第121話 コレクション
アリサの祖父哲郎は、すぐに退院した。医者はもう一日くらい入院する事を勧めたが、病室で身体を鍛え始めた患者に
自家用車で祖父の屋敷に行く。広い土地に豪勢な日本家屋が建っており、庭園まである。車から降りたアリサは、祖父に案内されてコレクションルームに初めて入った。
ズラリと飾られている刀剣類や槍、鎖鎌、弓などが目に入る。そのどれもがダンジョン産だという。これほどのコレクションが有るのなら、黒意杖のような生活魔法使い用の武器があるかもしれない。アリサは期待した。
「凄いコレクションですね」
アリサの言葉を聞いた哲郎は、嬉しそうに頷く。
「そうだろう。この中には魔導装備も有るんだぞ」
哲郎が一つずつ説明を始めたので、アリサはチラリと父親の顔を見た。
「父さん、そんな説明より、アリサが使えそうな武器を見せてください」
「おお、そうだった。アリサが使っているのは、槍だというから……これはどうだ?」
哲郎は重そうな槍を取り出した。
その槍を受け取ったアリサは重すぎると感じた。普段使っている短槍の倍以上の重さがある。
「これは重すぎます」
「そうか、それなら……」
哲郎が別のものを探し始める。
アリサはコレクションを見て回る。刀剣類が多いようだ。ケースの中に並べられた武器の中に、一つ奇妙な武器があった。四十センチほどの蒼銀製の柄に、三十センチほどの黒い刀身が付いている武器だ。
その黒い刀身を見て、アリサはもしかしてと思った。グリムが持つ黒意杖の材質に似ているのだ。
「お祖父さん、これを見ていい?」
「それは魔導武器だが、使い方が分からないものだぞ。そんなものより、この蛇腹剣はどうだ?」
哲郎が手に持っている奇妙すぎる剣を見せた。剣としても鞭として使える武器らしい。相当扱いが難しいと思うのだが、そこを考えているのだろうか?
「それはやめた方がいい。おれも使ってみたけど、もう少しで怪我するところだった」
後ろで黙って見ていた健一郎が忠告した。
「慣れれば役に立つんだぞ」
哲郎が不服そうに言う。仕方ないという感じで蛇腹剣を仕舞い、アリサが指差した武器をケースから取り出した。
哲郎から渡された武器を手に持ったアリサは、意外に軽いのに気付いた。柄の部分がパイプ状になっているのだ。刀身部分は黒意杖と同じく変異したD粒子で出来ていた。『アイテム・アナライズ』で調べてみると、『万形剣』という名前が読み取れた。
「これは生活魔法使い用の武器です。お祖父さん、これがいいです」
「そんなものでいいのか。他にもっと強力な武器があるぞ」
アリサが目を輝かせて、これがいいと言うと哲郎がプレゼントしてくれた。
健一郎が口をへの字に曲げる。
「
「それじゃあ、健一郎が選ぶとしたら、どれにする?」
健一郎は厳重に保管されているバスタードソードを指差した。
「だから、ダメなんだ。『メルクールの剣』は、魔法レベル15で習得する『ファイアブレード』が使えないと本当の威力を発揮できない武器なんだぞ」
健一郎の魔法レベルでは、習得できない魔装魔法らしい。という事で、健一郎には武器のプレゼントはなかった。
その夜は祖父の屋敷に泊まり、翌日の土曜日にダンジョンへ行く事になった。翌日になって、近くにある中級の朱門ダンジョンに三人で潜った。
「今日は五層に居るキングスパイダーを狩りに行こう」
哲郎がそう提案した。キングスパイダーは体長が百五十センチほどある巨大な蜘蛛である。硬い外殻を持っており、魔装魔法使いでも倒すのに苦労する魔物だった。
ただ火炎系の魔法には弱く、『ファイアバースト』で仕留められる。
まずは迷路の一層だった。ゴブリンとビッグラビットに遭遇したが、トリプルアローで仕留めた。
二層の湿原エリアでは三匹のリザードマンに遭遇した。アリサはトリプルプッシュとトリプルブレードを駆使して一匹倒した。健一郎の方を見ると、ロングソードで攻め立て喉を切り裂いて仕留めた。
哲郎は瞬殺してアリサたちがどう戦うか見守っていたらしい。
「生活魔法使いか、中々やるじゃないか」
「世間の生活魔法に対する評価が、低すぎるんです」
哲郎が頷いた。そして、健一郎へ顔を向ける。
「なるほど、健一郎より実力は上かもしれんな」
健一郎が不満そうな顔をする。
「そんなはずはないだろ。おれはE級冒険者なんだぞ」
「ふん、ぎりぎりの合格だったと聞いたぞ」
「ぎりぎりでも合格は、合格だ」
アリサはE級の昇級試験を受けようかと思った。先日、試験を受ける資格を認められたのだ。
三層の草原エリアではオークと遭遇したが、アリサは瞬殺した。その早さは、B級冒険者であった哲郎と同じほどだった。それを見ていた健一郎は目を丸くする。
「おいおい、祖父さんと同じ瞬殺かよ」
「生活魔法使いは、早撃ちの練習をするからですよ」
「早撃ち……へえー、そんな練習をするんだ」
「ほう、攻撃魔法使いの中にも、早撃ちの練習をする者も居るが、珍しいんだぞ」
哲郎の言葉を聞いて、アリサは『そうなんだ』と頷いた。
三層と四層は問題なく突破して、五層に下りた。五層は森林エリアで、キングスパイダーが森に巣を張って待ち構えているらしい。
その巣にブラックハイエナが引っ掛かっていた。その仲間を助けようと多数のブラックハイエナがキングスパイダーに襲い掛かり、巣から引きずり下ろし噛み殺そうとする。しかし、その外殻が硬すぎて噛み砕けない。
ブラックハイエナはキングスパイダーを引きずり回し、森の中に放り投げた。
「魔物と魔物が戦うんだな。初めて見た」
健一郎が呟いた。アリサも初めてだったが、その事に驚くよりブラックハイエナが気になった。三十匹ほど居るブラックハイエナが、アリサたちを襲うのではないかと思ったのだ。
案の定、匂いでアリサたちに気付いたブラックハイエナが、取り囲んだ。アリサは包囲される前に素早く『オートシールド』と『センシングゾーン』を発動する。
哲郎と健一郎も魔装魔法を発動したようだ。祖父がアリサの方に顔を向けた。
「大丈夫か?」
「これくらいは慣れているので、大丈夫です」
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