第64話 魔力カウンター
アリサは腑に落ちないという顔をする。自分たちはそこそこ強いと思っているが、個人としては学院のトップには届かないと思っていた。
「なぜ私たちなのですか?」
鬼龍院校長は渋い顔をした。
「トップクラスの実力を持つ生徒の中で、チームを組んでいるのが君たちだけなのだよ」
「三年生の中には、私たちより実力の有る者は居るはずです。その人たちがチームを組めばいいだけじゃないんですか?」
「それも考えて、教頭先生がチーム編成を進めている。但し、残り一ヶ月足らずでは、チームワークを高められないかもしれない。そこで考えたのが、実力とチームワークを備えた君たちに、黒月君を参加させるという方法だ」
選抜チームは五人までなので、天音たちに黒月を参加させるという事を考えたらしい。
「でも、黒月先輩はどうするのです?」
「黒月君には遊撃兵として、活躍してもらおうと考えている」
遊撃兵なら、チームワークはあまり関係ないだろうという。かなりいい加減なアイデアだが、理屈は通っている。
教頭が天音たちを見回す。
「言っておくが、本命は私が編成しているチームだ。君たちは万一の場合の保険だ」
教頭が生活魔法に対する評価を変えて、自分たちを参加させる事にしたのかと思っていたが違うようだ。アリサがガッカリして溜息を漏らした。やはり教頭は頭の固いクズだったという事らしい。
「教頭先生、彼女たちに失礼だろう。儂はグリムの教え子である君たちが、選抜チームには相応しいと思うのだが、教頭先生や他の先生たちがダメだと言うのだ」
天音が教頭を睨む。教頭が目を逸らした。
「すまんが、火曜日と木曜日の放課後に、黒月君との共同訓練に参加してくれないだろうか?」
校長の頼みなので、アリサたちは引き受ける事にした。これが教頭の頼みだったら、即座に断っている。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その週の週末、俺はアリサたちと一緒に草原ダンジョンへ行った。
「グリム先生、初級ダンジョンなんですか?」
天音が尋ねる。
「ああ、ボス狩りをしようと思うんだ」
「あのオークナイトですか? あたしたちで大丈夫でしょうか?」
「三人は、五重起動の練習をしているんだろ。なら、大丈夫だ」
「グリム先生、あたしも大丈夫ですよ。魔法レベル7になって、『ライトニングボム』と『マナウォッチ』を覚えました」
俺は由香里を褒めた。
天音が羨ましそうな顔をする。
「『ライトニングボム』って、バチバチッと火花が飛んで綺麗なんですよ。生活魔法に綺麗な魔法はないんですか?」
「綺麗かどうかは分からないが、『サンダーボウル』と『サンダーアロー』という生活魔法が有る」
アリサがやっぱりという顔をする。
「校長先生から聞いたのですが、ダンジョンで魔導書を手に入れたんですか?」
「俺が賢者になったという可能性は考えないのか?」
俺とアリサとの間に、天音が割り込んできた。
「グリム先生は、賢者という感じじゃないですね。賢者というのは校長先生みたいなタイプですよ」
それって、俺から知性とか威厳みたいなものが感じられないという事だろうか? まあいい。
「賢者にしても、魔導書にしても秘密だ。皆もあんまり喋るなよ」
「は~い」
という返事が皆から返ってきた。
俺たちは草原ダンジョンに潜って、例の隠し通路へ向かった。周囲に注意しながら隠し通路に入り、オークとリザードマンを倒しながらボス部屋の前まで行く。
「危険だと判断するまで、俺は手を出さない。皆でボスを倒すんだ」
「何か、アドバイスはありますか?」
アリサが確認した。俺は『袋叩きだ』と答えた。
「やっぱり、賢者というのは無理がありますね」
由香里が言う。それを聞いた他の三人が頷いた。
「クッ、さっさと行け!」
皆でボス部屋に入った。オークナイトが身構える。アリサたちは散開し、オークナイトを中心に扇形になるような位置に着く。
オークナイトが天音目掛けて襲い掛かってきた。天音はクイントプッシュを叩き込む。撥ね飛ばされたオークナイトが立ち上がろうとした時、アリサのクイントジャベリンが命中しオークナイトの鎧をへこませる。
次々に生活魔法と攻撃魔法がオークナイトに命中して、その息の根を止めた。オークナイトが消え、何かがボス部屋の床に残った。
アリサと由香里がニコッと笑う。
「グリム先生、魔法レベルが上がりました」
「あたしも」
二人は身体の中でドクンという音を聞いたらしい。
「おめでとう。やっぱり袋叩きが正解だっただろ?」
アリサが笑って答える。
「そういう事にしておきます。さあ、ボスドロップの確認よ」
皆でボスドロップの確認を行う。三つのものが落ちていた。一つは緑魔石<中>である。
そして、もう一つはゴールドバーと呼ばれる金地金だった。この大きさだと五十万ほどするだろう。
最後に残ったのは、魔力カウンターと呼ばれるもので魔力量を計測して表示するものだった。形状は軍用の認識票、またはIDタグと呼ばれているものに似ている。
光沢の有る銀色のタグで、触っている者の残存魔力量を表示する。試しに、俺が触ってみると三千という数字を表示した。表示された数字は、魔法文字に使用される数字である。
アリサたちは六百~七百だった。この魔力カウンターも魔道具の一種であるが、大量にドロップするので安かったはずだ。
アリサたちに売るのかと尋ねると、自分たちで使うという答えが返ってきた。アリサが魔力量を計測する分析魔法『マナ』が使えるので必要ないかとも思ったが、『マナ』は魔力を消費するので、魔力を消費しない魔力カウンターは必要だという。
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