第107話 飛行訓練

 天音にも柿本を持ち上げるだけの力を持った者が、下へ行く必要が有ると分かっていた。

「それじゃあ、二人で下りようよ。生活魔法に使える魔法が有るの」


 支部長や父親の弘樹は、理解できず首を傾げた。

「ロープは持って来たんだよね?」

「もちろんだ」

 支部長が答えたので、天音はグリムから聞いた方法を試す事にした。


 『ウィング』の魔法を発動する。赤く輝くサーフボードのようなものが出てきて、支部長たちが驚いた。天音は説明して、ロープでブランコのようなものを作り、D粒子ウィングに縛り付ける。


 D粒子ウィングに天音が座り、少し浮き上がらせた。

「天音ちゃん、それって自由自在に飛べるのか?」


 支部長の質問に天音は頷き、父親をブランコに乗せると、谷底へとゆっくり飛んだ。鞍を持ってきていないので、落ちないように慎重に飛ぶ。


 下に到着すると、父親の顔が青褪めていた。

「お父さん、大丈夫?」

「お、おう、大丈夫だ。柿本は……」

 柿本は生きていた。だが、かなりの重傷だ。


 そこでD粒子ウィングの上に柿本を載せてロープで固定すると、そのまま上に飛ばす。支部長たちの声の誘導で支部長のところまで運んだ。


 その後、天音たちも戻って来た。

「天音ちゃん、よくやった。生活魔法は凄いな」

「そうでしょ。なのに、生活魔法の評価が低いの」

「そうだな。我々も認識を改めなきゃならんな」


 天音の活躍で、この町における生活魔法の評価が高まった。助けた柿本は病院に搬送され、全治三ヶ月という診断を受けたようだ。


 実家で三日ほどゆっくりした天音は、学院に戻った。アリサたちと一緒に飛行訓練をする事になっているのだ。


 寮の部屋に入ると、由香里が勉強していた。

「お帰り」「ただいま」


「鞍と鎧が完成しているよ」

 由香里が工房から完成した鞍と革鎧を持ち帰っていた。銀色だったスティールリザードの革は、渋い飴色になっていた。銀色だと目立つので、この色にしてくれと頼んだのである。


「天音、家族とゆっくりできたの?」

 由香里が尋ねた。

「もちろんよ。お母さんの料理をたらふく食べてきたよ。由香里は実家に帰らなかったの?」


 クラスメートの顔が曇った。

「両親とも忙しいから、帰っても誰も居ないのよ」

 由香里の両親は医者らしい。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 翌日、天音・アリサ・千佳・由香里の四人が揃って、水月ダンジョンの前に集合した。

「おはよう、皆早いな」

「グリム先生、おはようございます」

 俺が挨拶すると、四人が一斉に挨拶を返した。


「皆、その革鎧はどうだ?」

「さすが名人が作ったものですね。身体にぴったりです」

 アリサを含めた皆が、満足しているようだ。ちなみに、俺の頼んだ脛当ても満足のいくものだった。


「今日は、十三層の砂漠エリアへ行って、飛行訓練をする」

 俺たちは最短ルートで十二層まで行った。そこで偶然に鉄心チームと会う。

「おっ、グリムたちじゃねえか。どこに行くんだ?」


「砂漠エリアですよ。鉄心さんは、まだ宝物庫探しですか?」

「ああ、中々見付からねえんだ。グリムの時は、宝物庫への入り口が、どこにあったんだ?」

「四階の物置みたいな部屋に隠し階段が有りましたけど、支部長から毎回入り口が変わると聞きましたよ」


「そうなんだよな。しかし、参考にはなった。ありがとう」

 俺たちは鉄心たちと別れて、十三層の砂漠エリアへ向かった。


「グリム先生、私たちも宝物庫に挑戦しませんか?」

 アリサが提案した。

「でも、俺は一度ソロで宝物庫に入っているぞ」


「二度入ったら、ダメという決まりが有るんですか?」

「いや、ないけど……入り口を見付けるのが難しくなるという、噂を聞いた」

「試すだけならいいじゃないですか?」


「まあ、そうだな。だけど、鉄心チームが宝物庫を見付けるか、諦めるまで待とう。横取りするようで、悪いからな」

「そうですね」


 そんな話をしながら階段を下りた俺たちは、砂漠エリアに到着した。

 『ウィング』を発動したアリサたちが、慣れない手付きで鞍を取り付ける。天音と由香里は二人乗り用だ。


 二時間も練習すると、アリサたちは自由自在に乗りこなせるようになった。二人乗りをしている天音のD粒子ウィングは、使用時間が少し短いようだが、大した違いではなかった。


 俺もD粒子ウィングに跨り、魔物を狩った。この砂漠に棲息する魔物は、サンドウルフとプチサラマンダーである。サンドウルフは近付かなければ大丈夫だ。


 だが、プチサラマンダーは口から炎を吐き出すので、気を付けなければならない。但し、プチサラマンダーが残す魔石は、赤魔石<小>なので良い小遣い稼ぎになる。


 天音たちは上空から魔物を攻撃するのが面白いようで、次々に魔物を倒している。

「そろそろ戻ろう!」

 俺が声を掛けると、アリサたちが戻って来た。


 アリサと千佳も目をキラキラさせている。楽しかったようだ。

「ここが、十三層じゃなく一層だったら、もっと長く練習できたのに」

 天音が不満そうだ。


 そんなダンジョンが有るのだろうか? 今度探してみよう。

「ところで、夏休みの宿題とか、終わったのか?」

 俺が尋ねると、アリサたちは頷いた。夏休みの最初に、四人で協力して片付けたそうだ。


「だったら、これをプレゼントしよう」

 俺は『カタパルト』の魔法陣をアリサたちに渡した。由香里には峰月からもらった『ソードフォース』の魔法陣を渡す。


「あれっ、これは『ソードフォース』じゃないですか。どうしたんです?」

「C級冒険者の峰月さんからもらったんだけど、俺には攻撃魔法の才能がないからな」


「これが習得できる魔法レベルは『13』ですから、あたしもまだ習得できません。でも、早く習得できるように頑張ります」


 俺は優しく笑う。

「十分に頑張っているよ。もっと遊んでもいいんだぞ。せっかくの夏なんだから、皆で海とか行けばいい」

「グリム先生は行かないんですか?」


「俺はちょっと東京へ行ってくる」

「へえー、東京ですか。何しに行くんです?」

「魔道具を買いに行く」


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