第2話 ねむれよい子よ

パルシファル宮殿にて、無事に戻ってきた妻をみて男は安堵の表情を浮かべる。


「無事で本当に良かった」


男の妻

「えぇ。でもセンドが大切にしていたオーブが化け物に取られてしまったの」


「化け物があの子の宝物を?宮殿の兵士は動いてくれないし、どうしたらいいんだ?」


悩む夫婦にアルドは声をかけた。


アルド

「あの化け物が奪った物なら俺達が取り戻してみせるよ。」


「本当にいいのか?」


エイミ

「困っている人は放っておけない、でしょ? アルド。」


アルド

「ああ、そうだな。」


「すまない。恩に着るよ」


男の妻

「私からもよろしくお願いします。どうかあの子の宝物を。」


リィカ

「合成人間ハ時の塔の方角に逃ゲテいきマシタ。オソラクそこにアジトがアルト思ワレマス。」


アルド

「時の塔…たしかクロノス博士が歴史改変のために作った塔だったな。」


エイミ

「私達のいる未来はそれが原因で殺されてしまったのよね。そんなところに合成人間がいるなんて…嫌な予感がするわ、急ぎましょう。」


アルド達は時の塔へと急いで行った。

時の塔の幻視胎のいた所に合成人間が待ち構えていた。


合成人間

「マタオマエタチカ、ドウシテここに来タ?」


アルド

「お前が持っているオーブを返してもらうぞ。それがなくて困っている人がいるんだ。」


合成人間

「これの価値も分からナイヨウナ奴らニハ、返す必要はナイ。」


アルド

「価値だと?どういうことだ?」


合成人間

「オマエタチが知る必要はナイ。ココで死ネ」


リィカ

「敵ガ戦闘態勢にハイッタヨウデス。コチラモ応戦シマス」


合成人間と戦うアルド達。戦いはアルド達が優勢で合成人間は追い詰められていた。


エイミ

「さあ、負けを認めてそのオーブを返しなさい」


合成人間

「クッ…マダ完全ナ状態デハナイガ仕方ガナイ。目覚メヨ!」


そう言うと幻視胎の目が開き、光を放った。


エイミ

「あいつは一体なんなの?何だか危ない雰囲気だけど。」


リィカ

「クロノス博士が古代にタイムスリップして作リ上ゲタ、シミュレーションにより未来を意図的ニ書キ替えるシステム、通称幻視胎トイイマス。

エイミさんのイル未来を歴史改変にヨッテ消してシマッタ張本人デス。」


アルド

「しかしいったい何故? あいつはもう俺達が眠らせたはず。」


リィカ

「ソウデス。プログラムは完全に消去サレタはずデス。」


幻視胎

「プログラム再構成率30パーセント…40、50…」


合成人間

「コレがこのオーブのチカラダ。行ケ、クロノスの子よ、コイツらヲ排除スルのだ。未来ハ我々合成人間の手ニ…。」


そう言うと合成人間は爆発していなくなってしまった。


幻視胎

「侵入者ヲ確認。スミヤカニ排除シマス。」


エイミ

「こちらに攻撃を仕掛けてくるわ。あれこれ考えている暇はなさそうね。」


アルド

「仕方がない。もう一度戦うぞ」


アルド達は再び幻視胎と戦うことになった。何とか勝てたアルド達はもう一度幻視胎の機能を停止することに。


エイミ

「こんなのと戦っていたのね。なかなか手強かったわ」


アルド

「もう戦うことはないと思っていたけど、こんな形で再戦するなんて… リィカ、後は頼んだ。」


リィカ

「ワカリマシタ。再びメーン・システムに侵入シテ緊急焼却措装置を作動シマス。」


幻視胎

「自己消却カイシ。」


アルド

「起こしてすまないが、今度こそお休みなさい。」


幻視胎

「30…20…。」


その時、幻視胎に異変が起こった。


幻視胎

「イヤダ、シニタクナイ。シニタクナイ。シニタクナイ。シニタクナイ。シニタクナイ。」


アルド

「以前戦った時と違う。一体何が起こっているんだ?」


リィカ

「オソラク以前プログラムを完全消却シタ時に、幻視胎ガ感ジタ死ノ恐怖を思イ出シタト思ワレマス」


エイミ

「プログラムを消去したのにそんなことありえるの?」


幻見胎は暴走し始め、アルドたちのいる空間は崩壊し始めていた。


アルド

「これはまずい。暴走で周りが崩れかけている。どうにかしないと…」


幻視胎

「イヤダ、イヤダァァァ」


幻視胎の悲痛な叫びが辺りに響いたとき、オーブから女の人の歌声が聞こえてきた。


???

