第12話撃破
セナに感謝をして、イチヤがいる場所に向かうと彼は賊に馬乗りになられ、短い剣が振り下ろされている瞬間だった。
「ひっ……」
思わず目を瞑ると、響いてきたのは金属音のようなもの。
見ると、その刃は魔法によって弾かれていた。
そして、イチヤはーーー叫ばない。いや、叫べない。
今日、ずっと行動を共にしているサクからすればそれがまずいことだとわかった。
いや、そうでなくともわかっただろう。
なぜなら金属音がする直前、
バチンッ! と何かが切れる音がしたのだから。
あまりの様子にサクは口を手で覆い、涙を零す。
しかし、それで状況は変わらないことは分かっている。今日、何度後悔し、彼に助けてもらったか。
サクはもう一度短剣を振り上げる男に向かって駆け出した。
☆☆☆☆☆☆
短剣が俺に刺さる寸前、バンダナ男は突き飛ばされる。
霞む意識のなかわかったのは、サクが体当たりをしたということ。
俺は彼女に助けられたらしい。
「ぐ……ざ、さずがめいおひょー……」
くそ、なんでもできるメイド長がどろどろになりながら助けてくれたんだ。
寝てられないよな……?
「く、そがぁぁ! まずはお前から殺してやる!」
「っ……」
もうどこが痛くないのかわからないくらいだし、頭も正直全然回っていない。魔力線の痛みは幸いにも時間経過でマシになる。
俺は剣を持ち、辺りに武器がないためメイド長を殴り殺そうとする怒り狂ったバンダナ男に突き刺した。
「て、め……な、で……」
疑問を口にし、答えを聞かぬままバンダナ男は絶命する。
「イチヤ……」
「サクさんドロドロっすね、らしくない」
「〜〜〜っ」
俺はいつも怜悧な表情のサクが服も肌も土で汚し、今にも泣きそうな顔をしているのに軽口を叩く。
さて、あとはルルーナだ。
「大丈夫か? ルルーナ」
彼女の前に行って目を合わせる。
「みんな……なんで私だけ……なんのために……」
ルルーナは呆然と、ひたすら部下を守れなかった後悔を漏らしている。
ずっとうじうじして戦闘中も何もしなかった女に、少しイラついた。
「……おい弱虫。熊に襲われた時から変わんねえな」
「……ぇ?」
「プライドだけは一丁前にあって、みんな守ろうとするくせに、絶望的な状況になると何もできずにうじうじうじうじ……。少しは変わってるかと思えば……はぁ」
「うぅ……」
冷たい声音に視線を向けたルルーナに、厳しい言葉をぶつける。
今のこいつを慰めても何も変わらない。ちゃんと現実と向き合わせて、志と実力を吊り合わせる機会を作らないと。
じゃないといつか、もっと辛いことがあった時どうなるかわかったもんじゃない。
ルルーナは俺の言ったことが信じられないとばかりに目を見開き、大粒の涙を目に溜まる。
俺はそんな彼女の頬に手を当て、諭すように語りかける。
「でも、お前の考え方は俺は嫌いじゃないし、志も好きだ。だからこれからそれができるように頑張ろう。ルルーナは一人じゃない。俺もいるし、サクさんやみんなもいるだろ。頼れ」
その言葉に、ルルーナの涙腺が決壊する。
「ーーーう"んっ!」
サクによって拘束が解かれると、俺に抱きついて泣きじゃくる。
そんな彼女の頭を撫でようとする。
「ーーー死にやがれェッ!」
これまでの戦いの記憶障害なのだろうか、何故か記憶から消えていたハゲが刺突の体勢で猛然と向かってきていた。
俺はルルーナを背後に隠し、せめてもの抵抗として刺されるであろう場所に腕を差し込む。
どす……
鈍い音と共にハゲの剣が、俺の腹部を突き抜けた。
ぴとり、と弾けた血が後ろにいたルルーナに降り掛かる。
「ぁぇ……? いちや……?」
状況が飲み込めていないルルーナは、不思議そうに俺を見ているが、返事は返せない。
ずるり、と剣が抜かれ、俺はルルーナにしなだれかかるように倒れた。
「ぇ……い、いや……」
いやいやと幼い子どものように首を振り、涙をこぼす。
「クソ野郎が……! お前らのせいで組織はめちゃくちゃだ! お前も殺してやるよッ!」
ハゲが俺を斬った剣を振りかぶる。
「あぁぁ……お前が……お前がァ!?」
しかし、その刃は届かない。
魔法に優れた種族であるエルフの中でも、頭ひとつ抜けた才能を持つ少女である。
絶叫と同時、ハゲは内部から弾け飛んだ。
そんな男に一瞥もくれず、ルルーナは俺を抱き抱える。
「いちや、いちやぁ……死なないでくださいぃ」
子どもみたいに泣きじゃくるルルーナに、俺は苦笑する。
「しなない、しなないから……後どうすればいいか、わかるよな……?」
「うぅ、う"ん……!」
心なしか、そのルルーナの少し大人になったと感じた。
サクが緊急処置をしてくれ、この場でできうる限りのことを行ってくれた。
そこで、俺の意識はなくなった。
ルルーナはそこらに落ちていた服を羽織ると、イチヤを背負う。
そしてなるべく揺らさないようことを意識しつつ、魔法で屋敷へ向けて走り抜ける。
「生きててください、お願いしますわ……!」
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