第11話迫る凶刃
「カチコミじゃあッ!」
扉を蹴破った先には三人の賊と、切り裂かれた服からいくつもの生傷と打撲痕を覗かせるルルーナの姿。
狭い部屋の中からは、普段からこういうことをしているのだろう、そういう臭いが鼻を刺す。
そして、今ちょうどルルーナの股を開き、犯そうという状況に俺は自分の体中の血が沸騰したと思うほど怒りのボルテージが上がり、同時に踏み込む。
「汚ねえモン見せてんじゃねえ!」
「う"ごぉッ……!?」
ダダンッ! と強い踏み込みのあと、ルルーナに突っ込もうとしていた男は胴体を貫かれ、奇妙な音を最後に事きれる。
「イチヤぁっ……!」
ルルーナが喜びの色を多く含んだ声を上げる。
それとは対照的にエルフの美少女をこれから犯せる、とテンションと興奮が最高潮だった奴らは、一人殺されてようやく臨戦体制に入った。
「て、てめぇ誰だっ!? 仲間はどうした!」
残る二人のうち、ハゲの男が狼狽えながらも吠える。
「それはいい! どちらにせよ俺たちの存在を知られたからには殺す!」
バンダナを頭に巻いた男の声により、ハゲも動揺を落ち着け、俺を睨みつけ、状況は膠着する。
「イチヤっ、みんなは!?」
背後から、部下の安否を案じるルルーナの問いに、俺は一瞬詰まる。
「……生きてる」
「っ……」
慎重に選んだ言葉だったが、ルルーナの息を呑むような声。
何があったか察したのかもしれない。
「そ、そんな……」
か細い声が彼女から漏れ、それを嘲笑うように賊が口を開く。
「ああ! 部下の身代わりになったってのに、結局部下は犯されて堕ちている方が効くと思ってなあ!」
「や、約束が違うじゃないですか!?」
「そもそも、賊の言うことなんて信用しちゃいけないぜ?」
「ぁ……あぁ……!」
ニチャァ、と粘着くような笑みを浮かべる奴らを見て、ルルーナは項垂れる。
……部下の代わりに自分をやれ、とでも言ったみたいだ。
誰かが無事という希望が、ルルーナのプライドだとか、絶望の中での支えだったのかもしれない。
適切な言葉をかけることや、側で支えてやらなくてすまない、と心の中で謝り、賊に意識を集中させる。
賊にはボスがいるはずだが、どっちだ?
先に動いたのは賊。俺を挟み込むように剣を振るう。
「死ねやぁ!」
俺の家系は元々剣で武功を上げた家であり、時代と共に廃れていったが、俺も一応剣術を触っている身である。賊一人とはある程度は打ち合える。
交互に打ち合ってくる賊をなんとか対応し、隙を窺う。
「なかなかやるじゃねえか!」
「おら、てりゃあっ!」
しかし、向こうは二人で順番に攻撃してくるのに対してこちらは一人。疲労もどんどん溜まっていき、力尽きるのは時間の問題である。
隙を待つことが勝利への道であることと、長引けば長引くほど不利になるというジレンマである。
そこで、向こうに行動パターンを変えてもらう事にする。
「はぁ、はぁ……。ダラダラ戦っていいのか? もうすぐ大勢の騎士がお前らを殺しにくるぞ?」
にやり、と笑ってそう告げると、賊はハッとした表情を浮かべる。
「チッ……おい、遊んでないで二人で行くぞ」
「ああ」
バンダナの男の指示にハゲが頷く。
そして、一拍の後、バンダナの男が正面から剣を振り、それを受け止める。
そして、その隙に背後からハゲが襲い掛かる。
「っ、吹き飛べよ……!」
それを俺は魔法で吹き飛ばし、刃を届かせない。
ーーーブチブチ……!
強めの風を起こすだけという軽い魔法にもかかわらず、想像を絶するような痛みが駆け巡り、体からはまた開いた傷から血が流れ出す。
そして、痛みで一瞬力の抜けた隙に俺は男に押し込まれ、刃をぶつけたままマウントを取られたような体勢になる。
「おら、このままじわじわ切り殺してやる!」
ぐぐぐ……、と腕力と自重を剣に乗せ、バンダナの男は勝ちを確信した笑みを浮かべる。
もしかしたら悪手だったかもしれん!?
「うっ……」
じわり、じわりと刃が俺に迫ってくる。
「……なんてな、もう遊びは終わりだ」
バンダナの男はそういうと、片手で剣を支えて腰から短剣を取り出す。
押し倒された時から薄々感じていたが、やはりこいつがボスか……!
「このエルフの女はお前の分も可愛がってやるよ。地獄でじっくり見てな」
振り上げられた短剣が、俺の首めがけて振り下ろされる。
「くそが……!」
命を奪うような攻撃を防ぐ程度の魔法は、多くの魔力を使う。
魔力を多く使うということは、その分強い負荷がかかるということであり、体への影響も同様である。
ガキィィン!
金属と人の肌がぶつかったとは思えない音が響き、バンダナ男の短剣が弾かれる。
「なにぃ!?」
「ーーーっ〜〜」
言葉にならない痛みに声が出ない。ただ体をこわばらせ、口をぱくぱくとすることしかできない。
そんな俺の様子と、血溜まりが生まれつつある状況を見るなり、押し合っていた剣を捨て、最初は驚いていた男は笑う。
「ギャハハ! 最後の抵抗のようだなァ! それじゃあ、死ね」
振り下ろされた凶刃が、俺の首に迫る。
痛みに喘ぐ俺、俯いてボソボソと意味もないことを溢すルルーナ。
もはや、誰もこの刃を止められなかった。
「ーーーイチヤっ!」
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