第2章 生活魔法クラブ編

第51話 生徒たちの挑戦

 天音たちが二年生になって、一ヶ月が過ぎた。

「はああ……何で二年になると生活魔法の授業がないんだろう?」

 教室で、そんな愚痴を零す天音。それを聞いた由香里が笑った。


「生活魔法の授業があったとしても、教えるのは、城ヶ崎先生だよ」

「そうか、グリム先生が学院に残っていてくれたら、良かったのに」


「私も残って欲しかったけど、グリム先生にとっては、学院の臨時教師より、プロ冒険者になった方が良かったんじゃない」


 アリサと千佳が近寄ってきた。

「何を話しているの?」

「グリム先生が、学院に残ってくれていたら、良かったのに、と話していたのよ」


 アリサと千佳は頷いた。

「私もそう思うけど、嘆いても仕方ないでしょ。それよりF級の昇級試験を受ける許可が出たよ」

「やったー、良かった」


 普通の冒険者なら、昇級試験を受ける資格有りと冒険者ギルドが認めたら、すぐに試験を受けられる。だが、学院の生徒であるアリサたちは、学院の許可が必要だった。


「校長先生が退院してくれて、幸いだった。教頭が校長代理だったら、許可してくれなかったかもしれない」

 千佳は校長室に許可をもらいに行った時、校長の横に立っていた教頭の顔が渋いものになっていたのを見たのだ。


 その日の授業が終わってから、天音たちは冒険者ギルドへ行った。受付に並んで、F級の昇級試験を受ける手続きをする。


「F級昇級試験を受けに来ました。今月の課題は、何ですか?」

 アリサが受付に尋ねた。受付は今年入ったばかりの新人で、望月マリアという女性だ。

「あらっ、ジービック魔法学院の生徒さんね」


 そう言ったマリアの顔を見た天音は首を傾げた。誰かに似ていると思ったのだ。

「カリナ先生に似ているんだ」

 マリアが笑って答えた。

「カリナは、私の姉です」


 天音たちは驚いた。

「あたしたちの担任は、カリナ先生なんですよ」

「そうなの、偶然ね。私の事は、マリアと呼んでね」


「マリアさん、今月の課題は?」

「あっ、そうでした。課題は水月ダンジョンの三層でリザードマンを三匹倒す事です」


 それを聞いたアリサが確認する。

「水月ダンジョンに入れるんですか?」

「ええ、試験官と一緒に行くので、入れます」


 マリアの話によると、試験官は冒険者ギルドが指名し、試験を受ける生徒も付添人を指名できるという。

「付添人? 何で、そんな人が必要なんです?」


 アリサの質問に、マリアが苦笑した。

「試験で生徒が負傷した時に、保護者から文句があったらしいの。その時に、色々揉めて付添人を付けられる事になったらしいのよ」


 天音がニコッと笑った。

「だったら、グリム先生に付添人になってもらいましょうよ」

「おっ、いいアイデアだ」

 千佳が真っ先に賛成した。アリサたちも賛成だった。しばらくグリムと会っていなかったので、会いたくなったのだ。


 天音たちがグリムに頼むと承諾してくれた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺は水月ダンジョンに向かった。アリサたちに付添人を頼まれたからだ。俺もアリサたちに教えられて初めて、付添人という制度を知った。


 俺がダンジョンハウスで着替えて待っていると、アリサたちがやって来た。試験官はE級冒険者の小野鉄心だった。


 アリサたちが俺の周りに集まった。

「くっ、ハーレム状態かよ。爆発しろ」

「爆発しろはないでしょ。四人は俺の教え子なんです」


 アリサが笑って説明した。

「そうですよ。グリム先生から、生活魔法を教わっていたんです」

「何だと、グリムは学院の教師だったのか、若いのに偉いもんだな」


「生活魔法を教えられる者が、居なかったからですよ」

 鉄心は納得して頷いた。生活魔法の才能が有る者でも、役に立たないと思われている生活魔法を覚えようとする者は少ないのだ。


「さあ、水月ダンジョンへ潜るぞ」

 鉄心が先頭に立って進み始めた。俺たちも続いてダンジョンに入る。ダンジョンに入ると、鉄心は一歩引いてアリサたちを前に出す。


 三層に到着するのも試験の一部らしい。アリサたちは鬼面ドッグや角豚を倒しながら先に進んだ。一層を突破した天音たちは、オークやアタックボアが居る二層へ下りた。


「気を付けろよ。ここにはオークが居るからな」

 鉄心が警告した。だが、その必要はなかった。アリサたちは手際よくオークを倒し、ダンジョンの奥へと進んだからだ。


「ふうん、オークと戦い慣れているな。草原ダンジョンでオーク狩りでもしていたのか?」

 鉄心がアリサに尋ねた。

「そんなところです。この課題でラッキーでした」


 二層も簡単に突破したアリサたちは、三層に下りた。

「ここのリザードマンを三匹ずつ倒せば合格だ。皆なら楽勝だろう。だが、油断するな」

 俺は忠告した。それを聞いたアリサたちは、嬉しそうに返事をする。


 三層は湿原エリアだ。ところどころに沼があり、足元にはジメジメした土地が広がっている。ここに居るジャンボフロッグには気を付けなければならないが、アリサたちなら大丈夫だろう。


 ジャンボフロッグが天音に襲い掛かった。天音はクワッドアローで大蛙の頭を撃ち抜いた。冷静で狙い澄ました一撃である。


 鉄心が天音のクワッドアローを見て、口をへの字に曲げた。

「そいつは本当に、魔力弾じゃねえのか?」

「違います。これは『コーンアロー』という生活魔法です。グリム先生の魔法ですよ」


「グリムの魔法……グリムが発見して魔法庁に登録したのか。儲かってるか?」

 鉄心、嫌な事を訊くな。

「それが全然儲かっていないんです。知名度が低すぎて、ほとんど習得しようという者が居ないんだ」


「俺も初めて聞いたからな。でも、威力は有る。人気が出るんじゃねえか」

「そうなら、いいんですが……『コーンアロー』は魔法レベル3にならないと、あまり威力が出せないからな」


「ふーん、攻撃魔法みたいに、魔法レベルが上がると威力が増すのか?」

「まあ、似たようなものです」

「おれも習得するかな」


 鉄心の生活魔法の魔法才能は『D』らしい。それなら十分に習得する価値があるだろう。

「それなら、『コーンアロー』と『プッシュ』を習得する事を、お勧めします」


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