第一部 その6
私は、気を失った夢野を保健室へと送り、三限目と四限目の授業を受けた。
そして現在昼休み中──
「なんであの時避けたんだよ? ドラゴン○ールみたいに熱い展開だったじゃねーか」
教室に戻ってきた夢野は早々に私を尋ねてきた。
「死ぬかと思ったからな。おかげで貴重なリミッター解除まで使わされてしまった」
説明しよう、リミッター解除とは本来の私の力を十秒間だけ使える技である。使用上限は一日に二回。
「いいじゃねーか。いつも勿体ぶって使わないだろ」
「いざと言うときだけに使わなければ私の能力は活かせない。そもそも貴様がしっかりと儀式を──」
「あー、わかったから。そんなインコみたいに何度も言うなって」
夢野は、椅子を私の机の隣に置いて座る。身体が痛むのか、ボールの当たった所をさすっている。
「ところで身体は大丈夫なのか? まだ保健室で安静にしておくべきだとおもうのだが」
「全然平気だ。それに、5限目は家庭科で調理実習だろ? 楽しいイベントには参加したいしなぁ」
笑うと同時に顔を歪めて患部に手を当てる。
「無茶はするなよ」
「なんだ? 心配なんかして、随分とお優しいじゃねーか」
からかいつつ、夢野はバックからおにぎりを取り出す。
「契約上仕方なくだ。まったく、貴様の頑丈さには呆れるばかりだ」
「お、生きてたのか」
慶次が片手に購買で買ってきたクリームパンを片手に近づいてくる。
「おう! 俺は主人公だからな」
「元気で何よりだ。じゃあ今から犯人を捕まえる計画を考えよう」
「考えるわけないだろ。慶次、ドッジボールで学んだろう?」
慶次は眉間をピクつかせ、口を尖らせた。どうやら、体育での夢野の態度に違和感を覚えているらしい。よし、畳み掛けてみるか。
「夢野は考えなしに動く無能だ。こんなやつと一緒に動いていては犯人を捕まえる話も夢のまた夢だぞ」
「お前、今、夢って3回言ったな?」
夢野が話に突っかかるが無視していてもいいだろう。
私は考えた。どうすれば犯人探しを諦めてくれるのか。
そこで私は思い付いた。夢野ではなく、慶次を諦めさせればいいと。
仲間もいなくなれば夢野も観念してくれるはずだ。
黙り込んでいた慶次が口を開く。
「確かに夢野は勝手に動くし、バカなやつだとよくわかった」
「おい」
「でもな、夢野は犯人の容姿を知っている。これは有用な情報だ」
「お前が必要なのは俺じゃなくて情報だけなのか!?」
「なら、私が犯人の容姿を教えよう。それなら一人でも犯人探しをできるだろう?」
私の言葉を聞いた慶次は瞬きを繰り返した。
「それ、いいな」
そして、微笑みながらパンを頬張った。
「いいわけないだろ! 慶次お前、一人で犯人探しをする気か? そんな非効率なことしないで俺たち3人でやろう」
慌てふためきながら、夢野が説得を試みる。
まさか、夢野の口から効率などという言葉が出てきたことに驚きだ。
夢野の話を聞いた慶次は口元に手を当てて、真剣な表情で考える。
「わかった。じゃあ模惠と一緒に犯人探しをするよ」
「「わかってない!」」
私と夢野がツッコミを入れた瞬間、黒板の方から声が聞こえた。
「はーい、男子注目!」
一人の女生徒が声をかける。
彼女は逆井
彼女の呼びかけに男子生徒は何事かとざわつきつつ視線を向けた。
「なんだよ、急に俺たちを呼びつけて。もしかして告白!?」
「誰のことが好きなんだよ?」
竹本と森本のからかいに真は頬を赤らめる。
「言うわけないじゃない! 今日はあなた達にお願いしたいことがあるの」
「副委員長のお願いならなんでも引き受けてやるぜ? で、誰にラブレターを渡してくればいい?」
「しつこい!」
「「「失恋!?」」」
「しつこいよ! しつこい! もう話が進まないから出てきてよ、笑子ちゃん」
彼女が呼びかけると、小柄な女子生徒が立ち上がり、真の横に移動した。
「どうも、知る人ぞ知る学園一のいい女、小倉 笑子でーす」
明るい台詞とは裏腹に、彼女の表情は鉄のように冷たく微動だにしていなかった。
「いい女? 冗談は口だけにしてくれよ。いい女ってのは真みたいに、ボン、キュッ、ボッ──」
茶化していた山本の顔に何かが飛んできた。
「なにこれ!? 人の腕!?」
山本の顔にめり込んだのは人の腕。それを見た一部の人間が悲鳴を上げた。
笑子に目をやると、二の腕から先がなくなっており、破れた制服の袖からは機械のようなものがちらりと露出している。
「将来性はあったのよ。ただ、この身体じゃもう成長できないのよ」
落ちた腕をはめ込みながら笑子は言った。
「お、おい、なんだよ今の? 腕が外れて……」
「ああ、そういえば慶次は一年の時、クラスが別だったから知らないのか」
うろたえる慶次に私は説明をする。
小倉
彼女の正体は半分機械でできた人造人間なのである。
なぜそんな身体になってしまったのかと言うと、中学生の頃に事故に遭い、手術後の後遺症で顔の筋肉が固まり、表情の変化が乏しくなってしまったらしい。
それを見かねた父親が「いつも明るく笑っていた笑子に戻してやりたい」と、科学者の知識をフル活用させて身体をいじくった結果、肉体の変化は中学生で止まり、表情筋は治せず硬いままなのだと笑子から聞いている。
「悪い、ちょっとよくわかんねぇ……。なんで顔直すのに、半分人造人間になってるんだ? なんであいつはロケットパンチ撃ってんだよ!」
笑子の話を聞いた慶次は、頭に手を当て混乱していた。まあ当然の反応だな。
「くそ、笑子のやつ主人公を差し置いてあんなに目立ちやがって。そもそもなんだよ人造人間って。仮面○イダーやドラゴ○ボールのキャラじゃねーか。羨ましい」
日頃から主人公! と叫び回ってる貴様も、充分に目立っていると思うぞ。ただし、悪目立ちという意味で。
笑子をなだめながら真が口を開いた。
「話を戻すわ、お願いって言うのは弟の誕生日プレゼントを一緒に決めて欲しいの」
「はい! 質問。なんで俺たちが選ぶんだ?」
「同じ男の子同士、何を貰ったら嬉しいのか参考にできるとおもったのよ」
真が説明したと同時に、一人の男が席を立った。
「それなら僕が、教えてあげるよ」
声をあげたのは九頭野だった。クラス一同の視線が釘付けになる。
「男なら誰もが喜ぶ代物。そうだよ! 異性からの、初めてーのチュウッ!?」
鈍い音と共にクズの顔にロケットパンチが炸裂する。
九頭野は周りの机を巻き込みながら、派手に転がる。
「このように、ふざけたことを抜かした奴には私の拳にキスをしてもらうわ」
「暴力系ヒロインは今時、流行らないと思うんだけど……?」
「何言ってるの? 私は無表情メカニカル暴力系ヒロインよ? そこらのアバズレと一緒にしないでよ」
「何言ってるのこの人……」
九頭野は最後の言葉を残して、床に顔を突っ伏した。
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