第19話 ソロでの修業

 天音たちとダンジョンに潜った翌日も、俺はダンジョンに一人で潜った。生徒と一緒にダンジョンに潜って、焦りを感じたのである。俺自身も頑張らないと生徒たちに追い抜かれてしまう。


 なので、時間が有る時はダンジョンに潜ろうと決めた。

 この日はゴーグルを掛けた。一人でダンジョンに潜る時だけゴーグルを使うようにしている。生徒たちと潜る時は、コミュニケーションが取り難い場合があるからだ。


 二層までの狂乱ネズミやリッパーキャットと戦う時は、少しでも早く魔法が発動するように修業し、三層以上で青トカゲや迷宮狼と戦う時は、確実に三重起動の生活魔法が発動できるように努力した。


 五層に進み角豚を相手にトリプルプッシュの実戦練習を始める。角豚の突進に対して、どんな角度でも確実にトリプルプッシュを発動できるように繰り返した。


 ある時、同時に二匹の角豚と遭遇した。その二匹は俺に向かって横並びになって突進してきた。

 俺はトリプルプッシュを左側の角豚に向かって横から発動させた。三重に重なったD粒子プレートは、角豚を右側に突き飛ばし二匹纏めて転ばせる。


 角豚が起き上がる前に近付いて、その首を狩猟刀で切り裂いた。

「よし、次だ」

 もう一匹が起き上がって、こちらに向かって角を突き出す。


 飛び退いて角を躱す。そして、空中にいる間にトリプルアローを放った。D粒子コーンが角豚の背中を貫通し、致命傷を負わせる。


 その日、三十匹ほどの魔物を倒した。回収した魔石はほとんど黄色だったので、冒険者ギルドで売ったとしても一万~二万円にしかならないだろう。


 一日危険を冒しダンジョンで狩りをして、一、二万円というのは悲しいほど少ない。冒険者は多くても一日おきにダンジョンに潜るらしいので、初級ダンジョンだけで活動しながら生活するというのは、厳しいだろう。


 俺はダンジョンへ潜る時間を二、三時間に限定して、ほとんど毎日ダンジョンで狩りをするようになった。ダンジョンが歩いて五分の場所に存在するという地の利を活かさなければできない事だ。


 天音とアリサを鍛えながら、俺自身も修行する日々を二十日ほど続けた。

 同じ魔法を何十回、何百回と繰り返し、魔法がスムーズに発動するように努力した結果、生活魔法の精度が上がった。


「さて、今日も黒鉄を採掘して、ダンジョンボスが復活していないか確かめよう」

 俺は六層の洞穴へ行き黒鉄鉱脈で採掘してから、ボス部屋へ向かう。


 ダンジョンボスが復活していた。俺が死にそうになった強敵である。あの時は混乱した頭で繰り出した『ホール』の御蔭で倒せたが、今回も上手くいくとは限らない。


 巨大な狼は俺の姿を見ると、のそりと起き上がった。牛ほどの大きさがある巨大狼は、以前と同じ威圧感があるはずだが、耐性が上がったようで威圧感が小さくなったように感じる。


 それほど恐怖を感じる事なく対峙した俺は、狩猟刀を握り締めながら慎重に近付いていく。巨大狼が一瞬だけ低い姿勢を取ってから襲い掛かってきた。


 五重起動した『プッシュ』を正面からぶつける。五重プッシュは巨大狼を撥ね上げ、立ち止まらせた。そこにトリプルアローを放つ。


 巨大狼が気配を感じ身を捩って躱そうとした。それによりD粒子コーンが狼の脇腹に命中して大きな傷を与える。苦痛と怒りで壮絶な咆哮を上げる巨大狼。


 身体の奥から恐怖が込み上げてくるような吠え声だ。だが、その声で怯えるほど経験が浅くはない。

「五月蝿い!」

 俺は五重起動の『ブレード』を放った。巨大狼の首が刎ね飛んだ。身体の内部でドクンと音がする。魔法レベルが上がったようだ。


 強敵だったダンジョンボスを、今回はあっさりと倒す事ができた。新しく習得した魔法と戦う技量が上がったからだろう。


 巨大狼が消え、真っ赤な魔石と巻物が残る。

「また、巻物がある」

 魔石をリュックに入れ、巻物を開いてみる。巻物には魔装魔法『パワーアーマー』の魔法陣が描かれていた。


 『パワーアーマー』は魔装魔法が魔法レベル3にならないと習得できない魔法なので、俺にはまだ無理だ。だけど、習得できれば、大きな戦力になる。


 生活魔法使いなどの戦闘には向かないと言われている魔法使いが、他の魔法を覚えるのは当然だと思われている。俺も魔装魔法が魔法レベル3になったら挑戦してみようと考えた。


「そのためには、魔装魔法の『パワーアシスト』を習得して、魔法レベルを上げたいんだけど、中々習得できないんだよな」


 ちなみにダンジョンボスは、短期間に連続で倒すとしばらくは復活しないと言われている。残念だが、ダンジョンボスを狙うなら他のダンジョンに行くしかない。


 ダンジョンを出て地上に戻り、シャワーで汗を流し食事をしてから街に出た。魔石を換金するためである。冒険者ギルドで溜め込んでいた魔石を換金すると、八十万円ほどになった。


 俺は溜め込んでいる黒砂鉄を使って武器を作ろうと思っている。だけど、黒鉄製の武器を作れる鍛冶屋は少ない。そんな腕利きの鍛冶屋に武器作製を頼むと製作費が高くなる。


 冒険者ギルドの職員に尋ねたら、日本刀だと二百万は覚悟しろと言われた。なので、現在は費用を貯めているところなのだ。今回の換金で半分をほどが溜まったが、貯まるまでは時間が掛かりそうだ。


 手っ取り早く金を稼ぐには、ダンジョンボスを倒すしかない。俺は倒せそうなダンジョンボスについて調べる事にした。


 ギルドの資料室で初級ダンジョンについて調べた。近くにある初級ダンジョンは、崖下ダンジョン・草原ダンジョン・骸骨ダンジョンである。


 その中で最近ダンジョンボスが倒されていないのは、草原ダンジョンと骸骨ダンジョンだけのようだ。

「骸骨ダンジョンのダンジョンボスは、アンデッドなんだろうな」


 アンデッドの中には、物理的な方法では倒せない魔物も居るので厄介だ。

 そういう魔物を倒すには、生命魔法が必要だった。生命魔法の中にアンデッドを倒すための魔法があるのだ。


 そうなると、草原ダンジョンのダンジョンボスを倒すしかないのだが、そのダンジョンボスの居場所が分からない。俺が知らないというだけでなく、冒険者全員が知らないのだ。


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