第14話事件後(後編)
「……返す言葉もございませんわ。本来なら私が保護して、快適な生活を送ってもらう義務があるというのに……」
「謝罪なら誰でもできますよ〜? どうせならそのまま輩に犯されていたらこちらも少しは気分がマシでしたでしょうね〜」
「ちょっと……!」
「サクは黙ってなさい!」
女性としての尊厳を失いかけた直接に、挑発ともとれる発言をぶつけるネアにサクは憤慨するが、ルルーナがそれを制す。
「その通りですわ。私の不甲斐なさで賊に捕まり、その尻拭いをイチヤにさせてしまいましたわ。戦闘中も結局心の弱さから何も手助けできずに守られるばかりでした。責められて当然ですわ」
ふぅん、とネアは少しルルーナの評価を上げる。
トラウマになっていてもおかしくないことを掘り返したが、ルルーナはそれと向き合い、自身に毅然と対応したからである。
まあ、だからといってイチヤを残してあげよう、などの考えは一切ないが。
「そうですよね〜。そんな方にいっくんを預けてられません。なにやら外傷だけでなく、魔力線が断裂までしていますし〜、それを治療するという意味でも私が預かるのが適切ですよね〜」
「……はい」
「ルルーナさま……」
完璧な笑顔のネアがそう告げると、ルルーナは悔しそうな表情を浮かべて頷く。
「それと〜、その怪我や痣、いっくんを守れなかった罪と思って生きてください」
ルルーナが賊に襲われたということは近いうちに他の領地にも広まるだろう。その証を自然治癒のみに任せ、長期間残し続けるというのはそれが事実であるだとか、家の人材不足を表すことになる。
エルクレイナ家にとってのダメージは大きい。
「それは!」
「サク! わかりましたわ。この傷は自らの不甲斐なさの証として、治療もなにもしませんわ」
それは飲めない、とサクが口を開くが、これもルルーナは止めた。
それほどまでにルルーナは責任を感じ、誠意を見せているのだ。
「ふぅん……………」
沈黙。次に何を要求されるのか、とルルーナとサクは気を張る。
「まあ、今回はこのくらいにしといてあげます」
いっくんがこんなになった落とし前としてはまだまだ足りないが、エルフの誠意を尊重してこのくらいで許してあげましょうか、とネアは思う。
すると、イチヤの寝ているベットに座っているネアの服の袖が引かれた。
「ネア……流石に怪我は治してあげてね」
実はちょつと前から目を覚ましていた俺が、その過激な要求にだいぶ引き気味でそう告げた。
「いっくぅんっ!」
「イチヤぁ!」
「イチヤ!」
ネア、ルルーナ、サクは三者三様に俺の名を呼び、駆け寄るなり抱きついてくる。
わんわんと泣くルルーナに、ぎゅっと手を握ってくるサク、頭や頬を撫でるネア。
散々俺を好き勝手して落ち着いてきたあたりで、ネアが話を掘り返す。
「怪我を治す、でしたよね〜。それは私たちの問題ですから、いくらいっくんといえど口出しはなしですよ〜?」
俺の髪をいじりながらネアはそう言う。
「でもなあ……。女の子に傷が残るのはよくないじゃん。それに傷が残ってたら、顔合わすたびに俺ももっとできたとか色々責任感じちゃうしさー」
俺の言葉にルルーナが顔を真っ赤にしている。元々肌白いから余計目立つな。
「…………」
俺が食い下がると、ネアは黙ったまま腕をモミモミといじり出す。
これは、ネアのアピールである。何か対価があればいいよーっていう。
「……何が望みだ」
「え〜? そこまでいうなら仕方ないですねぇ。そこのエルフの傷を消すわけですから〜、私に証付けて欲しいですね〜。あ、首にキスマークとか〜!」
「「なっ!」」
ルルーナとサクが驚いた声をあげる。
「はぁ……普段なら絶対しないけど、今回だけだぞ」
こういうのやるとどんどん要求が加速するし、他の奴らも文句言うから嫌なんだけどなぁ……。
それにめっちゃ恥ずかしいし。
「はいぃ〜♡」
赤目の中にピンクのハートを作り、細い首を差し出したネアに、俺はキスをするのだった。
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