒険者ギルドへ来てもらえますか」
俺はシャワーを浴びて着替えたかったので、一度ダンジョンハウスへ入った。シャワー室へ行くと一緒に来た安室がシャワーを終えて出てきたところだった。
安室の濡れた髪を見て目を逸らした。まだ若いのに額がやけに広くなっている。このままいけば、後頭部まで額が広がるのではないか? そして、丸顔の安室波丙。
「波丙さん、宝物は手に入れられましたか?」
「いや、ダメだった。サンダーガゼルが素早すぎて、攻撃を当てられなかったんだ」
サンダーガゼルと戦ったという事は、魔装魔法使いだったのだ。魔力が尽きそうになったので、エスケープボールで脱出したという。
「そっちはどうだったんだ?」
「運が良かったのか。魔物を倒す事ができました」
「おめでとう。それで魔物は何が出たんだ?」
「ケンタウロスです」
その時、ギルド職員が急ぐように促したので、話を切り上げてシャワーを浴び着替えて外に出た。
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