第125話 神陽ダンジョンの上条
グリムがケンタウロスと戦う少し前。
C級冒険者の上条は、生活魔法の修業を続けながら冒険者としての活動を続けていた。但し、その活動はソロで行っている。
上条の所属するチーム『森羅万象』が、神陽ダンジョンから戻って来ないのだ。と言っても、心配はしていなかった。目的のものが中々見付からずに探索が長引く事はよくあったからだ。
その間に生活魔法を修業した上条は、魔法レベルを『8』に上げ『ハイブレード』と『ウィング』を習得した。鞍も先に注文したので所有している。空を飛ぶ準備ができたという事だ。
飛行練習を楽しむ一週間が経過した。その頃になってもチームからは何の連絡もないので、心配になる。
上条は神陽ダンジョンがある
「神陽ダンジョンでは、トラブルが発生しており、中に居る一部の冒険者と連絡が取れなくなっているのです」
ギルドの職員が説明した。
「どんなトラブルなんだ?」
「六層にある火山の噴火です」
上条は聞いた事があった。神陽ダンジョンにある火山は一年か二年に一度噴火して、溶岩が流れ出し六層が通り抜けられなくなるのだ。
但し、それは十日ほどで収まり、また通れるようになると聞いた。
「後何日ほどで戻ってこれるんだ?」
「そうですね。三日以上掛かると思います。ところで、上条さんは攻撃魔法使いでしょうか?」
「いや、私は魔装魔法使いだ。それがどうした?」
「『フライ』が使えるのなら、食料と水を運んでもらおうかと思ったのです」
「攻撃魔法使いなら、ギルドに居るだろう」
「溶岩の流れている区画が広いので、魔力量の多い攻撃魔法使いでないと渡れないようなのです」
一人乗りのヘリコプターが使えないのかと提案すると、この市には所有者が居ないそうだ。他から探して借りてくるという事になると、時間が掛かるらしい。
上条はどれほど飛べれば溶岩地帯を渡れるのか尋ね、答えを聞いて、
「私が運んでやろう」
「『フライ』が使えるのですか?」
「違う。生活魔法の『ウィング』が使えるのだ」
ギルドの職員は初めて聞く魔法だったらしい。当然だろう。まだ魔法庁にも登録されていない魔法なのだから。
「少しお待ちください。支部長を呼んで参ります」
支部長の
「生活魔法の『ウィング』というのは初めて聞くのだが、どういう魔法なのか、教えてくれないか」
肘方支部長が上条に頼んだ。
上条は『森羅万象』が関わっているので承知した。マジックバッグから鞍を取り出して、『ウィング』を発動する。
現れたD粒子ウィングを見て、肘方支部長は何だろうという顔をする。上条が鞍を取り付けて乗ると、驚いた顔に変わった。
上条は上昇し訓練場をぐるぐる周回して、支部長の前に戻った。
「納得してもらえたかな?」
「もちろんです。凄いですな。これが生活魔法ですか」
すぐさま上条と支部長は、神陽ダンジョンへ潜った。ダンジョン前に大勢の冒険者が集まっていたが、上条はあまり気にしなかった。
上条のマジックバッグの中には、水と食料、それに防火靴が収納されている。溶岩地帯が完全に冷えるまでは時間が掛かるので、防火靴を履いて戻るという事だ。
ちなみにD粒子ウィングで冒険者を運ぶという案は、上条が却下した。経験の浅い『ウィング』で無理をするのは危険だと判断したのである。
六層への階段を下りると、熱気を感じた。目の前には火山から流れ出た溶岩の川が横たわっている。幾筋もの溶岩の川が広範囲を覆っていた。溶岩が流れていない土地も、溶岩の熱で高温になっている。
「よろしく頼む」
肘方支部長の言葉を聞いて、上条は『ウィング』を発動した。D粒子ウィングに鞍を付けて跨った上条は、溶岩の上を飛び始めた。
溶岩の川を渡りきった時、冒険者らしい集団が地上で上条を見詰めているのに気付いた。上条が着地すると『森羅万象』の仲間たちが駆け寄ってきた。
「上条、空を飛ぶ魔装魔法なんて、初めて見たぞ」
リーダーである来栖が、『ウィング』を魔装魔法と勘違いしたようだ。
「これは魔装魔法じゃなくて、生活魔法だ。一ヶ月くらい前に生活魔法を修業すると言っただろ」
「そうだったけど……生活魔法か。これが有るから修業すると言ったんだな」
上条は苦笑した。生活魔法に対する認知度は、まだまだ低いようだ。
「何で、あんたが来たんだ?」
上条の代わりにチームに入った下根が質問した。
「ここの支部長に頼まれた。水と食料、それに防火靴を運んできたぞ」
上条はマジックバッグから、冒険者ギルドから預かった荷物を取り出して、冒険者たちに渡した。
「食料は、まだ残っているが、水が少なくなっていたんだ。ありがたいぜ」
冒険者の一人が言った。冒険者の中には生活魔法の才能が有る者も居るはずだ。なのに、生活魔法の『ウォーター』を習得した者は居なかったのだろうか?
『ウォーター』は空気中の水分をD粒子が集めて水にする魔法で、コップ一杯分くらいの水しか作り出せないが、有れば便利なはずだ。
C級冒険者のほとんどがマジックバッグを持っているので、不要だと思っていたのだろう。
「ところで、探索は成功したのか?」
上条が来栖に確認すると、渋い顔をされた。失敗だったようだ。
「三〇層の中ボス部屋で、レッドオーガに勝てなかった」
上条は首を傾げた。レッドオーガなら仕留めた事があったからだ。強敵だったが、チームで協力してレッドオーガを弱らせ、最後に上条の<魔導無効>の効果を持つ脇差でトドメを刺したのだ。
「なぜだ? 前に倒した事があっただろう」
「下根が最後のトドメに失敗した。自慢していた『スラッシュプラス』の斬撃が、レッドオーガの防御力を超えられなかったのだ」
オーガ種族は、魔装魔法使いが使う『スティールガード』のように防御用の魔力を身体に纏い防御力を上げている。
「五月蝿い、ちょっと調子が悪かっただけだ」
下根の顔が赤くなっていた。レッドオーガには特別な武器が必要だったのだ。
上条は冒険者たちの話を聞いてから、戻る事にした。支部長に届けた事を報告して地上に戻る。
「何で、こんなに賑やかなんだ」
ダンジョンに入る時も大勢の冒険者が居たが、戻った時は倍ほどに増えていた。
「ああ、これは『流星の門』を試しに来たD級冒険者たちだよ」
「そうか、聞いた事がある」
上条自身は『流星の門』に挑戦した事はなかったが、話だけは聞いている。
その集まった冒険者の中に、上条は意外な人物を見付けた。
「グリム先生」
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