第109話 魔力配分

 なるべく他の受験者たちに魔物を任せるようにして、俺に襲い掛かってくる魔物だけを仕留めた。但し、ハイゴブリンを発見した時だけは、速攻で仕留める。魔法を使わせないためだ。


「上級ダンジョンには初めて潜ったけど、魔物が多いな」

 同じ受験者の京極が、うんざりした顔で言った。


 京極の武器は黒鉄製大太刀である。襲ってくる魔物が、弱いか強いかで魔装魔法を使うかどうか迷うようだ。弱い魔物にまで魔装魔法を使っていたのでは、五層のアーマーベアと戦う前に魔力が尽きるかもしれない、と考えているのだろう。


 一方、俺は普段通りの戦い方で五層まで行っても魔力は尽きなかったと思う。『効率倍増の指輪』が有るのに加え、生活魔法が省エネだと分かっているからだ。


 それでも、魔力を温存するために節約するというのは、冒険者にとって正しい判断である。見習おうと思った。


 狂乱ネズミや角豚は、黒意杖の細剣突きで倒す事にした。その細剣突きを初めて見た京極が目をみはる。

「へえー、魔導武器も持っていたのか。ボスドロップか?」

「まあ、そんなものだ。生活魔法使い専用の魔導装備なんだ」


「生活魔法使い専用……どういう意味?」

「生活魔法の才能がないと、使えない」


 一層は魔法を使わずに倒せる魔物が多かった。だが、二層へ下りると手強い魔物が多くなる。二層は広大な荒野であり、そこに棲み着いているのはキングスネークやブルースコーピオンと呼ばれる体長二メートルもある大サソリなどの魔物だ。


 とは言え、受験者たちにとって手子摺るほどの魔物ではなく、順調に攻略した。俺たちは三層に下りる。三層は大きな町の廃墟だった。そこをうろついているのは、スケルトンソルジャー・スケルトンナイト・ファントムなどのアンデッドに加え、トロールゾンビが居るそうだ。


 受験者の全員が聖属性付きの武器を持っていた。俺が手強そうだと思ったのは、トロールゾンビだけである。


 トロールゾンビは身長四メートル、手には棍棒を持っている。ブンブンと振り回す棍棒を避けながら、俺たちは攻撃した。


 攻撃魔法使いの受験者が『クラッシュバレット』を発動した。破砕魔力弾がトロールゾンビに向かい、その胸に命中して爆発する。


 巨人の胸に穴が開いたが、それは致命傷にはならなかった。もう一人の攻撃魔法使いが『プロミネンスノヴァ』を使った。螺旋状に渦を巻きながら伸びた炎の帯が、トロールゾンビに命中して包み込み高熱で焼く。


 炎が消えた後、焼けただれたトロールゾンビが姿を現した。こんがりと焼けた巨人が出来上がっている。だが、すでに死んでいるゾンビを焼いても活動を停止しない。


 但し、動きが遅くなったようだ。魔装魔法使いの二人が槍と大太刀で戦い始めた。二人は跳躍してトロールゾンビの首を狙い始める。


 だが、トロールゾンビの首の位置は高く、簡単には切らせてくれない。トロールゾンビが棍棒を振り回しながら、こちらに近付いてきた。


 巨人が棍棒を振り上げ、俺の真上から振り下ろす。クイントカタパルトを発動。俺の身体がD粒子リーフで作られた巨人の手に掴まれ、左斜め上の空中に投げ上げられる。


 空中で『エアバッグ』を発動。D粒子エアバッグにバスンと受け止められた俺は、もう一度クイントカタパルトを発動した。今度はトロールゾンビの後頭部を掠めるような軌道で空中を高速移動する。


 身体の負担が大きい。それでもトロールゾンビの背後を通り過ぎる瞬間、クイントブレードで巨人の首を切り裂く。巨大な頭が地面に落下した。


 京極が落下した頭を大太刀で真っ二つにした。アンデッドは首を刎ねられても仕留められないものが居るので、念のためにトドメを刺したようだ。


 垂水が俺の傍に来て話し掛けた。

「今の魔法も生活魔法なのか?」

「そうです。『空中機動』と名付けようかと思っています」


 垂水が笑った。

「それより、そんな大技を使って魔力は大丈夫なのか?」

 俺は左手の中指にはめている指輪を見せた。


 垂水は、それが何か気付いて目を丸くする。

「もしかして、『効率倍増の指輪』か?」

 俺が頷くと垂水が苦笑いする。


「そういう事か。魔力の配分を考えずに魔法を使っているという事で、減点しようかと考えていたが、あれくらいでは節約する必要がなかったのか。聞いて良かったよ」


 それを聞いた俺は、垂水に怒られた真の理由が分かった。この試験では魔力配分を考慮しているかという事も試験対象だったのである。それなのに、俺が魔物を片っ端から仕留めたので、他の受験者が魔力配分を考えているのかチェックできなかったのだ。


 他の受験者が威力のある魔法を使わないのは、魔力配分を考えていたからだ。それに気付いた俺は、この事もアリサたちに教えなければ、と思った。


 階段まで到達した俺たちは、四層へと下りた。四層は山岳エリアだ。三つの山があり、その間を縫うように山道がある。


 その山道を進んだ。ここには数多くの魔物が棲息しているという。ゴブリンやブラックハイエナにも遭遇する事があるらしい。ブラックハイエナの群れに遭遇した場合、大量の魔力を消費する事になり最悪だ。


 そんな事を考えたせいなのか、ブラックハイエナの群れに遭遇した。

「こんなところで……運が悪いぜ」

 京極が溜息を漏らした。


 ブラックハイエナの群れは、四十匹ほど居るようだ。

「一人八匹ほどだ。君たちの実力なら、問題ないだろう」

 試験官の垂水がそう言った。俺は魔力を節約するには、どの生活魔法を使ったらいいか考えた。


 ブラックハイエナの一匹一匹は、それほど強くないのだ。だが、数が多い。どういう戦い方が良いだろう。


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