第67話 六層のキングスネーク
セブンスブレードの威力を見たカリナは、生活魔法を習得しようと決めた。一方、同じものを見た黒月は、風祭が言っていた言葉を思い出していた。生活魔法使いには用心しろというものだ。
「しかし、私と貝塚先生だけでは、訓練になりませんね。どうしましょう?」
カリナや貝塚が本気を出せば、アリサたちを倒せる。だが、それでは模擬戦の範囲を超えてしまう。生活魔法を使うアリサたちの防御力が分からないので、本気を出す訳にはいかなかったのだ。
「剛田先生は、手伝えないのか?」
「教頭先生が選んだチームメンバーの強化で手が離せないそうです」
「仕方ない。実戦で鍛えるしかないですね。彼女たちはF級冒険者です。水月ダンジョンで鍛えましょう」
貝塚も同意した。
「だが、十二層のオークナイトだけは避けるぞ」
「ええ、分かっています」
そう言ったカリナは、貝塚から離れてアリサたちのところへ行った。
「ねえ、あなたたち。グリム先生は元気なの?」
「はい、元気ですよ。水月ダンジョンの十二層でオークナイトを相手に生活魔法を磨くと言っていました」
アリサが代表して答えた。
「ソロなんでしょ。大丈夫なの、あそこのオークナイトは時々集団で行動する連中が居るのよ」
「グリム先生なら、大丈夫ですよ」
「ふーん。ところで、一年の生徒に生活魔法を教えているそうね?」
「ええ、グリム先生から許可をもらって、教えているんです」
「だったら、私にも生活魔法を教えてくれないかな」
「でも、先生はD級冒険者の魔装魔法使いじゃないですか?」
アリサたちは首を傾げた。生活魔法は必要ないんじゃないかと思ったのである。
「御船さんもそうでしょ。それに黒月君もそう。複数の魔法を習得するのも有りなのかもしれない」
「分かりました。グリム先生に、お願いしてみます。でも、どうして今になって?」
「現役で冒険者をしていた頃は、もう限界だと感じて、強くなるのを諦めたのよ。でも、生活魔法に希望を感じたの」
その日は、貝塚が由香里に攻撃魔法を、カリナが千佳に魔装魔法の使い方を教え、アリサと天音は黒月と模擬戦をやって鍛えた。
その結果分かった事は、黒月が卓越した実力の持ち主だという事だ。一対一の戦いでは、アリサも天音も敵わなかった。但し、これは黒月の遠距離攻撃に対応できなかったからだ。
「これも生活魔法使いが克服しなきゃならない弱点ね」
アリサはグリムなら、どうやって克服するか考えた。ただすぐに答えが出るような問題ではないようだ。
次の共同訓練までに、アリサは『オートシールド』と『サンダーボウル』を覚え、天音と千佳は『サンダーボウル』だけ、由香里は『プッシュ』を覚えた。
そして、木曜日の共同訓練では水月ダンジョンへ潜った。黒月と協力して、四層のサテュロスとビッグシープを狩って、連携が取れるように訓練する。
そして、週末までに、アリサと天音、千佳が『サンダーアロー』を習得した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺が水月ダンジョンの前で待っていると、アリサたちが到着。
「グリム先生、おはようございます」
「おはよう。どうだ、新しい生活魔法を覚えたか?」
アリサたちの報告で、習得した新しい生活魔法が分かった。
「今日は、六層へ行って、キングスネーク狩りをするぞ」
「大蛇なんですか」
天音が嫌そうに声を上げた。
「キングスネークは、オークナイトの次に、魔法レベルを上げるために最適なんだ」
これは冒険者ギルドのベテラン冒険者から聞いた情報だった。もちろん、ダンジョンの奥に行くほど、魔法レベルを上げるのに適した魔物が出て来るが、十層までという条件の中だとキングスネークが最適なようだ。
「でも、私たちは四層までしか行った事がありません」
由香里が言った。
「五層は、俺が居るのだから問題ない。ソロでも攻略しているんだから」
「いやいや、グリム先生は別格ですよ」
天音が声を上げた。アリサたちがうんうんと頷く。
「心配ない。群れで襲うような魔物は居ないから、袋叩きで行ける」
アリサたちが苦笑いした。
「時間がないから行くぞ」
俺たちはダンジョンに潜った。四層まではアリサたちも経験が有るので、問題なく進む。五層に下りたアリサたちは、目の前に広がる森林を見て不安になったようだ。
「ここって、ダークタイガーが居るんですよね」
由香里は戦った事のない魔物なので、不安になっているらしい。
「ダークタイガーは『ジャベリン』で狙えば、仕留められる」
なるべくアリサたちが戦って経験を積ませようとした。そのせいか少し手間取ったが、五層を攻略し六層に到達した。茶色の土と石がゴロゴロ転がっている荒野を見たアリサたちは、五層の時よりさらに不安そうな顔をする。
「ここにキングスネークが居るんですよね?」
アリサが尋ねた。
「そうだ。たぶん想像しているよりも大きな蛇だ」
「そう言えば、グリム先生は蛇が苦手だと言っていませんでしたか?」
「ああ、蛇は苦手だ。だから、魔物の蛇は瞬殺する事にしている」
「瞬殺できるんですか?」
「できるようになった。『オートシールド』と『ジャベリン』で仕留められる」
『オートシールド』で守りを固めながら、近付いたキングスネークが口を開けた瞬間にクイントジャベリンを撃ち込めば、仕留められると分かったのだ。
だが、そんな戦い方に慣れていないアリサたちでは無理だろう。俺たちは、巨大な虫であるメガスカラベを倒しながら、キングスネークを探す。
小さな岩山を回り込んだ所で、キングスネークと遭遇。そのデカイ蛇を目にしたアリサたちの顔が青褪めた。やはり想像以上に実物は大きかったようだ。
長い胴体をくねらせながら進み、鎌首をもたげたキングスネークの目は、俺たちを獲物だとしか思っていない目だった。『蛇に睨まれた蛙』という言葉が、俺の脳裏に浮かぶ。
「グリム先生が、蛇を苦手だという気持ちが分かりました」
アリサが呟くように言う。
「そうだろ。あの目が嫌なんだ」
俺が蛇を苦手だと言った事を、アリサが理解してくれて、なぜか嬉しかった。
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