第13話事件後(前編)
エルクレイナ家お抱えの回復魔法使いがいるであろう屋敷へものの数分でたどり着いたルルーナ。
屋敷内を慌ただしく駆け回っている使用人の一人を引き止め、鬼気迫るように問いただす。
「回復魔法使いはどこですか!?」
「ご主人様!? え、えぇと、賊の討伐に向かった騎士団に動向しているはずですが……」
捜索中のルルーナが目の前に現れたことに使用人は驚いている。
「それよりもご主人様、お身体はご無事でーーー
「そんなことはどうでもいいですわ! まさか入れ違いになっているなんて……。ここじゃ大したことはできません……。まちの治療院なら!」
「お、お待ちくださいっ! 当主ともあろうお方がそのようなみすぼらしい格好では示しがつきません!」
髪はボサボサ、服はボロボロの布切れのような格好のルルーナを使用人は腕を掴んででも引き止めようとする。
「離しなさい! 威厳とか誇りなんて、イチヤの命に比べたらゴミですわっ!」
「ダメです! その方を運ぶのなら私たちで可能です!」
奴隷一人の命とエルクレイナ家の威厳。この二つどちらを選ぶのが正解なのかといえば、一般的には後者なのである。
「魔法を使える私の方が早いですわ! 状況は一刻を争うのに任せてられませんわ!」
そうやって押し問答を繰り広げていると、慌ただしい屋敷に似つかわない、鈴のような声が響く。
「私に任せてくださいな♪ そういうことは私の専門分野です」
「あ、あなたは……!」
「なぜなら、聖女ですから〜」
玄関には、透き通るような銀髪を伸ばし、修道服を持ち上げるような大きな胸を持つ女性、ネア・アースライトが紅い眼を細めながら立っていた。
その周りからはごごごご……と赤いオーラが見えた人もいたとかいないとか。
☆☆☆☆☆☆
聖女 ネア・アースライト
この世界で広く信仰されいる神の教会の実質的なNo.1である。
教会の庇護下にある地域のみでなく、小さな村やスラムまでにも顔を出し、困っている人を助けていることから、一部では神のように崇められており、また服の上からでもわかる抜群のプロポーションや柔和な口調などから、女神とファンの間で呼ばれている。
回復魔法で彼女に並ぶものはいない。
彼女はルルーナからひったくるようにイチヤを奪い、「集中するから部屋に入ってこないでください」と有無を言わせぬ雰囲気で部屋に立て篭もり、速攻でイチヤの肉体を治療した。
そんな超絶優しく温厚なイメージのある彼女だが、微笑みを携えた裏では今激怒していた。
ベットで眠っているイチヤの髪を撫でながら、内心で毒づく。
それに、いざ来てみればエルフは無事でいっくんは信じられないくらいボロボロじゃないですか。愛した男なら自分が死んでも守り抜きなさいよ。
それに、魔力線も断絶しちゃってますし……。
「私だったらいっくんにこんなことさせませんのに……」
ぼすり、とイチヤの胸に顔を埋める。
すると、汗と体臭が混ざった濃厚な臭いが鼻を通る。
「あぁ……なんて芳醇な……っ。普段はこんなことできませんから、今のうちにぃ……」
どこから持ってきたかわからないが、ガラス瓶を開けて体の周りの空気を瓶の中に詰め込んだ。
変態である。
「……しかし、これはチャンスかもしれませんね〜。イチヤがこんな大怪我を負ったとなると他の方達も黙ってはいないでしょう。保護責任を問い詰めて奪い合いになるはずです。しかし今ここにいるのは私一人……魔力線の回復も私が適任ですし、いっくんを合法的に取り返すいい口実になりますね〜」
にやにや、と聖女らしくない笑みを浮かべる。
「ルルーナです。入りますわよ」
扉をノックする音の後、拒否する間もなくルルーナが入室する。
その横には遅れて帰ってきたサクも同伴している。
「いっくんをこんな目に遭わせるなんて、何考えているのですかね〜」
普段公演やスピーチで話している声よりも何段も低い声がネアから発せられる。
その紅い瞳は鋭くルルーナを捉えていた。
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