第10話進入

 賊の隠れ家と思しき場所の近くまで来ると、人の話し声が聞こえてきた。

 茂みに隠れて耳を澄ます。


「〜〜でさあ、そいつめっちゃでかいんだよ!」


「ぎゃはは! なんだよそれ、羨ましい」


 ……愉快な話をしているらしい。ロクな話ではないだろうが。

 敵は二人、洞窟の前でくっちゃべっている状況である。

 俺とサクは一人一殺、それぞれを独自に暗殺することに決める。


「あー早く時間たたねえかなあ。早く俺もヤりたいぜ」


「あぁ、ったく、なんで今日俺らが見張りなんだよ……誰も来ねだーーー」


 ザクリ、と首を裂かれ、二人の守衛はこの世とおさらばした。

 俺たちは洞窟側に大きく回り込み、対面して話している男たちに同時に強襲、一撃で命を刈り取ることに成功した。


「……行きましょう」


「ええ」


 俺たちは息を殺して洞窟を進む。

 敵の数はざっくり十人。さっき二人消したため、残り約八人である。


 奥へ進むと、大きな広間があって、そこから啜り泣く声と悲鳴、男の笑い声が響き渡っている。

 薄暗いが、ぼんやりと見えるのはとてもじゃないが清潔とは言えない男が、見慣れた服を肌に纏っている女性を犯しているところ。


「っ……」


 俺とサクは、間に合わなかったことを悔やみ、奥歯を噛み締める。

 ……今やるべきは、一刻も早く彼女たちを助けること。後悔するのは後からだ。

 直感的にそう感じた俺は、魔法を発動する。


「切り刻め……!」


 風の斬撃が五つ、賊に向かって飛来する。


 ーーーぶち……ぷつ……


 探知魔法とは比較にならない激痛が全身を駆け巡り、包帯の下の傷がいくつも開く。


「〜〜〜っ、ふぐっ……」

 

「ぐぅっ……」


 痛みのままに叫び暴れたい気持ちを根性で押し殺し、なおも口が開いて声が漏れそうになったところにサクが自分の腕を俺の口に差し込む。

 俺は耐えるために無我夢中でそれを噛み、耐え忍んだ。


「うぁ……はぁ、はぁ……。腕、すいません……」


「いいんです。無理をお願いしているのはこちらなんですから。これくらいはさせてください」


 サクはそう言って脂汗をびったりと貼り付け苦悶の表情を浮かべる俺の顔をハンカチで拭う。


「……メイド長は女性をお願いします、俺はこの先へ行きます」


 辺りを見渡せば、虚な目をした女性や泣き叫んでいる女性が多い。しかし、そこにルルーナの姿はない。

 少しでも早くルルーナを救う必要がある。同性という点も踏まえて、サクにはこの場を頼む。


「でも……いえ、わかりました。すぐに向かいますから、イチヤ」


「うん」


 俺はずっと着ていた上着を脱いで渡す。

 それを受け取って、何か言いたげなサクだったが、それを押し留めて救助へと向かっていった。


 さて、親玉もいるだろうし気を張りましょうか。





「カチコミじゃあッ!」


 扉が蹴破られると同時に、俺の怒声が轟いた。




 ☆☆☆☆☆☆




 サクはイチヤの怒声を耳にしつつ、女性の保護に向かう。

 その中には直接関わりがない者もいるが、多くは同じ屋敷で働いて、顔を合わせている女性だった。

 同じ女性として、こんな非道は許せない。生き返らせて何度も何度も痛めつけては殺してやりたい気持ちだったが、それを押し殺す。


「みんな……もうあなたたちを辱めるクズは居なくなりました!」


 サクは自分の服を引きちぎり、彼女たちの体に付着した液体を拭き取る。

 そして、脱がされ地面に放置されていた服がまだ着れる状態ならばそれを着せてやり、布切れになっている人には自分の上着、そしてイチヤが渡した上着を掛けてやる。

 そして、こうなる可能性を頭に入れていた彼女が持ってきた避妊薬を彼女たちに飲ませる。


「これで、妊娠はしないと思います……。もう悪漢も消えました、安心してください。……ですので…………だから……」


 サクは彼女たちに声をかけつつも葛藤する。

 女性たちのケアは非常に大切である。それはサク自身も女性であり、彼女の立場になって考えれば必要不可欠であると理解している。

 しかし、さっきイチヤが壊した扉の奥にはおそらくルルーナがいて、イチヤは魔力線を酷使し、開いた傷でシャツを血塗れにして激痛に何一つ弱音を吐かずに戦ってるのだ。

 加勢したい、早く終わらせて休ませてあげたい、とサクは強く思う。

 それほどまでに、あの男は痛々しく、カッコよかった。

 サクは無意識に先ほど強く強く噛まれた左腕を見やると、そこには歯形と、そこから血が流れている。

 ゾクリ、と背筋が震え、何か未知の感覚に襲われる。


「ーーーちょう、メイド長!」


 自分を呼ぶ声に我に変えると、目の前には自分がよく知る女性の姿。


「セナ……」


 セナと呼ばれた色素の薄い銀髪の若い女性は、その瞳には光が宿っており、穢されながらも心は折れていなかった。


「メイド長、助けてくださりありがとうございます。ここからは私がこの子たちを見ます。ですのであなたは彼の元へ」


 部下にそんなことを言われるなんて、そんなわかりやすい表情をしてたのか、と場違いながら思う。


「……ありがとう、すぐに片付けて戻ってきます」


 そんな気持ちは一瞬で、こんな場面でも気遣いができる部下に心の底から感謝し、サクは扉の向こうに駆け出した。






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