第108話 魔導工房とD級昇級試験

 アリサたちの飛行訓練を行った翌日、俺は電車で東京まで行った。

 先端技術を使えなくなった世界は、エネルギー不足になっていた。石炭はそうでもないが、天然ガスや石油採掘には先端技術が使われていたのだ。その技術が使えなくなって天然ガスや石油の採掘量が激減している。


 また最新技術の塊である原子炉も動かなくなっていた。集積回路などを一切使わない原子炉の開発は可能だが、安全面の保証ができない。


 結局、不足分のエネルギーは、黄魔石から取り出す電気で供給している。世界全体がエネルギー不足であり、交通機関は効率が良い鉄道やバスが主力となっていた。


 東京の蒲田駅で降りた俺は、冒険者ギルドで教えてくれた魔導工房へ向かった。魔物探知装置などの高価な魔道具は注文生産なので、実際に工房へ行って注文するのが普通なのだそうだ。


宍戸ししど魔導工房か、ここだな。ごめんください」

 俺の声で奥から四十歳ほどのおばさんが出てきた。

「あんた、お客さんかい?」


「そうです。冒険者ギルドの近藤支部長の紹介で来ました」

「へえー、近藤のね。何を作って欲しいんだい?」

「魔物探知装置を二つです」


「うちの魔物探知装置は、一つ二千八百万だけど、払える?」

「それは大丈夫です。『診断の指輪』をオークションに掛けましたから」

「若いのに頑張っているんだね」


 そのおばさんが、工房長の宍戸すずだという。近藤支部長とチームを組んで冒険者をしていた事が有るのだそうだ。


 俺は宍戸工房長と話をして、探知範囲などを決めた。

「最後に、あんたの魔力波形を登録してもらおう。魔力で魔道具の制御をするから、必要なんだよ」


 高価な魔道具は、ほとんどが魔力制御になっている。他人が盗んでも使えなくするためである。俺は宍戸工房長に教わって、魔力波形の登録を行った。


 きちんと契約書を作成してサインする。宍戸魔導工房の銀行口座に代金を振り込めば、製作に取り掛かるという。製作するには、高価な素材が必要となるので、前払いが原則だと言われた。


 契約書もきちんとしたものだし、近藤支部長の知り合いなので信用しても良いだろう。俺は契約書をマジックポーチに仕舞い、工房を出て銀行へ向かった。

 銀行で宍戸魔導工房の銀行口座に代金を振り込んでから、この町の冒険者ギルドへ行く。


 渋紙市の冒険者ギルドは、規模が小さいのでD級冒険者への昇級試験を三ヶ月に一度だけしか行っていない。俺が気付いた時には昇級試験が終わっており、三ヶ月待つか別の冒険者ギルドで受けるかになっていた。


 俺は魔物探知装置を発注するついでに、ここの冒険者ギルドで昇級試験を受けようと思ったのだ。宿無しのスティールリザードを倒した事で、D級冒険者になる資格があると認められている。


 ここの冒険者ギルドは、渋紙市より三倍ほど規模が大きかった。カウンターでD級の昇級試験について尋ねると、明日行われる予定であり、今日の夕方までに申し込めば受けられるらしい。


「D級の昇級試験を受けます」

 若い女性のギルド職員が、申請用紙を渡してくれた。それを記入して返すとチェックする。

「ん、生活魔法使いなんですか?」


「ええ、問題ないですよね」

 ギルド職員は頷いた。

「はい。でも、生活魔法使いの方が、D級の昇級試験を受けるのは初めてだと思いますよ」


 そうなんだろうな。だけど、これからはどんどん増えるだろう。

 その昇級試験なんだが、この町にある上級ダンジョンで行われるらしい。上級ダンジョンの五層が中級ダンジョンの二十層に相当するので、そこの魔物と戦わせて実力を確かめるようだ。


 その日はホテルに泊まり、朝早く上級の雷神ダンジョンへ向かった。ダンジョンハウスで着替えて、その前で待つ。


 時間になって、試験官と同じ受験者が集まった。

「よし、全員揃ったな。私は試験官のC級冒険者、垂水たるみず信吾しんごだ」

 試験官は三十代の冒険者で、魔装魔法使いらしい。


 受験者の一人京極一郎が、俺の横に来て垂水に質問する。

「試験官。合格するには、五層のアーマーベアを倒す事だと聞いた。五層へ行くまでに遭遇する魔物との戦いも試験範囲なのか確認したい」


 垂水が頷いた。

「そうだ。魔物と遭遇したら、協力して戦ってもらう。なので、自己紹介から始めよう」


 試験に参加する人数は五人。攻撃魔法使いが二人、魔装魔法使いが二人、生活魔法使いが一人だ。今、質問した京極は、魔装魔法使いだという。


 俺が生活魔法使いだと自己紹介すると、お馴染みの反応が返ってきた。試験官である垂水が首を傾げ、他の受験者たちが何で生活魔法使いが混じっているのだという顔をする。


 垂水が俺にだけ質問した。

「今まで倒した魔物の中で、最も強敵だったのは、何だ?」

「単独で倒した魔物となると……オークジェネラルです」


「そうか。それなら十分な実績がある」

 後ろの方から、俺の言葉を疑っている声が聞こえてきたが、そいつらには実戦で実力を示せば良い。


 雷神ダンジョンに入って驚いた。一層は草原エリアだったのだが、中級ダンジョンとは違い、広大なのだ。試験官に聞くと縦横十五キロの草原だそうだ。


 しかも、狂乱ネズミからアーマードウルフまでの様々な魔物が棲息している。中でも強敵なのが、ハイゴブリンとオークソルジャーだという。


 ハイゴブリンは魔法を使い、オークソルジャーはバトルアックスを武器にして襲い掛かってくるようだ。オークソルジャーは問題ないと思うが、ハイゴブリンの魔法は気を付けなければならない。


 京極が横に並んだ。

「なあ、生活魔法で魔物を倒せるのか?」

「倒せますよ。皆が生活魔法をよく知らないから、疑問に思うんです」


「へえー、そうなんだ」

 アタックボアが襲ってきた。俺はクワッドジャベリンを放って仕留めた。どうやって仕留めたか、皆は分からなかったようだ。だが、俺が仕留めた事だけは気付いたらしい。


 襲ってきた魔物のほとんどを俺が仕留めると、垂水が近寄り口を開いた。

「皆で協力して、と言っただろ。一人で倒すな」

 怒られてしまった。普段通り戦っていたのだ。ただ魔法の発動が早いので、皆の分も魔物を倒す結果になっただけである。気を付けよう。


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