第18話 校長とダンジョン
翌日、俺は鬼龍院校長と一緒に巨木ダンジョンへ行った。
「グリム、今回は儂を生徒だと思って、護衛するのだ。魔物の全てをお前一人で倒せ」
そんな面倒な生徒は居ないと思いながらも承知した。
「ほら、狂乱ネズミが来おったぞ」
狂乱ネズミなら、『コーンアロー』より『スイング』を発動して警策プレートで一撃してから狩猟刀でトドメを刺すというのが効率が良かった。小さい目標だと『コーンアロー』は外す恐れがあるからだ。
警策プレートでパンパン叩きながら奥へと進み、血吸コウモリが出た時は『ロール』で地面に落としてから仕留めた。
鬼龍院校長は初め驚いた顔をしていたが、今は笑みを浮かべている。
「なるほど、こういう使い方をすれば、生活魔法でも戦えるのだな」
二層に下りてリッパーキャットと戦い始めても、鬼龍院校長は笑みを浮かべて付いて来るだけだった。そして、三層に到着し、青トカゲと遭遇すると声を上げた。
「この青トカゲを、狩猟刀で倒すのは難しいのではないか?」
「いえ、狩猟刀でも倒せますよ」
俺は青トカゲに近付いて、その心臓がある辺りの上に狩猟刀を突き刺し跳び離れた。
鬼龍院校長が首を傾げた。
「どうするのだ?」
「こうします。『プッシュ』」
狩猟刀が青トカゲの肉体に沈み込んでいく。そして、二度目の『プッシュ』で青トカゲは死に消えてなくなった。
「なるほど、面白いな。だが、一本しかない武器を、そういう風に使っていては、複数の青トカゲと遭遇した場合には、危険だろう」
「それで新しい生活魔法を習得しました」
次の青トカゲと遭遇した時、三重起動した『コーンアロー』を使った。トリプルアローが魔物に突き刺さり、その一撃で青トカゲが消えた。
「何だ、それは『バレット』ではないのか?」
「違います。『コーンアロー』という生活魔法です」
「儂は長年魔法の研究をしてきたが、聞いた事がないぞ。……ん、もしかして、ダンジョンボスを倒したのか?」
何で分かったのか、と不思議に思いながら頷いた。
「どうして、分かったんです?」
「分析魔法使い以外の者が、新しい魔法を手に入れるのは、ダンジョンボスなどの強力な魔物を倒して、巻物を手に入れた時が多いのだ」
巻物は賢者システムだけでなく、新しい魔法の巻物もあるらしい。
「そうなんですか」
鬼龍院校長は、俺が手に入れたのが『コーンアロー』の魔法陣が描かれた巻物だと勘違いしたようだ。俺は敢えて訂正はしなかった。手に入れたのが賢者システムだと知られると大騒ぎになりそうだからだ。
「しかし、よくダンジョンボスを倒せたな。それにダンジョンボスに戦いを挑むような無謀な真似はしないと思っていたんだが」
「俺だって、ダンジョンボスと戦おうとは思っていなかったんです。後ろから迷宮狼に襲われて、あの部屋に入ってしまったんです」
鬼龍院校長が苦笑いする。
「運がいいのか悪いのか。ただ生き残ったのは、それだけのものを持っていたからだろう。ところで、その新しい魔法は、魔法庁に登録するのか?」
魔法庁というのは、魔法関係の権利などの管理と魔法の研究をしている国の機関である。そこに新しい魔法を登録すると著作権のように保護され、権利が生じるのだ。
「登録した方がいいんでしょうか?」
「生徒たちに教えるのなら、登録した方がいい。誰かが先に登録すれば、グリムが権利を失う事になるぞ」
「分かりました」
「儂が手伝ってやろう。さあ、実力は確かめられた。地上に戻ろう」
俺は生徒を連れて巨木ダンジョンへ潜る許可を得た。
その後、校長に手伝ってもらいながら、魔法庁に『コーンアロー』の魔法陣を登録した。この魔法は生活魔法なので高い収益は見込めないという。生活魔法だというだけで、選択から除外する者が多いので人気がないらしい。
ただ魔物を攻撃できる魔法なので、月に数万円程度なら稼げるだろうと魔法庁の職員が言っていた。
ちなみに、攻撃魔法の『バレット』を登録した攻撃魔法使いは、何百億円という利益を得たらしい。『コーンアロー』は『バレット』に似ているが、射程が短すぎるので人気を得るのは難しいと言う。
だが、生活魔法で初めて登録された攻撃専用の魔法である。そこそこ購入する人も居るかもしれない。
あまり期待しないでおこう。校長から天音たちとダンジョンへ潜る許可を得たので、俺は巨木ダンジョンをどういうように攻略させるか計画を立てた。
その週の土曜日、俺は天音とアリサを連れてダンジョンに潜った。
「『コーンアロー』は習得できたか?」
二人は笑顔で肯定した。
「確認なんだが、生活魔法の魔法レベルは、二人とも『1』なんだよね?」
「そうです」「残念ながら」
一年生なんだから、そんなものなんだろう。二人に生活魔法で習得している魔法を尋ねると、『ライト』『プッシュ』『ロール』『コーンアロー』の四つのようだ。
アリサは短期間に『ロール』と『コーンアロー』の二つを覚えて来たという。
「グリム先生、それだけの魔法で何層まで行けますか?」
「最終層まで行けると思う。まずは、一層で魔法レベルを『2』にする」
二人に狂乱ネズミと血吸コウモリを片っ端から倒させた。狂乱ネズミは『プッシュ』で動きを止めて『コーンアロー』で貫くのが効果的だった。それが分かると、今までの
十二匹の魔物を倒した時、天音の魔法レベルが上がった。そして、その直後にアリサの魔法レベルが上がる。
「おめでとう。これで多重起動を試せる」
二重起動を成功させた二人は、二層のリッパーキャットを問題なく仕留められるようになっていた。そして、三層に下りた二人は、青トカゲと戦った。
青トカゲの防御力は高く、『コーンアロー』の二重起動であるダブルアローの一撃では、致命傷にならず二撃目、三撃目でようやく仕留められた。
天音とアリサの様子を見ると、苦しそうにしている。魔力が尽きかけているのだ。
「今日は、ここまでにしよう。戻るぞ」
アリサが苦しそうにしながら、懇願する。
「もう少し、お願いします。もう少しで魔法レベル3になりそうなんです」
「焦る必要はないだろう。明日はゆっくり休んで、また来週だ」
アリサはちょっと不満そうな顔をしたが、すぐに笑顔になって頷いた。自分が今日一日で大きく成長した事が感じられたからだろう。
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