第123話 流星の門

「危なくなったら、雷撃系の魔法を使うかどうかを見たかったのだが、この結果は予想外だ」

 哲郎の言葉を聞いて、アリサは口を尖らせた。

「お祖父さん、試すのは構いませんが、理不尽な指示に従って死ぬような馬鹿じゃありませんよ」


「そのようだな。それに過小評価していた事を謝ろう。アリサちゃんの実力を試すには、アーマーボアくらいを指定するべきだった」


 祖父がアーマーベアでなくアーマーボアと言ったので、まだ過小評価していると思った。

「でしたら、アーマーボア狩りでもしますか?」

「おっ、いいね。この下の六層にアーマーボアが居るぞ」


 健一郎はめげない性格だった。時間があるので、六層に行ってみる事にする。六層は草原エリアでアーマーボアやビッグシープが居る。


 ビッグシープを避けながら、アーマーボアを探す。広い草原を探し回り、アーマーボアを見付けた。草原を棲家とするアーマーボアの狩りは、『ハイブレード』を習得してからシンプルになった。


 直線的に襲い掛かってくるアーマーボアに向かって、クイントハイブレードを振り下ろすだけで良かったからだ。


 祖父が見ている前で一撃で仕留めると、

「アーマーボアも瞬殺か。アリサちゃんはD級冒険者に近い実力を持っているのかもしれんな」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アリサがアーマーボア狩りをしていた頃、俺は近藤支部長に呼ばれて支部長室に来ていた。ここに集まったのは、俺だけではなく、D級冒険者の数人が集められている。


 D級冒険者の安室あむろ波丙なみへいが代表して、集められた理由を尋ねる。

「神陽ダンジョンの六層で火山が噴火した」

「もしかして、『流星の門』が開くのですか?」


 支部長が頷いた。

「知っておったか。そうだ、『流星の門』が開く」

 『流星の門』というのは、特別なダンジョンへの入り口だという。その門の内側には宝箱を守る魔物がおり、その魔物を倒すと宝箱に入っている宝物を手に入れられるらしい。


 俺は近藤支部長に顔を向けた。

「なぜ、俺たちだけが集められたのです?」

「D級冒険者だけが、『流星の門』に入る事を許されているからだ」


 『流星の門』は入る者を選ぶのだという。厳密に言えばD級冒険者だけに限られている訳ではないが、これまでの統計からD級冒険者が入れる確率が高く、それも一年以内にD級冒険者になった者が入れるそうだ。


 俺もD級冒険者になったばかりだから、『流星の門』に入れるかもしれない。問題は宝箱の番をしている魔物の強さと宝箱の中身だ。


「攻撃魔法使いはロックゴーレム、魔装魔法使いはサンダーガゼルと遭遇する事になるそうだ」

 サンダーガゼルは鹿に似た魔物で、素早く頭の角から雷撃系の魔法を放つらしい。ロックゴーレムは文字通り岩で出来たゴーレムで力が強く頑丈な魔物である。


「生活魔法使いは?」

「不明だ」

 支部長の答えを聞いた俺は、溜息を漏らす。そうだと思ったのだ。たぶん『流星の門』に挑戦する候補に選ばれた生活魔法使いは、俺が初めてなのだろう。


「それで宝物は、何ですか?」

「ロックゴーレムが守る宝箱には、二億円相当の金塊が入っている。そして、サンダーガゼルが守っている宝箱には、魔導装備の指輪が入っている事が多いそうだ」


 当然、生活魔法使いに関するものは分からないという事だ。支部長は俺たちに挑戦するかどうかを尋ねた。サンダーガゼルやロックゴーレムを倒せる自信のある者だけが、挑戦するのだろう。


 問題は生活魔法使いである俺だ。サンダーガゼルやロックゴーレムなら倒せる自信がある。生活魔法使い用の魔物も倒せるのではないか?


 詳しい事を支部長に聞くと、『流星の門』の内部でエスケープボールが使えるそうだ。そうならば、勝てない時は逃げられる。


 俺は挑戦する事にした。俺の他に挑戦すると名乗り出たのは、安室だけだった。俺たちはすぐに神陽ダンジョンへ向かった。


 半日ほどで神陽ダンジョンへ到着。すでに数多くのD級冒険者が集まっていた。『流星の門』を試す順番は、到着順という事らしい。


 『流星の門』に挑戦する整理番号をもらい確認すると、六十四番だった。『流星の門』を初めて見た。通常の神陽ダンジョンに入る入り口の横にオレンジ色の門があり、扉には流星のような模様が描かれている。


 冒険者ギルドの職員に、六十四番だとどれだけ時間が掛かるか尋ねた。

「そうですね。後二時間ほどは待ってもらう事になるでしょう」

 俺はダンジョンハウスで休憩しようと考えた。一応着替えてから、ダンジョンハウスの休憩室で休んでいると、五分置きくらいにギルド職員が整理番号で冒険者を呼んだ。


 どんな魔物と戦うのかと考えていると、救急車のサイレンが聞こえ怪我人が出たのが分かる。休憩室に居る他の冒険者たちの話を聞くと『流星の門』に挑戦するほとんどの者は、エスケープボールを持っているらしい。


 挑戦に失敗した者は、着替えると帰っていく。成功した者は冒険者ギルドに連れて行かれるようだ。


 ついに俺の番号が呼ばれた。『流星の門』へ行き、黒意杖を手に持って門の前に立つ。

「扉に片手を当てて、進み出てください」

 ギルド職員に言われた通り、左手を扉に当て一歩足を踏み出した。


 次の瞬間、サッカーコートほどの広さがある空間に出ていた。天井はドーム状になっており、そこから光が降り注いでいる。地面は踏み固められた黒土だ。


 そして、その中央に魔物が居た。馬の首から上が人間の上半身となっているケンタウロス族だ。鎧を装着しており、手には槍を持っている。


「ケンタウロスか。記憶にない魔物だ」

 どんな攻撃をしてくるのか分からないので、いつでも『オーガプッシュ』で迎撃できるようにする。同時に『オートシールド』を発動し、黒鱗鎧のスイッチを入れる。


 ケンタウロスは俺に鋭い視線を向けたまま、槍を後ろに引いた。あれは槍投げの……うわっ、投げた。

 俺は横に跳んで避けた。槍は五十センチほど横を通り過ぎて、地面に突き刺さった。チャンスだと思い間合いを詰めようとする。


 その時、投げた槍がゴム紐でも付いていたかのように、ケンタウロスの方へ飛んで行きキャッチされた。魔導武器だったようだ。


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