第66話 共同訓練初回
草原ダンジョンでボス狩りをした翌々日、放課後に黒月との共同訓練を行う事になった。着替えたアリサたちが訓練場へ行くと黒月とカリナ、貝塚が待っていた。
貝塚は攻撃魔法の教師である。
「カリナ先生、共同訓練というのは、何をするんですか?」
アリサが質問した。
「私と貝塚先生のチームと戦ってもらいます。但し、魔法の威力は抑えてもらいますよ」
チームで模擬戦を行うらしい。黒月は遊撃兵として動くという話だが、どういう動きをするのだろうと、アリサは疑問に思った。
黒月がアリサたちのところへ来て、
「今日から、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
アリサたちも返事をして、模擬戦の準備を始める。
まずは最初に模擬戦をやってみる事になった。アリサたちは前衛が千佳と天音で、運動が苦手なアリサと由香里が後衛になる。カリナが魔装魔法の『コスモガード』を使って肉体を強化してから、突撃してきた。
素早い動きで天音を攻撃しようとした時、黒月がカリナに襲い掛かる。黒月とカリナの間で激しい戦いとなった。そうなって、アリサたちの敵は貝塚一人になる。
アリサは貝塚を攻めるように指示した。
「そうはいかんぞ。これでどうだ」
貝塚が攻撃魔法の『ライトショットガン』を使った。十数個の光る魔力弾が、アリサたちに向かってばら撒かれる。これは模擬戦用と言ってもいい攻撃魔法である。
「由香里」
アリサの声で、由香里がアリサの背後に跳び込む。生活魔法が使える三人はトリプルプッシュで迎撃した。
自分の攻撃を迎撃された貝塚は、ニヤッと笑って威力を落とした『ファイアバースト』を放つ。それを見た千佳が火炎弾に向かって跳んで、クワッドプッシュを放つ。生活魔法の防御は『プッシュ』が基本なのだ。
クワッドプッシュが火炎弾を迎撃した瞬間、炎がぶわっと広がった。千佳は少し炎を浴びたが、魔装魔法の『パワーアーマー』を使っていたのでダメージはなかった。これが貝塚の本気の『ファイアバースト』だったら、爆風で吹き飛ばされていたかもしれないが、致命傷にはならなかっただろう。
天音が貝塚との距離を縮めようとするが、それを嫌った貝塚は後退する。攻撃魔法には模擬戦用の魔法が多く存在する。なので、安心して模擬戦ができるのだが、模擬戦が強いからといって実戦でも強いとは限らない。
貝塚が『レインボービーム』を天音に向かって放った。これは迎撃が間に合わなかった。天音の胸に当たったビームがポンと爆ぜる。ダメージはほとんどないが、天音は戦線離脱である。
黒月とカリナは訓練場を駆け巡りながら、互角の戦いを繰り広げている。黒月は攻撃魔法使いなのだが、魔装魔法の『パワータンク』を使って筋力を強化し、攻防を繰り広げている。
アリサは二人の攻防を見て、渋い顔をする。黒月には攻撃魔法使いとして、貝塚と戦って欲しかったのだ。生活魔法は射程が短い魔法が多い。攻撃魔法使いが遠くから攻撃するという戦法を取ると、生活魔法使いは非常に戦い辛いのだ。
「由香里に模擬戦用の攻撃魔法を覚えてもらった方が良かったかな」
「ええーっ、私は『プッシュ』を覚えるのに忙しいんだよ」
「『プッシュ』を覚えたら、虹みたいに光る魔法を覚えてよ」
「分かった」
「でも、今回はどうやって戦う?」
「追い詰めるしかないかな。私たちも前に出ましょう」
アリサと由香里が、一緒に前に出て貝塚を追い込み始めた。もちろん、トリプルプッシュで迎撃する準備をしてである。そうなると、貝塚が苦しくなる。
追い詰められた貝塚へ、千佳が模擬戦スイングを放った。この『スイング』は、威力はないが音が鳴る生活魔法である。威力はダブルスイングと同じだった。
貝塚の肩に模擬戦スイングが命中し、パンという大きな音が鳴る。貝塚は戦線離脱となった。残ったカリナに対して、アリサたちが進み出た。
それを見たカリナは慌てる。
「ちょっと、それは卑怯でしょう」
「問答無用」
千佳が模擬戦スイング、アリサが模擬戦コーンアロー、由香里が魔力弾を放った。この一斉攻撃は、カリナでも避けられなかった。カリナが戦線離脱した。
戦線離脱した天音と貝塚が集まった。
「さて、反省会よ。どこが悪かったと思う?」
カリナの質問に、アリサが正直に答える。
「黒月先輩は、カリナ先生じゃなく攻撃魔法使いの貝塚先生の相手をする方が良かったかな」
黒月が不満そうな顔をする。アリサたちを助けるために、カリナの相手をしようと判断したからだ。
「生活魔法の射程は短いんです。黒月先輩が貝塚先生を攻撃している間に、私たちがカリナ先生を袋叩きにして仕留め、次に貝塚先生を追い詰めた方が良かったと思います」
黒月が不機嫌な顔をする。
「実戦において、生活魔法は本当に魔装魔法使いを倒せるのか?」
魔装魔法を使って防御力を上げた魔装魔法使いを仕留められるのかという疑問を、黒月が告げた。
「もちろんです。例え『スティールガード』を使っていたとしても、倒せる自信が有ります」
アリサが自信有りげに返事した。
「『スティールガード』だって……」
『スティールガード』を習得していない黒月は、カリナの方に視線を向けた。
「黒月君、人体実験はダメよ。丸太を的にして試してみてもらいましょう」
黒月が直径五十センチ、長さ二メートルほどの丸太を運んで来て訓練場の地面の上に立てた。
「これでいいか?」
黒月がアリサに確認した。
「はい、ありがとうございます」
カリナがアリサたちの横に立ち、確認した。
「ねえ、大丈夫なの?」
「大丈夫ですけど、どの生活魔法を使うか、迷っているんです」
「それならいいけど、一番威力のある魔法でいいんじゃないの」
「その魔法は五月蝿いんです。近所の人たちを驚かしてしまいそうで……」
「そうなの……なら、御船さんがよく使う『ブレード』はどうなの。多重起動でどこまで威力が上がるか、興味が有るのだけど」
「分かりました。千佳、カリナ先生からのリクエストよ。セブンスブレードで丸太を斬って」
「了解」
千佳が前に出て、木刀を抜いた。その周りで、黒月・貝塚・カリナが見物している。
「とりゃああ!」
千佳が気合を放つと同時にセブンスブレードを発動した。木刀の先に七重に重なったV字プレートが生まれ、尋常ではない速さで袈裟懸けに振り下ろされた。
セブンスブレードが丸太に食い込み切断する。真っ二つとなった丸太の上部がドタッと地面に落下。黒月が目を見開き、カリナは目を輝かせ、貝塚は脂汗を額から滲ませる。
「ちょっと待て、この魔法は、私がやられた魔法と同じじゃないのか?」
貝塚が青い顔をして言った。
「違いますよ。貝塚先生に使ったのは、模擬戦用に工夫した模擬戦スイングと呼んでいる魔法です。同じものを使ったなら、先生は真っ二つです」
「……そうだな。御船の動きが同じだったので、心配になった」
「まあ、あの魔法も威力を上げれば、先生の肩の骨が砕けていたかもしれませんけど、そこは攻撃魔法と同じです」
また貝塚を青褪めさせる事を言う千佳だった。
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