第88話 敵討ち
夏休みに入って間もない頃、俺とアリサたちは冒険者ギルドで合流した。天音が俺を見付けると、声を上げる。
「グリム先生」
冒険者ギルドの打ち合わせ部屋に入って雑談を始め、俺が水月ダンジョンのどこまで攻略したかという話になった。
「十三層の砂漠で、階段を見付けられずに止まっている」
十二層の階段を発見して下りたら、十三層は砂漠が広がっていた。このエリアだけは冒険者ギルドで地図を売っていない。砂漠だと目印がなくて、地図を作れなかったのだ。
「ギルドの資料にあった中央付近という場所を、探したんだけど、見付けられなかった」
由香里が何か閃いたように頷いた。
「それはきっと、魔法で探すんですよ」
由香里が言う魔法というのは、攻撃魔法の『マナウォッチ』の事である。この魔法は魔物や魔法装置が放つ魔力を感知するものだ。
階段が魔法装置なら、『マナウォッチ』で探し出せるだろうという。俺はもう一度資料室で十三層の資料を探した。階段の場所について書かれている箇所を探して調べる。
すると、そのページの下に注釈が付け足されていた。確かに階段を見付けるためには攻撃魔法の『マナウォッチ』か魔力センサーが必要だと書かれていた。注釈を見逃していたのだ。
魔力センサーは付与魔術士が作った魔道具である。確か冒険者ギルドでも売っていたものだ。値段は八十万円ほどだったはず。
「グリム先生、お願いしたい事が有るんです」
アリサの頼みは、水月ダンジョンの二十層に居る中ボスを倒す方法を教えて欲しいというものだった。
二十層に居る中ボスは、オークキングだという。必ずオークキングが出るとは限らないが、これまでの記録に残っているものは、オークキングが五回、アルティメットリザードが一回だった。
オークキングはオークジェネラルより一段上の強さを持つ魔物だという。アルティメットリザードは挑んだ冒険者チームの半数を倒すほどの戦闘力を持っていたと聞いている。
「オークキングか、アルティメットリザード……どちらも強敵だな。どうして、二十層の中ボスを倒さなければならないんだ?」
アリサが俺の目を見詰めて告げた。
「私の兄は冒険者でした。でも、二年前に二十層の中ボス、オークキングに挑んで亡くなりました」
可哀想だとは思うが、学院の生徒の中には同じような経験を持つ生徒が大勢居るのを、俺は知っていた。それだけ冒険者という職業は危険なのだ。
俺の顔が厳しいものになっていた。
「ダンジョンの魔物に、敵討ちというのは無意味だぞ」
「分かっています。でも、オークキングを倒せば、私の中で区切りがつくような気がするんです」
単なる敵討ちではないという事が分かり、俺は協力する事にした。
「協力しよう。だけど、俺もオークキングと戦った事はない。今から調べて少しずつ強くなるしかないぞ」
「はい、よろしくお願いします」
「あたしも協力するよ」「私もです」「あたしもだよ」
天音・千佳・由香里が協力を申し出た。
「それじゃあ、十三層に行こう。十四層への階段を見付けておきたい」
まずは、二十層まで到達しないと話にならない。俺たちは水月ダンジョンへ向かった。ちなみに、生活魔法部の活動は続けている。今日は、カリナが三年生を連れて巨木ダンジョンに潜っているらしい。
俺たちは十二層のオーク城近くにある小屋から、十三層へ下りた。砂漠を初めて見たアリサたちは、その広さに驚いたようだ。
「グリム先生、ここを歩くんですか?」
アリサが尋ねた。この中では一番体力に自信のないアリサは、不安になったらしい。
「ああ、五キロほど歩く事になる」
砂砂漠を五キロ歩くのはキツイ。足元が体重を乗せると崩れるので、普通の地面を歩くより倍以上疲れるのだ。
「由香里、攻撃魔法には、移動に便利な魔法とかないの?」
天音が期待を込めて尋ねた。由香里が少し考えてから、
「『フライ』という魔法で、飛べるようになるけど、一人だけだよ」
天音が溜息を吐く。
「ダメか。そうだ、グリム先生が車を買って、マジックポーチに入れて持ってくるというのは、どうです?」
この時代、コンピューターや産業ロボットを使って車の大量生産という事ができなくなっている。なので、車の所有者は少なかった。
「無理無理、車がマジックポーチの中に入る訳はないだろ。精々バイクが限界だ」
「はあ、ダメですか」
さすがの天音も『カタパルト』の連続発動で移動するというのは言わなかった。そんな事をしたら、魔力切れになってしまう。
そんな話をしながら歩いていると、サンドウルフに遭遇した。体重が百キロ以上有りそうな大型の狼である。素早い動きをするので、攻撃魔法使いは魔法を命中させるのに苦労する。
ただ近付いたサンドウルフは跳躍して襲い掛かるというのがパターンになっており、跳躍したタイミングで掌打プッシュで迎撃してからクイントサンダーボウルを打ち込み、動けなくなってからトドメを刺せば簡単に倒せる。
この方法は最初の掌打プッシュのタイミングを掴めるようになるまでが大変だった。オークジェネラルを倒して手に入れた黒いスケイルアーマー『黒鱗鎧』が持つ機能を使って防御力を上げてから、何度も戦って身に付けた技術だった。
アリサたちなら『オートシールド』を使って、技術を磨く必要が有るだろう。
由香里が俺を見て、
「グリム先生、お見事です。そうだ……生活魔法が魔法レベル5になったんですよ。あたしにも『ブレード』『ジャベリン』『サンダーボウル』の魔法陣をください」
どうなんだろう? 由香里の才能は攻撃魔法に有るのだ。生活魔法に寄り道なんかせずに、攻撃魔法を磨くべきなんじゃないか、と思うんだが。俺がそう言うと。
「黒月先輩も攻撃魔法と魔装魔法の二つを勉強しているじゃないですか。攻撃魔法の遠距離攻撃、生活魔法の近距離・中距離攻撃ができるようになれば、無敵です」
由香里がそういう戦闘スタイルを目指すと言うのなら、協力しようと思う。だけど、由香里の場合には、自分だけ仲間外れみたいなのが嫌だったんじゃないか? そういう気がする。
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