第70話 『サンダーボウル』の早撃ち
一日中、砂浜で『カタパルト』の魔法を改良していた俺は、夕方になってアパートに戻った。
「はあっ、結局完成しなかったな」
身体中が砂塗れになったので、シャワーを浴びてスッキリする。
『カタパルト』は加速の調整、移動中の制御、魔法解除直前の制御などに難しい問題が有る。少し時間が必要なようだ。
次の日、水月ダンジョンへ向かった。俺としては『カタパルト』の魔法を完成させたかったが、実戦での経験が不足しているという自覚があるので、一日置きにダンジョンに潜るという習慣は崩したくなかったのだ。
不動産屋の前を通った時に、一つの物件が目に入った。水月ダンジョンの近くにある冒険者が建てた一戸建てである。
この一戸建てには、防音処理がされている道場が付いていたのだ。住居自体は普通なのだが、この道場が気に入った。
ダンジョンで探索していると、体術の訓練が不足していると感じる事が有る。思うように身体が動かないのだ。しかし、武術の経験が全然ない俺には、どうやって練習すれば良いのかも分からない。
ちなみに、魔物を相手に戦うための武術は存在しない。だが、何かの体術を始める必要が有ると思っている。問題は何を始めたら良いのかという事だ。
とは言え、何を始めるにしても、練習する場所が必要となる。それで道場付きの家が気になった。
価格を見ると、約八千万円になっている。冒険者をやっていれば、稼げない金額じゃない。
「それだけの金額を稼げそうな場所となると、オーク城だな」
危険な場所だった。だが、オークナイトの動きを熟知し、倒す戦術を確立すればオーク城の宝物庫に辿り着けるかもしれない。
俺は水月ダンジョンに到着し、着替えてダンジョンに入る。
十二層までは最短ルートで駆け抜け、森と丘の上に聳える城が見える場所まで来た。用心しながら森の中に入った。
この森にはオークナイトしか居ない。そのオークナイトは金属鎧を装備しているせいで、不意打ちされる事はほとんどない。オークナイトが動くと鎧が音をたてるからだ。
本日、初めてのオークナイトと遭遇。試しに『サンダーボウル』を使ってみた。トリプルサンダーボウルがオークナイトに命中した瞬間、バチッと音がして火花が散る。
意外にもオークナイトが倒れた。それで仕留められた訳ではないが、一時的に行動不能になったらしい。オークナイトが再び動き出すまでの秒数を数える。
四秒で動き始めた。仕留めるには十分な時間だ。俺はもう一度トリプルサンダーボウルを命中させ、倒れたところにクイントブレードをオークナイトの首に叩き込んだ。
オークナイトは強敵のはずだったのだが、簡単に仕留める事ができた。オークナイトは、電気系の攻撃が弱点なのかもしれない。それから遭遇するオークナイトにトリプルサンダーボウルを試してみたが、どのオークナイトも一時的に動けなくなり、クイントブレードで仕留められた。
そして、クイントサンダーボウルだと、しばらく気絶する事が判明する。多数のオークナイトに囲まれた場合はクイントサンダーボウルをばら撒けば良いようだ。そのためにはクイントサンダーボウルを早撃ちできるようになる必要がある。
そんな事を考えていたら、本当に多数のオークナイトと遭遇してしまった。『センシングゾーン』と『オートシールド』を急いで発動する。
オークナイトは五匹、以前なら撤退する数だ。だが、『サンダーボウル』が有効だと分かった今は、対処できる数だった。
最初の一匹が襲い掛かってきた。そのオークナイトにクイントサンダーボウルを叩き込む。そいつが気絶すると同時に別の一匹がロングソードの斬撃を打ち込んできた。
慣れていないクイントサンダーボウルの早撃ちは無理だ。クイントプッシュで突き飛ばす。両脇から二匹のオークナイトが斬り掛かってくる。それをD粒子シールドが受け止める。
俺は右側のオークナイトにクイントサンダーボウルを打ち込み、左側にクイントプッシュを放つ。最後の一匹は背後に回り込んでいた。
このオークナイトはロングソードを脇に構えると俺に向かって突き出すようにして襲ってきた。その事をD粒子の動きで気付いた俺は、前を向いたまま背後にクイントプッシュを放つ。
最初にクイントプッシュで弾き飛ばしたオークナイトが起き上がって斬り掛かってきた。俺はクイントサンダーボウルを放って気絶させる。
次々に襲い掛かってくるオークナイトにクイントサンダーボウルを放ち気絶させた。立っているオークナイトが居なくなった後、俺はクイントブレードでトドメを刺す。
魔石を拾い上げてから、噴き出た汗をタオルで拭った。
「早撃ちができないと、厄介だな。練習しよう」
俺は森を探索し、遭遇したオークナイトを早撃ちの標的にした。
その週はクイントサンダーボウルの早撃ちを習得する事に費やす。御蔭でクイントサンダーボウルの早撃ちをマスターした。
マスターした日、水月ダンジョンから地上に戻ると、夜になっていた。着替えて冒険者ギルドへ行く。受付で魔石を換金すると結構な金額となった。
オークナイトは緑魔石<中>を残すのだが、その買取価格は比較的高いのだ。
「グリム先生、ダンジョンからの帰りですか?」
誰かと思えば、週刊誌の記者クルミだった。取材が終わったところらしい。取材相手は攻撃魔法使いの
「へえー、C級冒険者か、凄いな。どこを攻略しているんです?」
「水月ダンジョンの三十二層を攻略中らしいの。中ボスのファイアドレイクを倒したんだから、凄く強いのよ」
「そいつは凄い。どうやったら、ファイアドレイクを倒せるんだろ」
「彼の魔法レベルは、『16』だそうよ」
凄いとしか言いようがない。俺の生活魔法の魔法レベルは『11』だが、あれだけオークナイトを倒したのに、全然上がらない。
上になればなるほど、本当に魔法レベルは上がり難くなるのだ。
「彼はね。今度、バタリオンの運営を始める事にしたの」
クルミが言った。
バタリオンとは、本来『大隊』を意味する言葉である。だが、冒険者がバタリオンと言った場合は、協力関係を結んだ冒険者の集団を意味する。この場合、攻撃魔法使いのバタリオンとか、魔装魔法使いのバタリオンという具合に、同じ系統の魔法を使う冒険者が集まるらしい。
「いいな。生活魔法使いのバタリオンとかができれば入るんだけど」
俺が愚痴をこぼすと、クルミが笑う。
「グリム先生が、生活魔法使いのバタリオンを設立したらいいのよ」
「バタリオンの運営には、年間一億くらい掛かると聞きましたよ。無理に決まってるじゃないですか」
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