第6話ガチギレ
拙い、間に合わない!
これほどの数を投げる人数がどこに隠れていたのかと不思議になるほどの投擲物がルルーナに向かって進む。
俺の魔法の展開速度ではこの全てを撃ち落とすには足りず、かといって彼女を殺める気で放たれたものをまとめて吹き飛ばすという、火力を出すことは俺の苦手分野である。
俺とルルーナが無傷でこの修羅場を潜り抜けるのは不可能ということだ。
「ルルーナッ!」
俺は痛い思いをする覚悟を決めてルルーナを守るように押し倒し、そのまま覆い被さる。魔法――といっては形になっていない大雑把な魔力を俺の周りに展開させ、爆発させる。
「イ、イチヤ!?」
突然押し倒されたことに顔を真っ赤にして、ついでに目を潤ませて口元を緩めるルルーナだが、こいつの性癖に構っていられるほど余裕はない。
迫り来る凶器にビビりながら、俺は歯を食いしばった。
「――ッ〜〜いっでぇぇぇッ!」
爆発を掻い潜った凶器がドスッと鈍い音を立てて肉を抉り、俺は余りの痛さに一瞬声が出なかった。
……幸運にも急所には刺さらず、
俺の悲鳴を聞いてようやく事態を理解したルルーナは、そのぱっちり二重な綺麗な目を大きく見開く。
「ぇ、イチヤ……」
消え入りそうな掠れた声で俺の名を呼ぶ彼女の頬に、俺の頭の切り傷から流れた血が滴れる。
あまりの痛さに、ほっぺに血がついたルルーナってめっちゃヤンデレサイコパス感あるなあ、などと現実逃避しつつ、声を掛けると、彼女は目からハイライトを消して、俺の頬をその小さな手で包む。
「まじで痛すぎる……おいルルーナ……サン、ダイジョウブデスカ?」
「……」
俺は、彼女の威圧感にビビり散らかし、黙って身を任せることしかできなかった。
襲撃者は、恐らくだが誘拐対象である俺をハリネズミにしたことと、今ルルーナ目掛けて攻撃すれば俺にまで当たってしまうことを危惧して動かない。
そして十秒ほどルルーナに頬を撫でられたり、頭の傷を治されたり、セクハラをされたりとされるがままにされた後、ずっと唇を震わせていたルルーナが意味のある言葉を溢した。
「……殺す」
「ひっ!?」
ルルーナが殺害予告をし、俺が情けない声を上げたと同時、刺客のいる地点全てが爆散した。
これは、なんの魔法でもないただの魔力を多方向に同時に発射しただけであり、俺が先程投擲物を撃墜させるためにやったことと原理は同じであり、詠唱や術式で魔法に明確な意味を持たせていないため、あまり威力はない。
しかし、魔法適性、魔力が秀でているエルフがそれをやると、容易に人を殺せる火力が出るようだ。刺客が何人か爆散した。
「次」
特徴的なお嬢様口調も消え去り、機械的に遠距離不可視即死攻撃を繰り返すルルーナお嬢様は恐ろしく、敵はなすすべなく撃破されていく。
俺もびっくりの変貌っぷりに、地面についた腕はぷるぷると震えていた。
そして、刺客が最後の一人になり、勝ち目も逃げることもできないと悟ったのか、そいつが両手を上げて姿を現した。
「こ、降参だ……」
茂みから現れたのは成人していそうな女性である。鋭かったであろう目は涙で潤い赤くなっていて、膝も笑っている。そして、ズボンがびちょびちょに濡れていて、俺は見ていられなかった。
「〜〜〜」
ルルーナは刺客を睨みつけると、俺の下から抜け出して彼女に歩み寄り、耳元でなにかを囁いた。
すると、刺客は歯をガチガチ鳴らしながら何度も何度も頷く。
「消えなさい」
そして、ルルーナが言い切る前に光の速さでどこかへと去って行った。
……いったい何を言われたらあんなことに!?
俺はめちゃくちゃそれが気になったが、これに触れると二度と陽の光を浴びれなくなりそうな予感がしたので黙っていた。
「イチヤ、大丈夫ですの!?」
いつもはツンケンしているルルーナが慌てて俺の方へ駆け寄り、未だ凶器が刺さった俺を介抱してくれる。
「あーうん、まあ一応……」
身体はズキズキと痛みを訴えかけてくるが、適切な処置を行えば死ぬことはないだろう。
ルルーナは安堵の息を吐き、そして俺の身体に突き刺さったナイフや短剣などの凶器を抜き、回復魔法を使う。
「私は回復魔法があまり得意ではないので、気休めくらいにしかなりませんが……」
ルルーナは申し訳なさそうな顔をし、そう告げる。
彼女がそういうものの、俺は心底彼女が回復魔法を使えて良かったと感謝し、そして内心で自分の勇気ある行動に酔いしれ気持ちよくなって、多少のわがままをしたくなった。
「……あの、眠たいんで寝るわ」
そして俺は後のことはルルーナに任せて寝た。
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