第84話 生活魔法部の設立

 冒険者ギルドで魔石の代金を口座に振り込むように手続きした後、アパートに帰って、マジックポーチから魔導書を取り出した。


 そして、魔法レベル12で習得できる生活魔法について調べた。俺の魔法文字の知識では、二割ほどしか読めない。それでも分かった事が有る。この魔法は『リモートプレート』と呼ばれているらしい。


 俺はワクワクしながら、その魔法陣に集中する。魔導書の魔法陣を半日ほど睨んで習得。途中で食事やトイレには行ったが、さすがに疲れた。試せるような場所へ行く時間もないので、そのまま寝た。


 次の日は、アリサたちと行っている修業の最終日だった。次回から学期期末試験が近いので中断する事にしたのだ。


 修業が終わった後、俺とアリサたちは一緒に学院へ行った。カリナが呼んでいるそうなのだ。学院の学食へ行くと、カリナと鬼龍院校長、それにタイチが待っていた。


「よく来た。さあ、座れ」

 校長が俺を自分の横に座らせた。

「頑張っているそうじゃないか。カリナ先生から色々聞いているぞ」


 日曜日なので学食は休みなのだが、場所だけ校長の権限で借りたようだ。そして、出前の寿司がテーブルの上に並んでいる。校長のおごりだろう。


「今度ジービック魔法学院に、生活魔法部を新設する事になった。顧問は望月先生だ」

「生活魔法部の新設……なるほど、クラブ活動で生活魔法を教えるのか、考えましたね」


「グリムが考えた生活魔法の使い方や、『コーンアロー』などを教えたいと思っているのだが、賛成してくれるか?」


「もちろん」

「良かった。そこでグリムの教え子である生徒たちにも、生活魔法部に入って欲しいのだ」


 アリサたちは頷いた。

「生活魔法の才能が有るのに、くすぶっている生徒たちを救おうという事ですね。私は喜んで手伝います」

 アリサが答えると、天音たちも同意した。


「あたしも生活魔法部に入っていいですか?」

 由香里が尋ねた。カリナが頷いた。

「構わないけど、君島さんは、それでいいの? あなたの才能は攻撃魔法なのよ」


「野球部にだって、マネージャーが居ます。それに攻撃魔法使いと模擬戦をするのも、練習になると思います」

「そうね、ありがとう」


 寿司を食べながら話し合った。

 生活魔法部で教える生活魔法は、『プッシュ』『コーンアロー』『ムービング』『ロール』『スイング』『ブレード』『ジャベリン』の七つに絞る事にした。


 千佳が俺へ視線を向ける。

「グリム先生、お願いが有るんです」

「ん、何だ?」

「『ハイブレード』を教えてください」


 千佳がゴブリンロードと戦った時の様子を話した。魔力障壁などの魔法を持つ魔物や魔導装備を持つ魔物を相手にする場合、強力な攻撃力が必要だという事だ。


 俺やアリサたちは、まだ中級ダンジョンの十二層までしか攻略していない。なのに、生活魔法で最高の威力を持つセブンスハイブレードでないと仕留められない魔物と遭遇していた。この先に進むには強力な魔法が必要らしい。


 セブンスハイブレードの威力を見て、アリサたちに教えるのをためらっていたが、ダンジョンは想像以上に手強いようだ。


「分かった。教えよう」

 千佳が珍しく笑顔を見せた。アリサが千佳の肩を叩いた。

「良かったね」


 今度はアリサが俺に目を向ける。

「そうだ、まだグリム先生には言ってませんでしたが、私たちゴブリンロードを倒してマジックバッグを手に入れたんですよ」


「そうだったんだ。それで容量はどれくらいなんだ?」

「五百リットルほどです」

「凄いじゃないか」


 マジックバッグは容量が少ないものでも、桁違いに高価なのだ。それに一番多いタイプのマジックバッグの容量が二百リットルなので、五百リットルなら立派なものだ。


「そうだ、グリム先生はオーク城を攻略したんですか?」

 天音が尋ねた。俺は頷いた。

「ああ、宝物庫を発見して、金庫の鍵を守る魔物を倒して、無事にお宝をゲットしたぞ」


「やっぱり、巨大な狼?」

「いや、違った。ソロで挑戦すると、オークジェネラルが出て来るらしい。チームだとガルムだそうだ」


 カリナが驚いた顔をする。

「狼じゃないんですか?」

「冒険者ギルドの支部長から聞いたんだけど、眷属のブラックハイエナを大量に召喚する冥界の番犬だそうです」


 天音が納得したように頷いた。

「狼と番犬を間違えたんですね。似たようなものだから」

 カリナが苦笑いした。そして、アリサが難しい顔をする。


「しかし、ブラックハイエナを大量に召喚するというのは、厄介ですね」

 カリナが頷いた。

「そうね。大きな部屋でも、閉鎖された空間で大量の魔物と戦うのは、厄介なのよ」


 由香里がお宝について聞きたがった。

「オークジェネラルが装備していたスケイルアーマーと同じものを手に入れた」

「もしかして、魔導装備ですか?」


「そうだ。それは俺が使うつもりなので、換金しない」

 校長が頷いた。

「冒険者を続けるつもりなら、それがいい」


「それだけじゃないんですよね?」

 天音が興味津々という顔で尋ねる。

「後、D粒子で出来た黒い棒と指輪を手に入れた」

 魔導書については話さなかった。


 アリサが首を傾げた。

「D粒子の棒というのは、どういうものなのですか?」

 俺は校長とカリナを見てから、マジックポーチの事を教える事にした。マジックポーチから黒い棒を取り出す。それを見た校長とカリナは、なるほどと頷いた。


 その棒をアリサに渡す。アリサは『アイテム・アナライズ』を使った。

「これは『黒意杖』と呼ばれる武器で、生活魔法使いならば、形状を変えられるようです。それに非常に頑丈なものです。生活魔法使いにとって、最高の武器になるかもしれません」


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