第97話 宿無しとの戦い
タイチたちと一緒に、週刊誌の記者クルミまで待ち構えていた。
「近藤支部長、犠牲者が出たんですか?」
「まだ、分からん」
支部長がクルミの相手をしている間に着替えてから、ダンジョン前に集合した。
ダンジョンに入る冒険者は、近藤支部長も含めると十一名である。その近藤支部長が俺の隣に来た。
「グリム、学院の生徒たちは、本当にスティールリザードにダメージを与えられる魔法を取得しているのかね?」
「ええ、教え子たちは、サンダー系の生活魔法を使えますから」
「サンダー系? ああ、雷撃系の事か」
雷撃系というのが正しいらしい。セブンスハイブレードでもダメージを与えられると思うんだが、スティールリザードの防御力がどれほどのものか分からないので、言わなかった。
俺は気になる事を支部長に尋ねた。
「支部長、スティールリザードを仕留めるには、『デスショット』以上の攻撃魔法が必要だと聞きました。このメンバーの中で、そういう攻撃魔法を習得している人は居るんですか?」
「ああ、D級冒険者の松本と藤井が習得している。だが、『デスショット』クラスになると消費魔力が多くて、何発も放てないようだ」
何でだろう? 生活魔法の中で一番強力な『ヒートシェル』でも、それほど消費魔力は多くない。生活魔法は基本的にD粒子のDパワーを使うからだろうか。
「そういう事なら、我々が途中で遭遇する魔物を仕留めましょうか?」
俺が露払い役を申し出ると、支部長が感謝した。
アリサたちも俺と近藤支部長の話を聞いていた。
「よし、先頭に立つぞ」
「分かりました」
俺たちは先頭に立ち魔物の駆逐を始めた。五人が生活魔法を使って魔物を仕留めていく姿には、圧倒的な勢いがあった。
俺たちは早撃ちの練習をしているので、多少の群れと遭遇しても瞬く間に駆逐して進んだ。鉄心と近藤支部長は、その様子を見ていた。
「魔物の駆逐速度が速いな。魔法も連発しているし、魔力切れにならないのか?」
支部長の言葉に、鉄心が反応した。
「俺も生活魔法を使い始めて驚いたんだが、生活魔法の消費魔力はかなり少ないんだ」
「ほう、そうなのか。生活魔法について、総合的に見直すべき時期が来ているのかもしれんな」
支部長が見ている前で魔物を倒していると、三層の階段まで来た。
俺たちは四層に下りた。鉄心を含む魔装魔法使い三人が、俺たちに近付いてきた。
「ここから先は、おれたちが先頭に立つ。グリムたちは後ろで休んでくれ」
「了解」
俺たちは最後尾に下がる。
「近藤支部長、スティールリザードは、どれくらい強いんですか?」
「スティールリザードは、人間を簡単に食い千切るほど噛む力が強力だ。それに気を付けなければならないのは、鞭のような尻尾の攻撃。それを喰らえば軽くても骨折だ」
動きも素早いらしい。魔装魔法使い向きの敵なのだが、相手の防御力が高すぎて特別な武器を持っていないと、魔装魔法使いには倒せないという。
四層を二〇分ほど進んだ頃、攻撃魔法使いの一人がスティールリザードの魔力を感じて警告の声を上げた。
「強力な魔力を感知しました」
冒険者たちの間に緊張が走った。
大岩の陰からスティールリザードが現れた。想像していたよりデカイ、体表の鱗は銀色に輝いており生物というより昔話で聞くロボットのような感じがする。
スティールリザードが鉄心に噛み付こうとした。鉄心は人間離れした跳躍力で跳び退き回避する。その隙にもう一人の魔装魔法使いが、風のように飛び込み聖銀製の槍をスティールリザードの背中に突き入れた。
聖銀で作られた槍の穂先が、スティールリザードの鱗にガキッと音を立てて弾かれた。信じられないほど高い防御力だ。
魔装魔法使いは、魔法を使って筋力を何倍にも増強させた状態で、鋼鉄よりも頑丈で硬い物質である聖銀製の槍で突き入れたのだ。それなのに簡単に弾かれてしまった。
「グリム先生、オークジェネラルと比べてどうですか?」
千佳が質問した。
「まだ分からない。チャンスが有れば、セブンスハイブレードを叩き込んでみよう」
千佳が俺に顔を向ける。
「私に試させてください」
「魔装魔法使いたちが、スティールリザードから離れてからだ。それまでは手を出すな」
「分かりました」
鉄心たちとスティールリザードの戦いが激しくなった。ただ魔装魔法使いの武器による攻撃は、ほとんど効かなかった。
近藤支部長が大声で指示を出し始める。
「鉄心、もう少し押さえておけるか?」
「長くはダメだ」
「松本、藤井。『デスショット』で仕留めるんだ」
二人は狙いやすい場所を選んで配置についていた。そして、『デスショット』の準備ができた瞬間、支部長の声が飛んだ。
「スティールリザードから離れろ!」
鉄心たちが背中に羽が生えているかのように、大跳躍して退避する。その瞬間、松本と藤井が『デスショット』を放った。
微かに黄色い光を放つ二つの徹甲魔力弾が飛翔し、スティールリザードへと向かう。この徹甲魔力弾は<貫通>の特性が付加された魔力により形成されたものだ。徹甲魔力弾は一瞬で魔物との距離を飛び越えた。だが、命中する寸前にスティールリザードが体を捻った。
それにより徹甲魔力弾が狙った箇所に当たらず、長い胴体の後部に命中。硬い鱗が飛び散り魔物の肉を抉ったが、致命傷にはならなかった。
スティールリザードが痛みで暴れだし、攻撃魔法使いの二人に駆け寄る。
「いかん、逃げるんだ」
近藤支部長の大声が響いた。
体を捻ったスティールリザードの尻尾が鞭のようにしなって、松本と藤井の胴に叩き込まれた。撥ね飛ばされた松本と藤井を、鉄心たちが受け止めて退避する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます