第122話 アリサの実力

 ブラックハイエナに囲まれて万形剣を構えた時、昨晩の事が頭に浮かんだ。

 アリサは祖父からもらった武器『万形剣』を分析して、黒意杖と同じように形を変えられる武器だと分かった。なので、黒意杖のように形を変える事で攻撃となる変形パターンを考えた。


 黒意杖の変形を見ていて分かった事がある。黒意杖は先端部分から剣の形にして伸ばすように変形したので、形を一瞬で変える時も同じように変形する。


 最初に変形させる時が重要らしい。アリサは変異したD粒子の短剣を先端から螺旋状に捻りながらドリル状に回転させて伸ばした。三十センチの短剣を細長いドリルのように変形させたのだ。


 アリサが黒意杖のように細剣にしなかったのは、黒意杖で細剣突きをした時に反動が手元に来ると聞いたからだ。ドリルなら反動も少ないだろうと考えたのである。


 祖父と健一郎はそれぞれの武器を構えて、ブラックハイエナの群れの中に跳び込んで大暴れしている。アリサは襲ってくるのを静かに待つ。


 最初のブラックハイエナが飛び掛かってきた。トリプルプッシュで受け止め、万形剣を魔物の頭に向けて頭の中にあるスイッチを押す。


 短剣だった部分が細長いドリルとなってブラックハイエナ頭を貫通した。反動はほとんどない。非力なアリサでも使える武器だった。万形剣を即座に元の形に戻す。


 アリサはトリプルプッシュで突進を止め、万形剣の『ドリル突き』で仕留めるという事を繰り返した。一度に複数の魔物に襲い掛かられた時は、『プッシュ』が間に合わない時もある。


 そういう時は、D粒子シールドが自動的に魔物の攻撃を受け止めてくれるので安心だった。アリサは背後にクイントプッシュを放ち、D粒子シールドに攻撃を防がれたブラックハイエナを弾き飛ばす。


 アリサは、この攻撃に一つだけ不満があった。何も知らない人が見ていた場合、ヒップアタックで魔物を弾き飛ばしたように見えるのである。


 六匹をドリル突きで、五匹をトリプルブレードで倒した。最後の一匹と健一郎が戦っている。健一郎は攻撃力と防御力を高める魔装魔法の中で、防御力に比重を置いた『コスモガード』を使っているらしい。


 健一郎を観察すると、何度かブラックハイエナに噛み付かれたらしい跡が鎧に残っている。だが、身体に纏った魔力の膜で弾いたので無傷のようだ。


 最後のブラックハイエナが倒され、健一郎が息を切らして座り込む。

「どうした? これくらいで疲れたのか?」

 哲郎が健一郎に声を掛けた。


「五月蝿いな。こんな事なら『パワータンク』を使って、攻撃力を高くするんだった」

 哲郎がゆっくりと首を振る。まだまだだと言いたいらしい。


「アリサちゃんは、ブラックハイエナの攻撃を何かで防いでおったらしいが、何なのだ?」

 哲郎がアリサに視線を向けて尋ねた。


「あれは『オートシールド』という生活魔法です。目に見えない盾が身体の周りを回りながら、守ってくれるものです」


「ほう、便利なもんだな。健一郎にも習わせたいくらいだ」

 どうやら、健一郎は防御が苦手らしい。健一郎が魔石を拾って、こちらに来る。

「祖父さん、キングスパイダーを狩るんじゃなかったのか?」


 ブラックハイエナが放り投げたキングスパイダーは遠くに逃げたようだ。

「心配するな。キングスパイダーは一匹だけじゃないから」

 その言葉通り、別のキングスパイダーの巣がすぐに見付かった。


「よし、おれが手本を見せてやるよ」

 健一郎が言い出した。アリサは健一郎の実力を疑う訳ではないが、不安になったので、

「見本は要りません。私が最初に倒します」


 アリサは断ったのだが、哲郎が面白がって健一郎をけしかけた。健一郎のロングソードは蒼銀製であるが、魔導武器ではない。


 キングスパイダーの外殻は硬いので、同じ場所に何度か斬撃を当てるか、頭胸部と腹部を繋ぐ部分が弱点らしいので、そこに斬撃を撃ち込むかである。


 弱点を狙うには長い脚が邪魔である。健一郎は跳び込んでは頭に斬撃を放つという事を繰り返して、五度目の斬撃でキングスパイダーを仕留めた。


「祖父さん、どうだ?」

「まあまあかな」

 健一郎の動きは素晴らしかった。一瞬で跳び込んで斬撃を放つ様は羨ましいほどだ。ただ蒼銀は、それほど重い金属ではないので威力が足りないように思える。


 魔装魔法の『スラッシュプラス』で切れ味を上げられるようになれば、一段と強くなるかもしれない。


「お祖父さん、キングスパイダーは思ったほど素早くないのですね?」

「ああ、大きくなったので、それほど素早く動けなくなったのだろう」

「外殻は硬いようでしたが、雷撃系の魔法はどうなのです?」


「生活魔法には、雷撃系もあるのか?」

「はい、有ります」

「だったら、雷撃系の魔法は使用禁止だ。戦いがつまらなくなる」


 祖父が理不尽な事を言っている。だが、キングスパイダーに雷撃系の魔法が有効らしい事が分かった。危険な状況になったら、ためらわずに『サンダーボウル』を撃ち込もうと思った。


 キングスパイダーを探して森を歩いていると、五メートルほどの高さにある枝に巣を張っているキングスパイダーを見付けた。


「あれを倒してみろ」

 哲郎が指示した。本来ならクイントサンダーボウルで地面に落としてから、セブンスブレードで仕留めれば良いのだが、祖父から雷撃系を禁じられている。


 仕方ないので、セブンスアローで撃ち落とす事にした。よく狙ってセブンスアローを放つ。その攻撃がキングスパイダーの頭に命中。巣から叩き落とした。


 落ちてくるところにセブンスプッシュを叩き込んで、背後にある木の幹へ弾き飛ばす。キングスパイダーは木の幹にぶつかって跳ね返された。


 そのキングスパイダーにセブンスブレードを叩き込む。それがトドメとなった。アリサが得意とするのは、こういう連続攻撃である。早撃ちを一番熱心に修業したアリサは、息を吐く暇もない連続攻撃を放てるのだ。


 アリサが祖父に目を向けると驚いた顔をしている。その横には口を開けたまま驚いている健一郎の姿があった。

「……見事だ。健一郎よりも実力は上だな」


 祖父はアリサの実力を認めたようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る