第87話 セブンスハイブレード
グリムから『ハイブレード』を伝授された千佳は、懸命に努力して習得した。『ハイブレード』を習得するのも大変なのだが、これを七重起動で発動するのは更に難しかった。
なので、セブンスハイブレードができるようになったのは、まだ千佳だけである。校長が鵜崎を連れてくると、カリナは『プッシュ』の練習をしていた部員たちを中断させ、大岩がある場所まで移動した。
「天音ちゃん、何が始まるの?」
豊月美沙が尋ねた。
「よく分からないけど、役所の偉い人が派手な生活魔法を見たいそうなの」
美沙が首を傾げた。
「生活魔法に派手なものなんて有ったっけ?」
「派手というか、見応えのある生活魔法は有るかな」
校長が鵜崎を連れて来た。鵜崎は集まっている生徒たちを見回す。
「この生徒たちは?」
「生活魔法部の部員です。今日は訓練場で練習をしていたのです」
「ほほう、クラブ活動までしているのですか。生活魔法に力を入れているのは、本当のようですな」
校長は頷いてからカリナへ視線を向ける。
「望月先生、先程頼んだ生活魔法の前に、少し生活魔法の基本を見たいそうなのだ」
「分かりました。それでしたら、魔法レベル1で習得できる『コーンアロー』という生活魔法から見てもらいましょう」
カリナは竹内たちに丸太を運んで来るように指示した。訓練場の地面に直径三十センチ・長さ百五十センチほどの丸太が立てられる。
「これから、魔法レベル7になるとできるようになる『コーンアロー』の七重起動を発動します。結城さん、お願い」
アリサは前に出て、左手を丸太に向ける。
「ハッ」
気合と一緒にセブンスアローを撃ち出した。見守っていた生徒たちや鵜崎も、七重化されたD粒子コーンの存在感に気付いた。
それほどの存在感がセブンスアローにはあるのだ。D粒子コーンが丸太に命中し、その先端を二十センチほど食い込ませる。だが、それだけではセブンスアローの運動エネルギーを吸収できず丸太を宙に舞わせた。
クルクルと回転しながら飛んだ丸太は、五メートルほど離れた地面に落下。その様子を見ていた生徒たちが、興奮したような顔で拍手を始める。
鵜崎が渋々認めるように頷いた。
「なるほど、これが新しい生活魔法というものですか。確かに魔物に対する攻撃力は有るようですな。ですが、これだけでは、私は納得しませんよ」
「では、もう一つの新しい生活魔法を、ご覧に入れましょう」
カリナが言うと、鵜崎が否定するように首を振る。
「ダンジョンで活躍するには、攻撃も大事だが、守りも大切。生活魔法に守りの魔法は有るのかね?」
カリナが天音をチラッと見てから頷いた。
「生活魔法の守りの基本は、『プッシュ』と『オートシールド』になります」
「『プッシュ』? あれは使えないと言われた魔法だ。そんなものが守りに役立つのか?」
「分かりました。本当の『プッシュ』の使い方を、実演します」
カリナは天音と体格の良い男子生徒三人を呼んで、打ち合わせをした。男子生徒は小さめの土嚢を持って、天音の周りを取り囲み、ほとんど同時に土嚢を天音に向けて投げる。
天音は正面から飛んでくる土嚢に向けて、素早くジャブのような掌打を繰り出すと同時にトリプルプッシュを発動。そして、身体を捻り左右に掌打を繰り出すと同時に連続でトリプルプッシュを放つ。掌打を繰り出す動作がトリプルプッシュを撃ち出す切っ掛けとなっているのだ。
全ての土嚢がトリプルプッシュにより、投げた者の方へと弾き返された。
「うわっ」
男子生徒たちは慌てて避ける。土嚢は地面にドサリと音を立てて落ちた。
アリサが見ていて微笑む。
「グリム先生の真似をしている」
小刻みのジャブのような掌打に合わせて『プッシュ』を撃ち出すやり方は、最近グリムが始めたものだ。武術の師匠である三橋師範のやり方らしい。
この方法に習熟すると『プッシュ』の発動が早くなる。グリムは『掌打プッシュ』と呼んでいた。
「なるほど、防御用の生活魔法だ。認めよう」
鵜崎が弾き返された土嚢を見て言った。カリナは天音に顔を向けて頷いた。
「それでは、最後に生活魔法にも強力な魔法が有るという事を証明しましょう。御船さん」
千佳は訓練場にある大岩から十メートルほど離れた位置に移動し、木刀を構えた。
カリナが大岩に近い位置に居る生徒たちに離れるように言った。生徒たちは千佳より後ろに下がる。それを見届けた千佳は、深呼吸してから木刀を上段から振り下ろす。
それと同時にセブンスハイブレードが発動。木刀の先に形成された長さ十メートルの長大なV字プレートは凄まじい加速で振られ、先端部分が音速を超える。
衝撃波が生まれ大岩に激突。セブンスハイブレードは大岩を切り裂いた。そして、切り裂かれた大岩に衝撃波が叩き付けられる。大岩の一部が砕かれ飛び散る。
次の瞬間、衝撃波の轟音が鵜崎や生徒たちを襲い、遅れて爆風が追撃する。何人かの生徒は爆風で倒れた。
爆風が収まった時、鵜崎だけでなく校長やアリサたち以外の生徒たちも顔を強張らせていた。中には青い顔をしている者も居る。
「これが生活魔法だというのか?」
鵜崎が呟くように言った。それを聞いたカリナが、
「これは正真正銘の生活魔法です」
そう言って微笑んだ。
「認めよう。生活魔法使いは、ダンジョンで活躍できるだろう」
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