第83話 オーク城(3)
サンドイッチを食べ終わり休憩した後、宝物庫らしい部屋に戻った。そこで手に入れた鍵に合う金庫を探す。最初の黒い金庫の鍵穴に鍵を差し込もうとしたが入らない。
この金庫じゃないようだ。次の金庫でもなく、四番目の金庫を試した時に鍵がするっと入った。鍵を捻るとカチッという音がして、金庫の扉が開く。
その中にあったのは、一冊の本と黒い棒、そして指輪だった。
俺は本を手に取り、パラパラと
「マジか。魔導書じゃないか」
手の中にある本は、間違いなく生活魔法の魔導書だった。その中には『プッシュ』や『スイング』の魔法陣が描かれていた。中には十八個の魔法陣があり、俺が知らない魔法が四つほど有る。
その知らない魔法の事が書いてある部分を読もうとしたが、魔法文字で書かれていたので、ほとんど読めない。但し、魔法レベルがいくつなら、その魔法を習得できるのかというところは読めた。魔法レベルが『12』『14』『17』『20』だった。
一つだけ習得できるものがある。習得して魔法の正体を知りたいという欲求が湧き起こる。だが、ここはダンジョンの中だ。その魔導書をマジックポーチの中に仕舞った。
指輪を取り出して確認する。この指輪がどういうものかは、賢者システムでも分からなかった。生活魔法に関係するものではないようだ。呪いの指輪という可能性も有るので、試す事もできない。持って帰って調べてもらうしかないだろう。指輪もマジックポーチに仕舞う。
最後に黒い棒を取り出した。
「何だ、この棒は?」
黒鉄製の棒だと予想したのだが、手に持って違う事が分かった。これは変異したD粒子で作られた棒だったのだ。重さは一キロもないだろう。直径四センチ、長さ六十センチほどである。
生活魔法使いはD粒子を制御できる。変異しているとは言えD粒子である。生活魔法使いなら、何らかの使い道が有るだろう。
俺は黒い棒もマジックポーチに仕舞った。
「さて、どうやって城を抜け出そうかな?」
取り敢えず、通路を戻り階段を上る。
隠し階段の入り口が見える。オークナイトが居ないか確かめ四階に出た。
「おかしいな。待ち構えていると思っていたのに」
小さな部屋から廊下に出た時、オークナイトが近付いてくる気配がした。しかも、一匹や二匹ではない。団体で現れたのだ。
「もう、オークナイトは……」
さすがにオークナイト狩りには飽きてきた。それに戦い続けるには、魔力が心許ないので逃げる事にする。バルコニーに出て、柵の上から跳び下りる。
空中で『カタパルト』を発動し、身体を城壁の方へ投げる。一度では距離が足らなかったので、もう一度『カタパルト』を発動。そして、城壁の外に出たと見極めてからは、『エアバッグ』と落下を繰り返して地面まで下りた。
これは火事の時に経験済みだったので、簡単に成功させた。但し、滅茶苦茶怖い。それから地上へ戻り始め、ダンジョンを脱出した時は、夜の十二時を過ぎていた。
アパートに戻り爆睡。起きたのは昼頃になっていた。それほど疲れていたのだ。アクビをしながら出掛ける支度を始める。魔石の換金と指輪を調べてもらうために、冒険者ギルドに行こうと考えたのだ。
「腹が空いたな。途中で何か食べるか」
アパートの外に出て、近くの定食屋で肉野菜炒め定食を頼む。料理が出てくるまでテレビを見ていると、ニュースキャスターがフランスで新しいダンジョンが生まれた事を報道していた。
ダンジョンは今でも誕生しているのだ。不思議な事に消える事もある。人間が活用しないダンジョンは、消える事が有るそうだ。
ダンジョンを研究している者の中には、ダンジョンは人間から何かを吸収しているのではないかという説を唱える者も居る。
昼飯を食べて定食屋を出た俺は、冒険者ギルドへ向かった。昼頃の冒険者ギルドは人が少ない。ギルドが混むのは早朝と夕方なのだ。
受付に顔見知りの加藤を見付けたので、挨拶をしながら魔石を取り出してカウンターの上に置く。昨日は多数のオークナイトを倒したので、大量の緑魔石<中>がカウンターの上に並んだ。
「また、オークナイト狩りをしていたんですか?」
「まあね。でも、もう終わりだよ」
加藤が驚いた顔をする。そして、小声で尋ねた。
「もしかして、オーク城の宝物庫を探し当てたんですか?」
俺は黙って頷いた。そして、黒魔石<小>と指輪をカウンターに置く。
「指輪を調べてもらいたいんだ?」
「ちょっと待ってください」
加藤は魔石と指輪をトレイの上に載せてから奥へ運んでいった。
すぐに戻ってきた加藤が、支部長の部屋に来てくれと言う。何だろうと思いながら支部長室へ行く。近藤支部長が、俺が持ち込んだ指輪を見ていた。
「座ってくれ。この指輪なんだが、オーク城の宝物庫で手に入れたというのは本当なのか確認したい」
「本当です。昨日、オーク城の宝物庫へ行って、オークジェネラルを倒して手に入れました」
近藤支部長が頷いた。
「オークジェネラルだったか」
「そう言えば、大きな狼が居ると聞いていましたが、違ったのでびっくりしました」
「それはソロで入ったからだ。チームで入るとガルムが出て来る」
「ガルム?」
「冥界の番犬と言われている。巨大な犬だ」
巨大な狼ではなく、犬だったらしい。詳しい話を聞くと、そのガルムは眷属のブラックハイエナを大量に召喚するらしい。
「オーク城の魔物については、これくらいでいいだろう。呼んだのは指輪の件だ。この指輪は、『診断の指輪』だと分かった」
診断の指輪というのは、人間の病気を診断する事ができる指輪である。病院などで需要の有る指輪らしい。
「そこでオークションに掛けようと思うのだが、どうだろう?」
「冒険者ギルドで換金する事はできないんですか?」
「可能だが、冒険者ギルドが購入するとなると、かなり安くなるのだ。金に困っていないのなら、オークションに出す事を勧める」
金には困っていないから、オークションにするか? でも、手続きとかが面倒なのだろうか? 俺は手続きについて尋ねた。やはり面倒らしいが、ギルドがサポートしてくれるらしい。
診断の指輪はオークションへ出す事になり、換金できるのは二ヶ月後となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます