第3章 中級ダンジョン編

第100話 砂漠の飛行

 水月ダンジョンの四層に現れた『宿無し』と呼ばれる魔物を倒した経緯いきさつが、週刊誌『渋紙ダンジョン』で記事となった。


 その事で注目を集めた俺は、生活魔法について話を聞きたいという冒険者と会う機会が多くなった。多くなったと言っても、週に一度ほどなので、そのうち居なくなるだろう。まだまだ生活魔法がダンジョンで使えるという事実を認める人は少ないのだ。


 革細工職人の広末から、鞍が出来たという連絡が入ったので、取りに行った。

「おう、ここだ」

 工房の奥に居た広末が完成した鞍をチェックしている。


「試してみてくれ」

 庭に出た俺は『ウィング』を発動して、D粒子ウィングを形成し鞍を付ける。その鞍に跨りシートベルトを付けてから、少し飛んでみた。


 その様子をジッと広末が見ている。問題ないように思えた。

「大丈夫なようです」

「良かった。お嬢ちゃんたちの分は、弟子たちに作らせているから、もう少し待ってくれ」


「色々無理を聞いてもらって、ありがとうございます」

「中々面白い仕事だった。次はスティールリザードの革を使った防具に取り掛かる」


 俺は代金を支払い鞍をマジックポーチに仕舞うと、水月ダンジョンへ行った。ダンジョンに潜った俺は、十三層の砂漠エリアへ向かう。


 あの広い砂漠エリアで、D粒子ウィングで思い切り飛んでみようと思ったのだ。砂漠エリアに到着し『ウィング』を発動。


 D粒子ウィングに鞍を取り付けると、跨りシートベルトを締める。両足をあぶみに乗せ踏ん張ると飛び上がった。砂漠の中心に向かって飛行する。前進・上昇・降下・右旋回・左旋回・後進と自由自在に飛び回ると、風が身体に当たり爽快な気分になって楽しい。


 時速三十キロほどで砂漠の上を飛んで、砂漠の中心まで到達。この下に十四層への階段があるはずだ。魔力センサーを出して、魔力を発しているものを探す。


「見付けた。あそこに階段がある」

 簡単に魔法装置でもある階段を探し当てた。砂漠を歩いた時には、もの凄く大変だった事が、簡単な事に変わった。


 俺は階段を下りなかった。今日はD粒子ウィングを試すだけにするつもりなのだ。砂漠の上を飛びながら、魔物を探す。三分ほどでプチサラマンダーを発見し、上空からクイントジャベリンを放って仕留めた。


 しばらく飛行を楽しんでいると、D粒子ウィングの速度が遅くなる。

「時間切れかな」

 俺は着陸し、D粒子ウィングが時間切れで消えるのを観察した。


 もう一度『ウィング』を発動して、鞍を付けてから飛び立った。サンドウルフを発見して、その周囲を旋回しながら、クイントサンダーアローを撃ち込んで仕留める。


 砂漠の上を飛び回り、飛行技術を磨いた。急降下して魔物を攻撃する事もできるようだ。だが、急激なジーが身体に掛かり、普通の狩りではやらない方が良いだろう。


 満足したので、地上に戻る事にする。地上に戻ってダンジョンハウスでシャワーを浴びて着替えた。装備をマジックポーチに入れ外に出ると、景色が真っ赤に染まっている。


「もう夕方か。砂漠で遊びすぎたかな」

 途中で牛丼屋に寄って夕食を済ませてから、冒険者ギルドへ行く。


 魔石を換金してから帰ろうとした時、鉄心に捕まった。

「グリム、雷撃系の生活魔法を使っていたよな。おれにも教えてくれないか。頼む」


「鉄心さんたちは、十二層で活動中でしたよね。もしかして、宝物庫を狙っているんですか?」

「そうなんだ。おれたちも強力な武器が欲しいんだよ」


 鉄心の生活魔法は、魔法レベル5だという。雷撃系となると『サンダーボウル』となるだろう。鉄心からは色々と情報をもらっているので、魔法陣をプレゼントした。


「いいのか。金は払うぞ」

「いいんですよ。色々教えてもらっているんですから」

「そう言うなら、ありがたくもらうよ。ところで、水月ダンジョンにソロ冒険者の峰月ほうげつ喜重郎きじゅうろうが来るらしいぞ」


 ソロで活動している冒険者は珍しく、その中でもC級以上になっている者は、週刊誌の中で一番売れている『週刊冒険者』でも特集を組むほどである。


「へえー、何が目的で峰月さんは来るんです?」

「十九層にある蒼銀鉱床を掘って、蒼銀を手に入れるつもりのようだ」


 蒼銀は魔道具の製作で必要とされる金属である。金よりも高価であり、これを採掘する専門の冒険者も居るくらいに需要がある。


「水月ダンジョンには、蒼銀専門のチームは居るんですか?」

「ああ、『月華団』というC級冒険者チームが居るぞ。攻撃魔法使いが二人、魔装魔法使いが二人というバランスのいいチームだ」


 生活魔法使いが一人も居ないという時点で、バランスが悪いと思うのだが、まあいい。

「その『月華団』は、面白くないんじゃないですか?」

「まあな。だけど、蒼銀鉱床は『月華団』のものじゃねえからな」


 蒼銀鉱床の場所は十九層なので、俺は行った事がない。鉄心は前のチームで行った事が有るそうだ。鉄心チームを作る前に入っていたチームは、『空前絶後』である。


 一時期四文字熟語をチーム名にする事が流行った時期があり、その時に作られたチームらしい。D級冒険者チームだったようだ。


 受付の加藤が俺の名前を呼んだ。何だろう?

 受付に行くと、意外な依頼を受けた。峰月と一緒に十九層へ行って欲しいと言うのだ。峰月は十九層まで行けるだけの実力があり、鉱石から目的の金属だけを取り出せる生活魔法の『ピュア』を使える冒険者を探しているという。


「『ピュア』を使える冒険者は、多いんじゃないですか。なぜ俺なんです?」

「ええ、そうなんですが、ほとんどがチームに入っているので、断られました」


 十九層へは行きたいと思っていた。峰月が連れて行ってくれるなら、俺としても好都合だ。

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