第41話 水月ダンジョン七層
黒い虎と言っても、真っ黒だという訳ではない。本来の虎は黒と茶色と白の縞模様である。このダークタイガーは茶色が灰色に変わっているのだ。
このダークタイガーは、強敵だという訳でもない。オークナイトに比べれば、倒しやすい魔物である。この時もジャベリンが命中すると半死半生となり、クワッドアローでトドメを刺した。
「クワッドアローも、ほとんど溜めなしで放てるようになった。次は五重起動を中心に修行するかな」
俺は修業のレベルを上げる事にした。
五層で遭遇する魔物は、ダークタイガーとオーク、それにバトルモンキーである。バトルモンキーは初級ダンジョンにも出る魔物であり、トリプルアローで倒せる相手だ。
俺は探索を続け、目指した巨木の根本に階段を見付けて五層から六層へと移動した。今日は運が良いらしい。
この六層は茶色の土と石がゴロゴロ転がっている荒野が広がるエリアだった。今日は六層を探索するつもりはなかったので、下調べをしていない。だが、調子が良いので進む事にした。
「さて、ここには、どんな魔物が居るかな」
荒野を歩き始めると、前方からカサカサという音が聞こえてきた。俺は嫌な予感を覚えて立ち止まった。そして、何かが近付いてくる気配を感じて戦鉈を構える。
大きな岩の陰から現れたのは、巨大なフンを転がしている虫だった。その大きさは転がしているフンの大きさから分かる。そのフンは直径が二メートルも有るのだ。
メガスカラベと呼ばれる魔物だった。俺は隠れる場所を探した。だが、メガスカラベが俺に気付いた。フンから足を離し、俺に向かって走ってくる。
「近寄るな!」
俺は叫ぶと同時に、クイントジャベリンを放っていた。その一撃はメガスカラベの背中を貫通する。
メガスカラベが足を痙攣させている。消えるかと思い見守っていると、痙攣が収まりまた走り出した。しぶといな、そう思って魔物に向けて戦鉈を振り下ろす。同時にクワッドブレードを発動した。
戦鉈の延長上に四枚のV字プレートが現れ一つに合わさって、メガスカラベの頭を切り裂いた。虫の魔物が消滅する。俺は緑魔石<小>を拾い上げて、素早く逃げた。
メガスカラベが残したフンの塊は、周囲に悪臭を放っていた。このまま近くに居れば、服や身体に臭いが染み付きそうだったのだ。
俺は荒野を歩き回って、メガスカラベを六匹倒した。それでも生活魔法の魔法レベルは上がらない。中級ダンジョンの低層で遭遇するような魔物を倒しても、簡単には上がらないレベルになっている。
ちょっと疲れを覚えた頃、荒野の真ん中にある神殿の廃墟のようなものが目に入った。屋根が落ち、太い石の柱だけが残っている。
「うわっ、あれは」
廃墟の前にキングスネークがとぐろを巻いていた。この魔物は全長十二メートルとかなり大きい。そして、尻尾の先にラトルと呼ばれる音を出すものが付いている。
つまり、キングスネークはガラガラヘビが巨大化した魔物なのである。キングスネークが尻尾を震わせると、ジャラジャラという音が鳴る。
その音を聞きキングスネークの姿を見ると、胸の奥から原始的な恐怖が湧き起こった。俺は慌ててクイントジャベリンで攻撃した。クイントジャベリンはキングスネークの長い胴体を貫く。
血を流したキングスネークは、俺が攻撃したのだとすぐに分かったようだ。俺に向かって進んでくる。もう一度クイントジャベリンを放つ。残念ながら外れた。俺は魔装魔法を習得しようとして、途中で中断している事を後悔した。
魔装魔法の防御力を上げる魔法を習得していれば、もっと冷静に対応できたと思ったからだ。近距離にまで迫ったキングスネークが鎌首をもたげて、大口を開け噛み付こうとする。
俺は修業したクワッドプッシュをぶつけて防いだ。『プッシュ』は攻撃用ではなく防御用の魔法だと思う。こういう場合に頼りになるのが『プッシュ』なのだ。
防御用だと思いながらも、クワッドプッシュの連撃をキングスネークに放った。フライパンでボコボコにされたようなキングスネークが地面に横たわる。俺はチャンスだと思い、飛び込んでクワッドブレードを叩き込んだ。
キングスネークは鎌首を持ち上げ逃げようとしたが、間に合わずに胴体が真っ二つとなる。俺の体内でドクンと音がした。どうやら魔法レベルが上がったらしい。
動かなくなった大蛇が消え、またガラス容器が残される。今度は緑色を帯びたガラス容器だ。初級解毒魔法薬だろう。俺は魔法薬を拾い上げて、リュックに仕舞った。キングスネークの魔石を探し拾い上げる。赤魔石<中>だ。かなりの収入になる。
神殿の廃墟に行くと、そこに七層へ通じる階段があった。階段を下りて七層に入る。目の前に広がるのは広大な墓地だ。
「問題は、ここなんだよな」
水月ダンジョンの七層は有名なので、調べなくても知っている。ここで遭遇する魔物はアンデッドなのだ。スケルトン・グール・ファントムなどが有名である。スケルトンとグールは武器や普通の魔法で倒せるが、ファントムは霊体なので武器や通常魔法では倒せない。
生命魔法の『ターンアンデッド』などの対アンデッド用魔法か、特別な武器が必要なのだ。
「霊体用の武器は、高すぎて買えそうにないし……どうしよう」
ここで悩んでいても仕方ないので引き返し始めた。水月ダンジョンを出て、着替えてから冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドで魔石を換金してから、資料室に入った。骸骨ダンジョンに何かあったような記憶があり、それを確かめようと思ったのだ。
「あっ、グリム先生」
意外な事に、天音たちが資料室で何かを調べていた。アリサが嬉しそうに俺に話し掛ける。
「奇遇ですね。先生は何を調べに来られたのです?」
「俺は骸骨ダンジョンについて、調べようと思って来たんだ」
「私たちもです。今度、骸骨ダンジョンに挑戦しようと思っているんですよ」
「危険じゃないのか? あそこにはファントムが出るはずだぞ」
由香里が得意そうな顔で、前に出てきた。
「えへん、大丈夫なんです。あたしは『ターンアンデッド』を習得したんですよ。偉いでしょ」
「それは凄いな。頑張ったんだ、偉いぞ」
俺は思いっきり由香里を褒めた。
「それで何か分かったのか?」
俺が尋ねると天音が代表して答える。
「骸骨ダンジョンのボス部屋には、精霊の泉というのがあって、その泉に鉄製以外の武器を入れると、祝福されて、聖なる武器になるそうなんですよ」
聖なる武器というのは、全てのアンデッドにダメージを与えられる武器というものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます