第101話 峰月の実力

 峰月が『ピュア』が使える冒険者を探していると聞いた翌日、俺は冒険者ギルドで峰月喜重郎と会った。

「ほう、若いな。君は攻撃魔法使いなのかね?」

「いえ、生活魔法使いです」


 三十代らしい峰月は、俺の頭から足の先まで見てから、

「冗談だろ、生活魔法使いだって。私は十九層まで行ける実力のある冒険者に手伝って欲しいんだ」


 俺は肩を竦めて、

「榊グリムです。今、十四層で活動しています」

「十四層……それが本当なら、実力は有りそうだけど……」


 うんざりするような展開だが、峰月が普段活動している地方では生活魔法の評価は変化していないのだろう。

「少し前にスティールリザードを倒しています。実力は問題ないと思いますけど」


「生活魔法使いが、どうやってスティールリザードを倒したのかね?」

「新しい生活魔法が、最近増えているんです」

「ふーん、ダンジョンに潜っている間に、世の中が変わったようだな」


「峰月さんは、水月ダンジョンへ潜った事が有るんですか?」

「四年ほど前に、二十五層まで潜った経験が有る」

 という事は、二十層のオークキングの城を突破した事になる。この人はオークキングと戦ったのだろうか?


「凄いですね。オークキングと戦ったんですか?」

「いや、オークキングは倒された後で、まだリポップしていなかった。だが、オークジェネラルとオークナイトは居た。あの時は、何匹のオークナイトを倒したか、数え切れないほどだ」


 オークキングの城には、オークジェネラルも居るらしい。厄介な事だ。

「私は生活魔法で戦っている冒険者を見た事がない。信用しない訳ではないが、訓練場で披露してくれないか?」


「当然でしょうね」

 俺はセブンスプッシュとセブンスジャベリンを見せた。それで峰月は納得したようだ。


「生活魔法が、これほど進歩していたとは思わなかった。報酬について相談しよう」

 俺は成功報酬として、蒼銀の三割をもらう事に決めた。十四層以降で遭遇する手強い魔物は、峰月が始末するという。


「十四層の湖は、どうやって渡るんです?」

「船を用意してある」

 冒険者用の小型船を建造して所有しているらしい。一流の冒険者とは装備に金を惜しまないようだ。


 ダンジョン内で野営する装備もあるらしいので、その辺は用意しなくてもいいという。その翌々日、俺は食料と水だけを用意して、峰月と一緒に出発した。


 一層から十二層までは順調に進み、十三層の砂漠エリアとなった。俺は歩いていくのか、と思っていたが、峰月が巾着袋型のマジックバッグから四輪バギーを取り出した。


 どう見ても二人乗り用ではない。無理に二人乗りするとなると、後ろから峰月に抱きついて座る事になるだろう。

「俺はどうするんです?」

「仕方ないだろう。後ろに……」


「お断りします。俺は自分で行きますから」

「まさか、砂漠を歩くのか?」

「生活魔法には、便利な魔法も有るんですよ」


 俺は『ウィング』を発動して、D粒子ウィングを出した。峰月が驚いたような顔で見ている。

「それは?」

「生活魔法使いの移動手段です」


 俺は鞍を付けて跨ると飛んだ。

「『フライ』みたいな魔法とは違うようだな。魔力は大丈夫なのか?」

「生活魔法は、他の魔法より効率がいいんです。先に行って待っています」


 俺は砂漠の中心へ行って、階段を探し峰月を待った。しばらくすると砂埃を撒き散らしながら、峰月のバギーが走ってくるのが見えた。


 声に出しては言わないが、峰月に抱きつくのも嫌だったが、砂塗れになりそうなバギーも嫌だった。到着した峰月がマジックバッグにバギーを仕舞ってから、鎧や服を叩く。それらから大量の砂埃が舞い上がった。


「だから、砂漠は嫌なんだ」

 峰月が愚痴を零す。そして、俺に鋭い視線を向けた。

「そんな魔法が有るなら、先に言ってくれ」


「そう言っても、あれは一人乗り用ですから」

「二人分の体重を支えられないのか?」

「峰月さんなら、大丈夫だと思いますけど、鞍には一人しか座れません」


 峰月が残念そうな顔になった。俺たちは魔法装置の階段を下りて、十四層に到達した。ここからは未知の領域だ。


「ここも、先程の魔法で渡ろうと思っていたのかね?」

「そうです。ボートも購入しようと思っていますけど、マーマンが槍で突くそうじゃないですか」

「ああ、安物のボートだと沈む事もある」


 やっぱり安物はダメなのか。峰月がどういう船を持っているのか興味が湧いた。その船も巾着袋型マジックバッグから出てきた。そのマジックバッグは、相当な容量があるらしい。もしかしたら、ドラゴンを倒して手に入れた逸品なのかもしれない。


 マジックバッグから姿を現した小型船は、真っ黒な船体をしていた。

「これは、もしかして黒鉄製ですか?」

「よく分かったな。鋼鉄船よりも丈夫な黒鉄製の船だ」


 俺が小型船に近寄ろうとした時、湖の底を巨大な何かが動いた。

「峰月さん、何かデカイ化け物が居ます」

 それを聞いた峰月は、渋い顔になった。理由を聞くと、この湖には『ぬし』と呼ばれる巨大なブラックゲーターが一匹棲み着いていたそうだ。


「普通のブラックゲーターは、五メートルほどだが、主は十メートルほどある大物だ。四年前に退治されたと聞いたが、もしかして復活したのか?」


 峰月が湖を覗き込んだ。

「げっ、逃げろ!」

 その叫びを聞いて、俺は階段へと逃げ込んだ。それを追うように巨大なワニが湖より現れ、階段の出口である数少ない陸地を這って来る。


 俺と峰月は、なんとか階段に逃げ込む事に成功した。主は俺たちを追って階段まで迫ったが、さすがに階段には入って来ない。


「危なかった」

 俺がそう言うと、峰月が笑い出した。

「笑うような状況じゃない、と思いますけど」

「いや、逃げ出した時のグリムの顔。滅茶苦茶引きつっていたぞ」


「峰月さんだって、『げっ』とか言っていたじゃないですか」

「いや、あれを間近で見れば、変な声も出るさ。それよりどうするかな?」


「ここは、峰月さんの魔法で、どどんと始末してください」

 峰月を見ていると、ダンジョンを楽しんでいるように見える。まだまだ余裕が有るからだろう。その実力を見せて欲しかった。


「そうだな。『デスショット』、いや『ソードフォース』にしよう」

 『ソードフォース』は魔法レベル13で習得できる攻撃魔法だ。俺は名前だけは知っているが、見た事はなかった。外に目を向けると、主は階段の外で待ち構えている。


 峰月が右手を主に向かって突き出した。その手の先に一メートル半ほどの三日月型をした魔力の刃が生まれる。大量の魔力を注ぎ込んで生まれた魔力刃は、青白い光を放ち撃ち出された。一瞬で音速を超え衝撃波が生まれる。そして、主の胴体に命中すると真っ二つに切断した。


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