第98話 スティールリザードのドロップ品

 スティールリザードは怒り狂って、松本と藤井を追撃しようとした。俺はセブンスサンダーアローをスティールリザードに向けて放つ。


 セブンスサンダーアローは驚異的な防御力を誇るスティールリザードの鱗に弾かれた。だが、電流は魔物の体に流し込まれ、ダメージを与える。但し、一時的に動きを止めただけで、すぐに動き出した。


 アリサと天音がセブンスサンダーボウルを放った。最初から貫通させるのを諦め、電流だけの攻撃でダメージを与えるつもりのようだ。


 そして、スティールリザードの動きが止まった瞬間を狙って、千佳がセブンスハイブレードを放つ。セブンスハイブレードの先端が音速を超え衝撃波を生み出しながら、スティールリザードの上に振り下ろされた。


 セブンスハイブレードが銀色の鱗を持つ魔物に命中し四十センチほど食い込んだ。そして、衝撃波がスティールリザードを痛め付ける。


 普通の魔物なら、四十センチもV字プレートが食い込めば死ぬ。だが、スティールリザードは呆れるほどタフで大きかった。とは言え、体液が流れ出し動きもぎこちないものになっている。


 それを見た鉄心は、心底驚いた。

「マジかよ。凄え」

 近藤支部長も目を見開いて驚いていた。


 俺はトドメを刺す事にした。

「最後のトドメは、俺に任せてくれ。試したい新しい生活魔法が有るんだ」

 俺はセブンスサンダーボウルと『ライトニングボム』で攻撃するように指示した。


 三つのセブンスサンダーボウルと『ライトニングボム』がスティールリザードを襲い感電させた。魔物の動きが止まった時、セブンスヒートシェルを発動する。


 ボウル状のD粒子に金属を投入し砲弾状に変形。スティールリザードの心臓がある辺りを目掛けて撃ち出した。その瞬間にD粒子シェルが消えたように見えるほどの速度で飛翔する。


 D粒子シェルがスティールリザードの側面に命中した瞬間、超高熱が発生し銅を溶かし液体化。圧縮された空気も超高熱でプラズマ化し爆発的に膨張する。

 急激に熱膨張したプラズマは爆轟波となり、液体化した銅をメタルジェットとして前方に噴出させた。


 ドゴォンと爆発音が響き爆風が押し寄せてきた。何が起きるか知らなかったアリサたちは、尻餅をついた。それは支部長たちも同じで、警告しなかった事を後悔する。


 爆風が収まった時、スティールリザードの胴体をメタルジェットが貫通し、背後にあった岩にめり込んでいた。倒れたスティールリザードの姿が消える。


 地面にペタンと座り込んでいたアリサたちが、一斉に俺の方へ視線を向けた。

「……グリム先生、今のは?」

 由香里が目を見開いたまま、俺に質問した。

「『ヒートシェル』という新しい生活魔法だ」


「……凄い、凄い。滅茶苦茶凄いです」

 天音が感動したような顔で、俺を見た。その時、負傷した攻撃魔法使いの事を思い出した俺は、松本と藤井のところへ駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

 二人には初級治癒魔法薬を飲ませたらしい。内臓の傷はだいぶ回復したようだ。だが、骨折は初級治癒魔法薬では治らない。


「高価な鎧が二人の命を助けたようだ」

 支部長がホッとしたように言った。そして、スティールリザードが倒れた辺りに視線を向ける。


「グリムたちは、宿無しが何か残してないか探してくれ」

「宿無しもボスドロップのようなものを残すんですか?」

「残す時もある。まあ、特別な魔物を倒すと、何らかのアイテムを残すものだ」


 残してもおかしくないほど、スティールリザードは手強かったという事だろう。俺たちは何か残っていないか探した。と言うか、すぐに目に入った。銀色に輝くスティールリザードの皮が落ちていたのだ。全長が六メートルもある化け物の皮である。


 次に魔石を見付けた。黒魔石<中>だ。これだけで三千万円くらいにはなるだろう。最後に天音が、魔法薬が入っているらしい入れ物を発見した。


 アリサが『アイテム・アナライズ』で確かめる。

「嘘っ、これは上級治癒魔法薬よ」

 上級治癒魔法薬は滅多に手に入らない魔法薬である。オークションで数千万円の値段が付いたと聞いた事があった。


 万能薬と呼ばれる薬ほどではないが、どんな大怪我でも治療する事ができるらしい。それに損失した指などを再生できると聞いている。但し、病気を治す効果はない。


 俺は皮を丸めて担ぐと支部長のところへ行った。

「支部長、ドロップ品は、この三つでした」

 近藤支部長が皮と魔石、魔法薬を見て頷いた。


「その魔法薬らしいのは、何だろう?」

 支部長の疑問に、アリサが答えた。

「上級治癒魔法薬です」


 少し驚いたような表情を浮かべ、支部長が頷いた。

「ほう、君は『アイテム・アナライズ』ができるのか。優秀だな」


 負傷者を魔装魔法使いたちが担いで戻る事になった。地上に戻ると、救急車が呼ばれ二人は病院へ運ばれた。


 それを見送った鉄心が、俺のところへ来た。

「グリム、最後に仕留めた魔法は、何だ?」

「『ヒートシェル』という生活魔法です」

「生活魔法に『デスショット』並みの魔法があるのかよ。恐るべしだな」


 俺たちは冒険者ギルドに戻り、支部長の部屋で労われた。

「怪我人は出たが、死者を出さずに宿無しを倒せたのは、君たちの御蔭だ。感謝する。ギルドからも、それなりの報奨金を出すつもりだ」


 ギルドから報奨金が出ると聞いて喜んだ。それに気付いた鉄心が、

「グリム、ギルドから出る報奨金なんて、大した事はないんだ。それより、ドロップ品だ。三つ有るから、仕留めたグリムが、一つもらう権利が有る」


 魔石を含めて三つ以上のドロップ品が有った場合、仕留めた者が一つ選んで自分のものにできるらしい。初めて知った。


 近藤支部長が遠慮せずに選べというので、俺はスティールリザードの皮を選んだ。この皮は驚くほど頑丈なのに、鋼鉄ほど重くはなかった。これで俺用の脛当てやアリサたちの防具を作ろうと思ったのだ。


 これから先、水月ダンジョンの先に進むには、アリサたちの防具が貧弱だった。それをスティールリザードの革を使った防具で補強しようと考えたのだ。


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