第49話 ゴブリンキングのドロップ
セブンスプッシュで背後からの攻撃を退けた俺は、どうやって倒すか考えた。セブンスジャベリンでは倒せそうにない。生活魔法の魔法レベルは『9』だ。理論的にはナインスジャベリンまで放てるが、これは練習不足で上手くいかない。
実戦で使えるのはセブンスジャベリンくらいが限界なのだ。
「となると、『ハイブレード』か」
セブンスハイブレードなら倒せそうな気がする。だが、発動に時間が掛かる。
そんな事を考えていたら、ゴブリンキングが火球弾を撃ち出した。D粒子シールドが直撃を防いだが、爆風が俺を吹き飛ばす。
ゴロゴロと転がった俺は、ダンジョンの壁に激突して止まった。追撃するゴブリンキングが槍を突き出す。俺は慌ててセブンスプッシュを放つ。『プッシュ』は至近距離で発動したので、素早いゴブリンキングも避けられない。
五メートルほど宙を飛んだゴブリンキングが、着地すると飛ぶように襲い掛かってくる。必死で躱して逃げ回る。俺は全身に浅い傷を作りながら戦った。
「はあはあ……こんなの続けていたら、殺される」
俺は戦いながら必死に考え、ある作戦を絞り出した。作戦を実行するのに最適な位置まで移動する。
その俺を追ってゴブリンキングが、火球弾を放った。D粒子シールドが弾いたが、『オートシールド』も耐えきれずに崩壊し強制解除される。
ゴブリンキングはシールドがなくなったのを感じて、邪悪な笑いを浮かべた。もう一度火球弾が放たれ、俺はクイントプッシュで迎撃する。
ゴブリンキングが不機嫌な顔になる。そして、槍を構えると突撃してきた。俺は斜め下から突き上げるようにセブンスプッシュを発動した。
セブンスプッシュを喰らったゴブリンキングは宙を飛んだ。そして、俺は『プロップ』を発動した。『プロップ』は空中に物を固定する生活魔法である。
固定時間は五秒ほどなので、使えないと思っていた。だが、時間稼ぎにはなる。そう思ったのだ。ゴブリンキングが空中でバタバタしている間に、俺はセブンスハイブレードを発動する準備をする。
空中で暴れていたゴブリンキングは、五秒が経過して落下した。着地したゴブリンキングが凄まじい形相で迫って来る。
俺はセブンスハイブレードを横に薙ぎ払うように発動した。音速を超えるまで加速できなかったが、それに近い速度になったセブンスハイブレードがゴブリンキングに刃を食い込ませる。守っていた魔力障壁は一瞬だけ抵抗したようだが、圧倒的な力で切り裂き、魔物の頑丈な身体も真っ二つとした。
仕留めたと分かった時、全身から力が抜けて座り込んだ。身体の内部でドクンドクンと音がした。魔法レベルが上がったのだ。
「生き延びた」
それが正直な感想だ。ゴブリンキングが倒れた場所を見ると、まず黒い魔石が目に入った。黒魔石は魔道具を作るために必要な工具の部品として使われており、赤魔石よりも高価だと聞いている。
黒魔石<小>を拾い上げてリュックに入れる。黒魔石が落ちていた横には、ベルトポーチのような小物入れが落ちていた。
「まさか、これがマジックバッグなのか?」
過去の中ボスがボスドロップしたマジックバッグは、リュックやボストンバッグのような形のものが多かったのだけど……ベルトポーチだよな。
俺はちょっとガッカリした。ベルトポーチ自体が小型で、マジックバッグだったとしても容量が小さそうだったからだ。それに大きなものは入れられそうにない。
ベルトポーチを調べると、その上部に紫色の金属結晶で出来た飾りが付いている。その金属結晶を指で触った瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。それは『マジックポーチ』の説明情報だった。
飾りの金属結晶は『収納メタル』と呼ばれているもので、これに触りながら収納したい物、または出したい物を念じれば、出し入れができるようだ。収納する物の大きさは関係なく、収納容量内ならば、出し入れできるらしい。その容量は二千リットルほどのようだ。
嬉しい機能があった。最初に収納メタルを触った者しか使えないというものだ。従って、このマジックポーチは、俺専用になる。
他に何かないかと探す。指輪が落ちていた。
「指輪か……魔導装備の可能性も有るけど、中には呪いの指輪も有るからな」
これはアリサにでも調べてもらわないとダメだろう。
俺は中ボス部屋に入って十層へ下りる。十層は草原だった。それを確かめた俺は、地上に戻った。
地上では大騒ぎになっていた。
「おう、グリム。無事だったのか。遅えから殺られたかと思ったぞ」
鉄心が俺に声を掛けた。
「皆の逃げ足が速すぎるんですよ。それより風祭たちはどこに行ったんです?」
「支部長に呼び出されて、冒険者ギルドへ行ったぞ。今頃、何が起きたのか質問されているだろう」
「叱られるんですかね?」
「どうだろうな。今回の場合は、仲間の命を助けるためにやった事だからな。支部長もゴブリンキングに殺されれば良かったとは言えねえだろう」
そこに渋紙ダンジョンの橘クルミが情報を聞きに来た。
「鉄心さん、中ボス部屋でゴブリンキングが出たと聞きましたが、本当ですか?」
「ああ、本当だ。学院チームの連中は、ゴブリンキングに皆殺しにされるところだった。上手く逃げたから良かったが、危うかったぜ」
「でも、中ボス部屋で戦っていたんでしょ。どうやって逃げたんです?」
「あいつら、エスケープボールを持っていやがったんだ」
「まさか、ゴブリンキングも一緒に中ボス部屋から出てきたんじゃ?」
「そのまさかさ。今頃、ゴブリンキングがダンジョン内をうろうろしているんじゃねえか?」
それを聞いた俺は、
「それはないです。俺がゴブリンキングを倒しましたから」
それを聞いた鉄心が笑い出した。
「おいおい、ゴブリンキングは、F級冒険者に倒せるような魔物じゃないんだぞ」
周りの冒険者たちも、それを聞いて頷いた。
ひょうきんな冒険者が、
「何を隠そう、ゴブリンキングを倒したのは、この俺様だ」
「お前が倒しただと、違う違う、倒したのは僕だ」
ノリの良い者はどこにでも居るものだ。ゴブリンキングを倒したのは、自分だという冒険者が何人も現れた。そういう連中に限って、先頭集団にも追いつけなかった者が多かった。
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