第4話え? お前ついてくんの?

「ただいま帰りましたー」


 金や食べ物もあらかた鬼の親子に譲ったため、ほぼ手ぶらで帰ってくるとメイド長が手を腰に当てて待ち構えていた。


「遅いッ!」


「ヒィッ!?」


 怒号と共に投擲されたナイフは俺の顔の横を通り過ぎて玄関の扉にぶち刺さった。

 ビィィィンッ!と音を出すナイフを見ると、血が滴っている。

 あれ? なんで血が……。


「いだぁぁぁぁぁっ!」


 ナイフは顔をかすめてなんていなかった。しっかり耳を通過してたよ。


「……なんで頼んでおいた物がないのですか?」


 俺の絶叫も無視して、淡々と声の抑揚なくメイド長は俺に尋ねてくる。


「ううぅ……。困ってた人にあげてしまいまし……ひぃ!?」


 今度は脳天にナイフが飛んできたので慌てて弾き飛ばす。流石に魔法隠して死ぬのは御免である。


「なにするんですか! 殺す気!?」


「ええ。使えない奴隷なんて存在する価値もございませんので」


 表情一つ変えずに言ってのけるメイド長に俺は戦慄した。

 だが、このままやられっぱなしで黙っている俺ではない。


「や、やい! 俺のご主人様はルルーナだぞ! メイド長の勝手な判断で殺してもいいのか!?」


「ええ。ルルーナ様からは、『死なない程度なら何してもいいですわよ』と仰せ使っておりますので」


 あっ詰んだ。


「ごめんなさい反省してますこれからはもっとしっかりできるように頑張ります」


 俺は華麗に五体投地をキめ、ひたすらに謝罪の言葉を並べる。


「はあ……。仕方ないですね。それでは、仕込みをやっていてください。終わるまで寝ることは許しませんからね」


 そう言い残して、メイド長は去っていった。


「ふう……徹夜か」


 メイド長が部屋を完全に去ったのを確認してから、俺はぶつくさ文句を垂れ流しながら作業を進めるのだった。




 そうして、何日か仕事をこなしていると、この屋敷のメイドや執事とも他愛もない雑談程度はできるようになっていた。会話が増えると、日々の仕事も楽しさを感じるようになり、ここ最近は充実しているといえる。

 しかし、夜にほぼ毎日ルルーナに呼び出されるときだけは、非常に憂鬱である。

 というのも、毎度毎度俺を誘っているのか際どい格好で、俺を罵るのである。かと言ってそれに対して厳しい言葉を投げ掛ければ身を震わせて、顔を赤くするのだからよくわからない。

 そして今日もルルーナからの呼び出しだ。


「失礼しますーっと」


 ドアを開けると、ルルーナは今日もスケスケのパジャマを着て、ベッドに座っていた。


「相変わらず不細工ですね。整形でもしたらどうです?」


「うるせえ。毎回言ってるけど失礼すぎるだろ。あとその露出が多すぎる服は男の前で着るなあほ」


 エロいことを考えながらこいつを見ると、息を荒らげてビクビクするからこっちも怖くて仕方ないんだよ。


「ふん、相変わらずっ、変態です、ね」


 また始まった……。


「あなた程度に、私が負けるわけ……ないんですから」


 ルルーナがドMということはなんとなくわかっている。だが、この程度の言葉だけで発情する惨状に、俺は彼女のことが心配で仕方がない。どうかしている。

 早く頭の病院に連れて行きたいものである。


「まあ、それは置いといてだ。この数日、街に買い出しに行く機会が何度かあった」


「……はあ」


 俺が何を言いたいか、ピンとこないようだ。


「そのうち、ほとんどの場合で、俺は誘拐されかけている。これがどういうことかわかるか?」


 ルルーナはハッとした表情を浮かべたあと、何故か最近で一番の笑みを浮かべる。


「ほかの方達があなたを奪うために、実力行使にきたと……そしてそれを私に伝えるということは、私のことが好きってことで間違いないですわよね……はふっ」


「最後の方がよく聞こえなかったけど、大方それで間違いない」


「お気になさらず。……そうですか。それなら、私も買い出しについて行くことにしましょう。それなら安心でしょ?」


 エルフということもあって、ルルーナの魔法は非常に優秀である。しかし、隠密をされた相手に咄嗟に行使できるかといえば、そうではないといえる。


「いやぁ……むしろ危険なだけじゃね?」


「いいんですっ! 私は行きますわ!」


 主人の命令だと言われ、俺はそれ以上引き止めることはできなかった。

 ……なんか不安だなあ。

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