第44話 ツインヘッドスケルトン

 ツインヘッドスケルトンの武器以外の装備は、スケイルアーマーだけだった。

「気を付けろ。こいつは手強そうだ」

 アリサたちが元気に返事をした。


 ツインヘッドスケルトンは、俺たちに気付いて動き始めた。カチャカチャという足音を立てながら、近付いてくる。遠い間合いで仕留めようと思い、俺はセブンスジャベリンを放つ。


 セブンスジャベリンはスケイルアーマーに命中。その衝撃でツインヘッドスケルトンは弾き飛ばされた。だが、スケイルアーマーは思っていた以上に防御力が高かった。起き上がったダンジョンボスのスケイルアーマーは無傷だったのだ。


 あんなスケイルアーマーが欲しいなと思った時、天音たちが攻撃を放っていた。クイントジャベリンと『ファイアバースト』である。


 クイントジャベリンはあまりダメージを与えられなかったが、『ファイアバースト』の火炎弾がツインヘッドスケルトンに命中すると爆発した。激しい炎がダンジョンボスを包み込む。


 炎が収まった時、ツインヘッドスケルトンは煤けていたが、それほどダメージを受けたようには見えなかった。


「タフな化け物だ。どうやって仕留めよう?」

 俺の言葉に千佳が頷き、ダンジョンボスを睨みながら言う。

「あの二本の剣が邪魔です」


「なら、俺があいつを神殿の壁に叩き付けるから、皆で手を攻撃してくれ」

 千佳たちが頷いた。俺はセブンスプッシュを発動した。ブンという空気を切り裂く音がして、D粒子プレートが高速で飛翔する。それがツインヘッドスケルトンに激突し突き飛ばした。


 宙を飛んだ化け物は、神殿の壁に轟音を立ててぶつかる。部屋全体が震えた。次の瞬間、アリサたちの魔法が化け物の手を攻撃。


 左手は手首が砕けて、ショートソードが床に落ち、右手はロングソードを投げ出した。化け物が武器を失ったのだ。チャンスだと思った俺は、飛び込んで右の頭蓋骨にクイントブレードを叩き込む。


 その頭蓋骨が割れた。だが、ダンジョンボスは死んではおらず、蹴りが俺を襲った。辛うじてアームガードで防御するが、三メートルほど宙を飛んで床を転がる。


「グリム先生!」

 教え子たちの声が聞こえた。俺は立ち上がり、ダンジョンボスを見た。俺を無視して、放り投げたロングソードを拾い上げようとしている。


「こっちを向け!」

 俺は叫んで、セブンスジャベリンを放つ。振り返ったダンジョンボスの無事な方の頭蓋骨に突き刺さった。


 ツインヘッドスケルトンが床に倒れて消えた。残ったのは黄魔石<中>と巻物、それに黒いフード付きマントだった。


「魔石はいいとして、問題は巻物だな」

 俺は巻物を拾い上げて、広げて見た。それは生活魔法の『オートシールド』という魔法だった。


「嘘だろ。こんな事って有るのか?」

 その言葉を聞いたアリサたちが近寄って来た。

「どうしたんですか?」


「この巻物、生活魔法の『オートシールド』という魔法だった」

「凄い」「強運ですね」

 アリサたちは喜んだ。だが、由香里だけは不満そうな顔をしている。


「皆だけ、ずるい」

「そう言われてもな。どうやら、倒した者が、どういう魔法を使うかも、ボスドロップに影響を与えるようだ」


 益々不満そうな顔になった由香里を見て、天音がフード付きマントを拾い上げた。

「由香里には、これなんかどう?」

「えーっ、マントなんかじゃ、誤魔化されないよ」


 アリサがマントを見て、顔色を変えた。

「ちょっと待って、それは魔導装備かも」

 その言葉を聞いて、俺も驚いた。初級ダンジョンで魔導装備が出たなんて聞いた事がない。本当に魔導装備なら、億単位の価値になるはずだ。


 由香里がマントを手に取って調べ始めた。

「こ、これが魔導装備?」

「ちょっと、私に貸して、調べて見るから」

 アリサがマントを調べ始めた。分析魔法には『アイテム・アナライズ』という魔法があるのだ。


 『アイテム・アナライズ』が発動され、アリサが少しがっかりしたような顔をする。

「どうしたの?」

「やっぱり魔導装備だったけど、残念ながら『防刃マント』です」


 溜息が漏れて肩を落とした。魔法を利用した装備は魔導装備と呼ばれている。その中には魔法を使って製作されているだけで、魔法的効果を発揮しないものも有る。


 そういう装備は魔導装備の一種では有るが、『魔製装備』と呼ばれている。この防刃マントも魔製装備だった。普通の剣などでは傷つかないほど強靭だが、それだけなのだ。


「魔製装備か。グリム先生、どうします?」

「そうだな……一人だけ『オートシールド』を利用できないというのは、不公平だから、マントは君島さんが使うという事にしようか」


 由香里が俺に視線を向けた。

「いいんですか? これを売ったら、かなり高額で売れるんじゃないですか?」

 天音が由香里の背中をバンと叩いた。


「遠慮なんかしないで、あたしたちには『オートシールド』が有るんだから……でも、どうやって一つだけの巻物で、四人が習得するんです?」


 アリサが笑って説明を始めた。

「そういう場合は、一流の分析魔法使いに頼んで、巻物から魔法陣を取り出してもらうのよ」


 俺は頷いて皆を見回した。

「この巻物は、俺が預かって魔法陣にしよう。だけど、魔法レベルが高くないと、習得できない魔法のような気がする」


 天音が明るい顔になった。

「魔法レベルですけど、今の戦いで上がりました」

 他の皆も上がったらしい。どうやら魔法レベルが上がらなかったのは、俺だけだったようだ。この前上がったばかりだから、初級ダンジョンのボスを倒したくらいでは上がらないのだろう


 天音・アリサ・千佳の生活魔法が魔法レベル6となり、由香里の攻撃魔法も魔法レベル6となったという。


「はあっ、若い者は成長が早くて、羨ましい」

 アリサが呆れた顔をして、俺を見る。

「グリム先生、歳はあんまり変わらないじゃないですか。苦労されているせいか、時々年寄りみたいな事を言いますよね」


「そうなんだけど、この前まで魔法レベル1で、角豚を倒すのにも苦労していたのを思い出すと、そんな気分になるんだよ」


 皆がおかしそうに笑う。自分たちも成長していると感じているのだろう。

「さて、精霊の泉を探すぞ」


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