第42話 骸骨ダンジョン

 精霊の泉の話を聞いた俺は、聖銀製の短剣を手放さないで良かったと思った。聖銀製短剣を精霊の泉に入れて聖なる武器にすれば、ファントムだって倒せるようになる。


「頼みがある。俺も骸骨ダンジョン攻略に参加させてくれないか?」

 天音が首を傾げてから、

「グリム先生ならいいですよ。でも、中級ダンジョンに活動を移したんじゃないんですか?」


 俺は溜息を漏らした。

「水月ダンジョンの七層で止まっているんだ。あそこはアンデッドエリアなんで、どうしても対アンデッド用の武器が必要なんだよ」


 天音たちは納得したように頷く。それから千佳が質問した。

「先生、素早い敵に対応する手段は、どうなりました?」


「素早い敵に対応する手段か、それには生活魔法の『センシングゾーン』という魔法が必要だと分かった。但し、それは魔法レベル8にならないと習得できないから、すぐには無理だな」


 天音が口を尖らせた。

「ええーっ、またですか。……でも、仕方ないか。先生は習得したんですか?」

「ああ、俺は魔法レベル9になったからな」


 天音が肩を落とした。

「はあっ、もう少しで追い付けると思ったのに」

 そう簡単に追い付かれてたまるか。


「『センシングゾーン』については、皆が魔法レベル8になってからという事で、まずは骸骨ダンジョンを攻略するぞ」

 天音たちが頷いた。


 その週の日曜日、俺と天音たちは骸骨ダンジョンへ向かった。ダンジョンハウスで着替えてから、ダンジョン前に集合する。


「忘れ物はないか?」

 四人は聖なる武器にするものとして、銀製の短剣を購入したそうだ。一本二十万円ほどするもので、作刀を頼んでいる千佳は、貯金がなくなったらしい。


「よし、行こうか」

 俺たちはダンジョンの入り口に向かった。

「あっ、そうだ。言い忘れた事が有った。俺のポーチには魔法薬が入ったケースが入っている。必要になったら、いつでも使っていいからな」


 俺は冒険者ギルドの売店で、魔法薬のガラス容器を保護する円筒形のケースを四本買った。その中の二本に初級治癒魔法薬と初級解毒魔法薬を入れ、ポーチに入れている。このケースの内側には衝撃吸収材が貼られており、ガラス容器を守るようになっていた。


 それを聞いた天音が、どういう状況で手に入れたものなのか、興味を持ったようだ。

「その魔法薬は、水月ダンジョンで手に入れたんですか?」


「ああ、サテュロスとキングスネークを倒した時に、手に入れた」

「羊人間と大蛇ですか。大蛇はちょっと勘弁して欲しいです」

 天音は蛇が苦手らしい。俺もそうなので、うんうんと頷いた。


 それを見たアリサが微笑む。

「グリム先生は、蛇が苦手なんですか?」

「苦手というのは本当だけど、キングスネークは人間を丸呑みしそうな大蛇だぞ。目と目を合わせると誰でもゾッとする」


 俺からキングスネークとの戦いを聞いたアリサは、考えるような顔になった。

「生活魔法による防御は、『プッシュ』だけですか。少し心細いですね」

 それは俺も感じた。だけど、本格的な防御魔法が有るのは、魔装魔法だけなのだ。


「今日は最終層にまで行くつもりなんだから、話はここまでにして行こう」

 俺たちはダンジョンに入った。


 骸骨ダンジョンの一層は、何もない荒野である。石とちょっとした草が生えているだけで何もない。その荒野をスケルトンがさまよっている。


 俺たちは一体のスケルトンに遭遇した。その骨だけの手に握られているのは棍棒である。

「あたしに任せて」

 由香里が攻撃魔法を使おうとするのを、アリサが止めた。


「待って、由香里にはファントムを倒してもらわないとダメだから、スケルトンやグールは、他の皆で倒しましょう」


 アリサはしっかりしている。由香里の魔力を温存するために、指示を出したのだ。由香里の代わりに千佳が出てトリプルブレードでスケルトンを真っ二つにした。


 スケルトンの頭蓋骨を破壊すると倒せるようだ。遭遇するスケルトンを片っ端から倒してダンジョンの奥へと進む。


 今回はダンジョンの地図を購入している。アリサたちと一緒に攻略するとなると、時間が限られているからだ。俺たちは迷わずに階段へと進んだ。


 二層へ下りる階段の前に骸骨犬の群れが居た。骸骨犬とはスケルトンの犬バージョンである。大型犬がスケルトンになったらしい骸骨犬は、スケルトンより俊敏なので、倒し難い。


 それでもトリプルプッシュとトリプルアローを駆使すれば、簡単に倒せる相手だった。俺は向かって来る骸骨犬にトリプルプッシュを当てて弾き飛ばし、倒れた骸骨犬の頭蓋骨にトリプルアローを撃ち込む。


 最初からトリプルアローで仕留めようとすると、外す事もあるので危険である。やはり『プッシュ』で倒してからというのが一番のようだ。


 階段を下りて二層に入る。そこは廃墟の村だった。遭遇するアンデッドは、ゾンビのような魔物、正確にはグールである。スケルトンも偶に遭遇するのだが、圧倒的にグールが多い。


 腐りかけた肉を纏ったグールは、由香里たちには不評だった。

「ダメー、来ないで!」

 魔力を温存しろと言われた由香里も、『バレット』や『ファイアバースト』を使って攻撃している。


 アリサや天音、千佳も必死の形相でトリプルジャベリンを放っていた。

「皆、落ち着け。動作の遅いグールにはトリプルアローで十分だ」

 俺が注意したが、天音たちはグールが近付く事も嫌がり、遠い場所で殲滅させた。


 二層は最短距離で駆け抜け、階段で三層へ下りた。三層に到着するとアリサたちは落ち着いた。


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