第20話 大演習のメンバー

 天音とアリサがダンジョンで鍛え始めてから、一ヶ月が経過した。季節は移り、冬の大演習が始まる時期が迫った。


 教室に行く支度をしながら、天音が由香里に話し掛ける。

「由香里は、大演習で誰と組むの?」

「まだ決めてないよ。天音と組もうか」


 天音は嬉しそうな顔をする。天音は付与魔法使いだ。生活魔法使いほどではないとしても人気がない魔法使いなのだ。


「ありがとう。アリサもチームに入れていい?」

「いいけど、攻撃魔法使いと付与魔法使い、それに分析魔法使いだとバランスが悪くないかな?」


「戦力的には十分なんだけど……」

「黒月先輩みたいなイケメンの魔装魔法使いが欲しいなあ」

「それは無理。うちのクラスの魔装魔法使いは、二宮とか岸君みたいなのが多いから」


 魔法レベル3になったと言って威張っている二宮なんかと組みたくはない。だけど、大演習では四人一組でチームを組む事になっている。人数が足りないと、教師が強制的に余っている人を入れるので自主的にチームを組む方がいいのだ。


 天音は由香里と話しながら教室へ向かう。教室ではアリサが本を読んでいた。

「アリサ、大演習でチームを組もうよ」


 天音の提案に、アリサが頷いた。

「ありがとう。よろしくね」

 由香里も近付いてきた。

「ねえ、二人はお互いの実力を知っているからいいけど、私は知らないんだよ。そこはどうなの?」


 由香里は天音とアリサの実力を知りたいらしい。

「巨木ダンジョンは六層まで行ったよ。生活魔法も新しく三つも覚えたし、魔法レベル4になった」

「ちょっと待った。天音は付与魔法使いなのよ。付与魔法はどうしたの?」


 天音が目を逸らす。

「ダメじゃない。アリサはどうなの? 何か分析魔法を覚えた」

「『マナ』を覚えた」


 由香里がジト目でアリサを見る。

「それだけ?」

「だって、生活魔法だったら、グリム先生に聞けば、詳しく教えてくれるんですよ。生活魔法が中心になるのは仕方ないんです」


「ダメ、二年になったら、どうするの? 生活魔法の授業があるのは一年だけなのよ」

 それを聞いた天音が口を尖らせた。

「それが不満なのよ。二年でも生活魔法の授業が有ってもいいのに。そう思うでしょ?」


 天音の質問に、アリサは頷いた。

「本当にそうです。生活魔法は奥深いものなのに、一年の時だけなんて」


 その時、岸が傍に来た。

「ねえ、三人は大演習のチームは決まったの?」

「この三人で組む事にしたよ。あと一人は探しているところ」


 岸が溜息を吐いた。

「女子三人の中に、男一人は無理だな。他を探すよ」

「だったら、俺が入ってやるよ」


 どこから湧いて出たのか、二宮が声を上げた。それを聞いた天音が言い返した。

「ノーサンキュウ。もう一人も女子にするから」

「チッ、せっかく一緒に組んでやると言ってるのに、後悔するなよ」


 二宮が離れると、三人はホッとする。

「四人目を早く決めた方がいいな。魔装魔法使いがいいけど、女子の魔装魔法使いというと誰が居たっけ?」


 天音が二人に尋ねた。由香里は首を傾げているので、アリサが答える。

「御船千佳さんか、夢童ひよりさんになる」

 天音は誘ってみる事にした。夢童はすでに組む相手を決めていた。


「御船さん、大演習で組む相手は決まっているの?」

「いいえ、まだです」

 御船千佳は独特の雰囲気を持つ生徒だった。家が剣術道場を経営しているらしく、生まれながらの剣術家という感じがする。


 天音は組もうと誘った。

「攻撃魔法使いの君島さんはいいとして、母里さんは付与魔法使い、結城さんは分析魔法使いでしたね。戦力的に不足しているのではないですか?」


 アリサは否定した。

「心配いりません。私と天音は、グリム先生から生活魔法を使った戦い方を習っています。十分に戦えます」

「ほう、生活魔法を使った戦い方ですか。興味深いですね。いいでしょう。一度組んでみましょう」


 チームのメンバーが決まり、冬の大演習が始まるのを待った。

 大演習の数日前、教室で大演習の注意事項が説明された後、チームを指導する者を決める事になった。指導官は教師と学院が雇った現役冒険者から選ばれる。


 希望を聞いているカリナに、天音が質問した。

「先生、グリム先生を選んじゃダメですか?」

 カリナは首を傾げた。


「グリム先生は、冒険者ランクがG級だったはず。大演習がある草原ダンジョンは、初級ダンジョンだけど、強い魔物が出てくる事もあるのよ」


「大丈夫です。巨木ダンジョンのダンジョンボスを一人で倒した事があるって、言っていましたから」

 カリナは感心したように頷いた。だが、二宮が立ち上がって異を唱える。


「嘘だ! 生活魔法使いが、ダンジョンボスを倒せるはずがねえ」

 天音が二宮を睨んだ。

「そんなに必死で否定しなくてもいいでしょ。グリム先生の何を知っているというの?」


 二宮が喚き出したので、カリナが鎮めた。

「静かに。母里さんたちが、それでいいなら、グリム先生に相談してみましょう」

「ありがとうございます」


 天音とアリサは喜んだ。千佳は首を傾げて問う。

「どうして、グリム先生を選んだんだ?」

 アリサが胸を張って答える。

「頼りになるからです」


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