第43話 骸骨ダンジョン最終層
骸骨ダンジョンの三層は、水月ダンジョンの七層と同じ墓地エリアだった。但し、水月ダンジョンの墓地エリアに比べるとこぢんまりしたものだ。
「この墓地エリアには、スケルトンソルジャーとファントムが居る。ファントムは任せたぞ」
俺は由香里に向かって言った。
「ちょっと魔力は減っちゃいましたが、任せてください」
俺たちは階段のある墓地の奥へと進んだ。この墓地エリアには木の陰になっている場所がある。そこに魔物が潜んでいるらしい。
「不気味ですね」
天音が小声で言う。それに応えるように、木の陰からスケルトンソルジャーが出てきた。スケルトンソルジャーは、身長百八十センチほどで革鎧とショートソードを装備しているスケルトンである。
通常のスケルトンより動きが滑らかで、剣捌きも慣れているように見える。魔法がなければ、倒すのに苦労するだろう。
千佳が前に進み出た。剣術家として戦ってみたくなったようだ。
「こいつは、私に任せてください」
『パワーアーマー』を発動して全身を強化した千佳は、スケルトンソルジャーに飛び掛かり首を刀で薙ぎ払った。
スケルトンソルジャーがショートソードで刀を受け止めた。千佳が強引に突き離し、距離を取る。千佳は剣技と魔装魔法だけでスケルトンソルジャーを倒そうとしたが手子摺っている。
千佳の斬撃をショートソードで受け止めたスケルトンソルジャーは、上からショートソードを振り下ろした。千佳が足捌きだけで躱し、下から刀を擦り上げる。
その斬撃はスケルトンソルジャーの革鎧を斬り裂いたが、致命傷ではない。何度か斬撃を交わしたが、勝負は着かない。千佳は仕方なくトリプルブレードで頭蓋骨を叩き割る。
「……首を刎ねられると思ったんですけど、ダメでした」
「スピードは有ったけど、動きが直線的すぎたんだ」
俺がそう言うと、千佳が肩を落として頷いた。
その後、何体かのスケルトンソルジャーと遭遇した。この魔物もショートソードの間合いに入らせなければ、怖い相手ではなかった。トリプルプッシュとトリプルアローで十分に対応できるようだ。
墓地の半分ほどまで進んだ時、半透明な影のような存在と遭遇。間違いない、ファントムだ。このファントムに接触すると魔力を吸い取られてしまう。
「由香里、ファントムよ」
アリサが由香里の出番を告げた。
由香里が前に出るとファントムが襲い掛かってくる。手をかざした由香里は、『ターンアンデッド』を発動する。その手から黄色い光の粒がシャワーのように放出された。
『あううっ』
頭の中に変な声が響いて、ファントムの影が消えた。そして、ポトリと黄魔石<小>が地面に落ちる。
俺は腑に落ちない気分になった。実体のないファントムが死ぬと実体のある魔石を残すというのが、何だか納得できない。まあいいか。魔物については、ほとんど分かっていないのだから。
「先生、本当にファントムは、生活魔法が効かないんでしょうか?」
天音が生活魔法対ファントムに疑問を持ったようだ。
「さあ、試した事がないからな。次にファントムと遭遇した時に試してみようか」
俺たちは誰がどの生活魔法を使うか決めてから、先に進んだ。五分ほど進んだ時、またファントムに遭遇。俺たちは予め相談していた通り、生活魔法を発動する。
アリサのトリプルジャベリンがファントムを素通りし、天音のトリプルアローも素通りする。千佳のトリプルブレードも効かず、俺のトリプルプッシュもダメだった。
最後の最後で由香里が『ターンアンデッド』を発動してファントムを倒す。
「やっぱり、生活魔法もダメだったね」
天音が残念そうに言った。
俺たちはファントムを由香里に任せる事にして、墓地の奥へと進む。
「見て、階段よ」
天音が最初に階段を見付けた。俺たちは階段を下りて四層へ向かう。
四層は戦場跡だった。ここで遭遇したのは、スケルトンソルジャーとオークスケルトンだ。ここは人間とオークが戦った戦場だったようだ。
オークスケルトンはスケルトンソルジャーより膂力があったが、剣の技量はお粗末だった。
「やっぱり、初級ダンジョンだな。これだけ魔物を倒したのに、魔法レベルが一人も上がらない」
「仕方ありませんよ。初級ダンジョンじゃ上がらなくなっているんです。私たちも冒険者ランクを上げようと思うんですが、どう思います?」
アリサの質問に俺は同意するように頷いた。
「そうだな。それがいいかもしれない」
そう答えながら、俺はまずいと思った。これでは教え子たちに追い付かれてしまう。俺も上を目指してE級に挑戦しよう。
俺たちは遭遇する魔物を叩きのめし四層を縦断した。そして、階段を見付けて下りる。次の五層が骸骨ダンジョンの最終層だ。
この最終層は廃墟の街だ。二層のような寂れた村ではなく、かなり大きな町だったようで、その中心部には商店街と神殿がある。但し、廃墟なので建物は壊れている。
ボス部屋は神殿にあるらしい。その神殿へ向かう途中、オークスケルトンとファントムに遭遇した。ファントムは『ターンアンデッド』で倒し、オークスケルトンはトリプルプッシュとクワッドアローで倒した。
オークスケルトンの頭蓋骨は丈夫で、トリプルアローでは仕留められない事が有る。それでクワッドアローにしたのだ。天音たちも練習しているようだが、まだちょっとした溜めが必要らしい。
そして、ついに神殿に到着。半壊した神殿の奥に進むと、扉があった。その扉を押し開けると、ダンジョンボスが居た。冒険者ギルドの資料室で調べた通り、ツインヘッドスケルトンである。
頭蓋骨を二つ持つスケルトンで、大きさは二メートルを超えている。右手にはロングソード、左手にはショートソードを持っている。
「こいつ、二刀流なのか?」
スケルトンの頭蓋骨には中身が無いので、剣を二本も操れるのかと疑問に思った。だが、天音は別な意見だった。
「こいつは、頭一つが一本の剣を操るんですよ」
そうなのか? でも、両方とも脳味噌ないよね。―――そう考えると、スケルトンソルジャーも脳味噌が無いのに、ショートソードを操っている。魔物は人間の理解を超えている。
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