第89話 十三層の砂漠

「由香里は、凄く頑張ったんですよ」

 天音が由香里の肩に手を置いて言った。この中で一番生活魔法の才能ランクが低い由香里が短期間に魔法レベル5になったという事は、生活魔法を使ってかなりの数の魔物を倒したという事だろう。その努力を思うと断る事はできなかった。


「分かった。でも、攻撃魔法の勉強も手を抜くなよ」

「頑張ります」

 由香里が明るく笑う。由香里だけじゃなく、他の三人も別な系統の魔法を勉強している。俺も魔装魔法を修業しよう。


 それから三十分ほど歩いた時、プチサラマンダーと遭遇した。プチという名前が付いているのに、全長三メートルほどだ。


 そして、サンショウウオのような体形でオレンジ色に黒の斑模様がある。注目すべき特徴は、こいつの武器だ。口から炎を吐き出すのである。


「こいつの炎は、七メートルほど伸びるから、それより遠距離で攻撃するのがいいようだ」

「そうなると、『ジャベリン』か『サンダーアロー』ですね」


 そうアリサが言うと、千佳が『ハイブレード』もだと言う。千佳は『ハイブレード』が余程気に入っているようだ。


 アリサたちはクワッドジャベリンとクワッドサンダーアローで攻撃した。『ジャベリン』が命中した時は、苦しそうにするのだが、『サンダーアロー』が命中すると顔を歪めて笑ったような顔になる。


 痙攣しているだけだと思うが、どう見ても笑った顔に見えて、

「先生、プチサラマンダーは、変態さんなんですか?」

 アリサが若干青くなった顔で尋ねた。


「いや、違うと……思うけど。それより弱点は頭だから」

 それを聞いたアリサが、笑顔で迫ってくるプチサラマンダーの頭にクワッドジャベリンを叩き込んで仕留めた。


 プチサラマンダーが残した赤魔石を拾ったアリサは、砂漠を見回して溜息を漏らす。

「後、どれくらい歩くのです?」

「これで半分くらいじゃないかな。休憩しようか?」


 俺たちは休憩する事にした。ここの気温は三十五度くらいだろう。本当の砂漠に比べれば、大した事はない。ただ水分はこまめに摂取する必要が有る。


 俺はマジックポーチから、冷たい水が入ったペットボトルを取り出して、アリサたちに配った。このマジックポーチの内部は、時間経過が遅くなっているので、冷やした水を入れておくと冷たさが三日くらいなら保つ。


 水を飲み干した千佳が、

「グリム先生、『カタパルト』と『エアバッグ』を見せてもらえませんか?」

「ん? まだ見せていなかったか」


 天音が頷いた。

「まだ見ていませんよ」

「そうか。じゃあ披露しよう」

 俺は水を飲み干してから、少し離れた。そして、『カタパルト』で身体を真上に投げ上げた。


 十メートルの空中に投げ出された俺は、そのまま落下する。そして、『エアバッグ』で落下の衝撃をバスンと吸収して、地面に下りた。


「凄い、今のは多重起動していないものですよね」

 由香里の質問に、俺は頷いた。

「次は五重起動した場合を見せる。右の方へ飛ぶから見逃すなよ」


 クイントカタパルトを発動して、少し斜め上に向けて身体を投げる。その加速度はかなりのもので、身体にジーが掛かる。魔法が切れて身体が空中に放り出されると、そのまま七メートルほど飛んで着地した。少しよろけたが、倒れる事なく着地できたのでまあまあだろう。


 俺がアリサたちのところへ戻ってくると、興奮したように喋っていた。

「凄いです。消えたように見えました」

「これで五重起動なんですか。七重起動にしたら、本当に消えるかも」


 消える訳じゃないけど、動体視力が優れている者以外は、消えたように見えるかもしれない。

「これはかなりキツイ衝撃が身体に掛かるから、少しずつ慣れる必要が有る。習得するのは、ちょっと身体を鍛えてからだな」


「でも、多重起動しなければ大丈夫じゃないですか?」

 アリサが粘る。運動が不得意なアリサは、こういう魔法には憧れが有るのだろうか?

「そうかもしれないが、まだ他の魔法も習熟していないんだ。急ぐ必要はないだろう」

「だったら、『エアバッグ』だけなら、どうです?」


 俺は『エアバッグ』だけなら、と許可した。そうなると、教えていないのは『カタパルト』と『リモートプレート』だけになる。


 ちょっと焦るような気持ちになった。新しい魔法を開発しよう。

 休憩を終えて、また歩き出す。途中でアリサが肩で息をするようになった。やはり運動不足のようだ。勉強はできるんだが……ジョギングでもさせた方がいいかもしれない。


 その反対に全然疲れた様子を見せないのが、千佳である。道場で鍛えているのだろう。アリサに体力不足は問題だから、ジョギングでも何でもいいから運動するようにアドバイスした。


 やっと砂漠の中央付近に到着。由香里に頼んで『マナウォッチ』を使って階段を探してもらう。

「見付けました。こっちです」

 由香里に案内されて、その場所に行った。だが、そこは他と変わらない砂だらけの場所だった。


「何もないよ」

 天音が文句を言う。由香里は何かを探すような様子を見せた。

「これです」

 由香里は砂の中から、レバーのようなものを掘り出し引いた。すると、砂が盛り上がりドーム状の建造物が現れる。


「これじゃあ、見付からない訳だ」

 俺が渋い顔をすると、アリサたちが笑う。

「先生が資料の情報を見落としたからじゃないですか」

 アリサに痛いところを突かれた。まあ、そうなんだが、人間なんだから見落とす事だってある。


 俺たちはドーム状の建物のドアを開いて中にあった階段を下りた。

 初めて見る十四層は、水のエリアだった。階段から外に出ると、大きな湖が広がっている。


「げっ、何だこれ? 泳いで渡れというのか」

 十四層についても、冒険者ギルドの資料を調べている。なので、船が必要だという事は知っていた。しかし、ほとんど陸地がないとは思わなかった。


 ここは全体が湖で、所々に島があるというエリアだった。


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