第65話 久しぶりの授業
オークナイトとの戦いを見ていて、アリサたちの実力が分かった。彼女たちは、E級冒険者に匹敵する。ただ攻撃力は有るのだが、防御面が貧弱だった。
帰り道では魔法レベルが上がっていない天音と千佳だけでオークとリザードマンを倒すように指示を出す。
だが、そんなに簡単に魔法レベルが上がる訳もなく、隠し通路の終点まで戻った。草原ダンジョンに戻った俺たちは、木の生えている場所まで行く。
「これから『サンダーボウル』『サンダーアロー』『オートシールド』の使い方を教える」
『ハイブレード』を除いたのは、F級冒険者の天音たちには早いと思ったからだ。天音が手を挙げる。
「ここは教室じゃないんだぞ。手を挙げる必要はない」
「『センシングゾーン』は教えてもらえないんですか?」
「あれは教えられるものじゃないんだ。自分で地道に修業する必要が有る。その代わり修業するほどD粒子に対するセンサーみたいなものが磨かれて、『センシングゾーン』を使わない時でもD粒子を感じられるようになるんだ」
皆が感心したように頷いた。
「まずは、『オートシールド』から使ってみせよう」
俺はマジックポーチから竹刀を取り出して、千佳に渡した。
「俺が合図したら、竹刀で攻撃してくれ」
そう言ってから、『オートシールド』を発動し、千佳に合図を送る。千佳は竹刀を上段に構えてから、俺の頭に向かって振り下ろした。
D粒子シールドの一枚が移動して、その竹刀の一撃を弾き返した。
「おおーっ」
天音が声を漏らし、目をキラキラさせている。
「どんどん打ち込んでこい」
俺が指示すると、千佳が連続で竹刀を振る。その尽くをD粒子シールドが弾き返した。俺は千佳に終わりだと告げる。
「凄いです。これが有れば、攻撃を受ける事はなくなるんじゃないですか?」
天音が興奮気味に質問した。
「いや、これは万能じゃないんだ。爆風は防げないし、強力な攻撃を受けると強制解除される事もある」
俺はゴブリンキングの火球弾を受けて強制解除された時の事を話した。
「それに魔力の消費が多いから、長時間は使えない」
アリサが頷いた。
「使うタイミングを考えないとダメだという事ですね?」
「そうだ。素早い魔物を相手する場合や複数の魔物に取り囲まれた場合は、使った方がいいようだ。それに『センシングゾーン』と同時に使うのが効果的だ」
「あっ!」
その時、由香里が急に声を上げた。俺は由香里に視線を向ける。
「どうしたんだ?」
「グリム先生、やりました。生活魔法が魔法レベル1になっています」
攻撃魔法と同時に生活魔法もレベルが上がったらしい。由香里は攻撃魔法の魔法レベルが上がった事よりも、生活魔法の魔法レベルが上がった事を喜んでいた。自分だけ仲間外れの気分が強かったようだ。
「おめでとう。お祝いに『コーンアロー』の魔法陣をプレゼントしよう」
「ありがとうございます」
由香里は滅茶苦茶喜んでいた。
「さて、次は『サンダーボウル』と『サンダーアロー』だ」
俺は木の幹に向かって、『サンダーボウル』を発動させた。放電ボウルが飛んで木の幹に当たりバチッと火花を飛ばす。
アリサが『サンダーボウル』の威力について質問した。
「威力はどれほどなのでしょう?」
「多重起動しない放電ボウルは、強力なスタンガンと同程度の威力だと考えている。人間に対して使っても、気絶や死ぬなんて事はない。対人戦に使っても問題ないだろう。但し、相当痛いから、間違っても遊びで使うな」
「多重起動した場合は、どうなるんです?」
「トリプルサンダーボウルでゴブリンを仕留める事ができた。それ以上は試していない」
アリサたちは頷いた。
次に『サンダーアロー』を試して見せた。トリプルサンダーアローで木の幹に突き刺さった放電コーンアローの先から電流が流し込まれ、木の幹から白い煙のようなものが立ち昇る。
天音が不満そうな顔をする。
「『サンダーアロー』はバチッと火花を散らさないんですね」
「でも、威力は『サンダーアロー』の方が上だぞ」
『サンダーボウル』の場合、巨大な魔物だと体表だけを電流が流れ効果が薄い事も有るだろう。それに対して『サンダーアロー』だと、突き刺さった内部で電流が流れるので威力が高くなる。
天音たちが七重起動の『サンダーアロー』を見たいと言い出した。まだセブンスサンダーアローは試した事がなかったので、ここで試す事にする。
「それじゃあ、射程ギリギリの十メートル離れて、撃ってみよう」
俺は太い幹を持つ木を目掛けて、セブンスサンダーアローを放った。七つが重なった放電コーンアローは、火花を放ちながら飛び、木の幹に突き刺さると雷が落ちた時のような轟音を発して稲妻が上へと駆け上り、木の天辺から上空へと飛び出した。
「ひゃああっ」
天音たちが可愛い悲鳴を上げる。木の幹には大きな傷が出来ていた。高電流が走り抜けた痕である。木の内部にあった水分が加熱され、湯気が立ち昇っている。もしかすると、煙も混じっているのかもしれない。
アリサは恐怖を感じたようだ。この『サンダーアロー』もアリサたちには早かったかなと思ったが、教えてしまったのだから仕方ない。
「この魔法は、近距離で放ったら、ダメですね」
「そうだな。放った本人まで、危険かもしれない」
俺は『サンダーボウル』『サンダーアロー』『オートシールド』『センシングゾーン』について説明した。その後、地上に戻って着替え冒険者ギルドへ行く。ゴールドバーや魔石を換金するためである。
金は五人で分けた。俺はほとんど戦っていなかったので要らないと言ったのだが、授業料だと言ってアリサたちから押し付けられる。
「それじゃあ、俺からは魔法陣をプレゼントしよう」
「来週の週末には、どれか一つでも習得しといてくれ」
もちろん、由香里は別である。由香里は『プッシュ』から覚えた方がいいだろう。その事は伝えた。そして、得意でない魔法を覚えるには根気が必要なので頑張れと言う。
千佳が俺に視線を向けた。
「グリム先生は、以前に魔装魔法の『パワーアシスト』を習得しようしていましたよね」
その事だけは訊いて欲しくなかった。
「と、途中で色々あって、中断しているんだ。もちろん、俺も最後まで頑張るつもりだ」
ちょっと嫌な汗が滲み出た。本気で頑張ろう。アリサたちと別れた俺は、アパートに帰って『パワーアシスト』の魔法陣を睨む作業を再開した。その結果、四日後に『パワーアシスト』を習得する。
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