「ねむれ、ねむれ、かわいい我が子よ

  祝福されし剣に守られ

  人の祈りに優しく包まれ 

ねむれよい子よ、よい子やねむれ…

」 


アルド

「この声はあのオーブから?それにしてもこの歌は…。」


 エイミ

「この唄、私の母親が子供のころに聴かせてくれた子守唄に似ているわ。」


???

「おやすみなさい。いい夢を見るのよ。」


幻視胎

「ウン…オヤスミ…マ…マ…」


それから幻視胎は何も言わなくなった。


リィカ

「幻視胎ノ機能停止をカクニン。辺りの崩壊も収まったヨウデス。」


床に落ちていたオーブを拾うエイミ。それは掌に収まるぐらいの大きさで青く輝いていた。


エイミ

「このオーブの子守唄のおかげなのかしら? このままそっとしておいてあげましょう。」


アルドは頷き、言った。


アルド

「星の夢なんかじゃなくて自分自身の自由な夢をみているといいな。」


アルドの言葉にエイミとリィカも頷いた。

時の塔を出てエイミはアルドたちに話しかける。


エイミ

「このオーブ、なんとなく私達の時代のサウンドオーブに似ている気がする。ちょっとリィカ調べてくれない?」


リィカ

「了解デス。」


リィカは目を光らせ解析を始める。


リィカ

「解析開始…。コレハ…イッタイ?」


エイミ

「リィカ、どうしたの?」


リィカ

「コノオーブハ、録画録音が出来るようでスガ、ソレとは別にブラックボックス化された機能があるようデス。」


アルド

「どうやらただの さうんどおーぶ ではないらしいな。帰ってあの夫婦に尋ねてみよう。」


アルド達は時の塔をあとにしてパルシファル宮殿にいる夫婦のもとへ帰ってきた。


男の妻

「ああそれは!あの化け物から取り戻してくれたのですね。本当にありがとうございます。」


「俺からも礼を言わせてくれ。あんたたち名はなんていうんだ?」


アルド

「俺はアルド。」


エイミ

「私はエイミよ。」


リィカ

「ワタシはKMS社製汎用ロボット、リィカです。」


「アルド、エイミに けーえむえすしゃ?のリィカか。あんたたちの名前は忘れないよ。センドも喜んでくれるだろう。」


アルド

「ところで、そのセンドというのは誰なんだ? 話を聞くところ、このオーブを宝物にしているらしいけど。」


男の妻

「センドは私たち夫婦の息子です。いえ正確に言うと息子として育てている子供かしら。」


「おい、そのことを話すのは…」


男の妻

「アルドさんたちは大切な恩人だから話しておきたいの。あれは私たちがサルーパにいたときのこと…。」


男の妻は昔のことを思い返す。緑豊かなサルーパの村に夫婦が住んでいた。妻が村はずれの道を散歩していたところ小さな男の子が倒れていた。

男の子は例のオーブを抱えていた。


男の妻

「まぁ大変。そこの坊や大丈夫?」


男の子

「ううっ…う…。ここは…?」


男の妻

「良かった。意識はあるようね。ここはサルーパよ。あなた名前は?」


男の子

「サルーパ…?自分の名前…? なにもわからない…。」


男の妻

「お父さんとお母さんはいないの?」


男の子

「わからない…」


男の妻

「記憶を失っているようね。ご飯も食べていないようだし、良かったら家に来ない?」


男の子

「うん!」


男の妻は続けて語る。


男の妻

「それから私たちはゆくあてのないこの子をセンドと名付けて養いながらこの子の両親を探しましたが、何も情報は見つからず、いつしかこの子を私たちの息子として愛するようになりました。」


センドの父親

「ああそうだ。だがセンドが家に来てからちょうど三年経ったあの日にセンドは消えてしまったんだ。大切にしていたオーブを残して…」


夫婦は再び過去を思い返した。


センドの母親

「センド、あなたを見つけたあの日からもう三年経つわ。でも、あなたの本当のお父さんとお母さんはまだ見つかっていないの…ごめんなさい。」


センドの父親

「すまない、センド。」


センド

「あやまらないで。今日はお父さんとお母さんに出会って三年目の記念日なんだよ。お祝いしようよ。」


センドの父親

「センド…」


センドの母親

「もうこの子ったら…」


センドの両親は涙ぐんで言った。


センド

「それじゃあ、ぼく外でお花つんでくるね。」


センドの父親

「あんまり遠くへ行くんじゃないぞ。」


センド

「うん!」


そう言ってセンドは家を飛び出し、回想は終わった。


センドの父親

「センドは帰って来なかった。チャロル草原の辺りまで探したが、見つかったものはあの子が大切にしていたこのオーブだけ。攫われて別の大陸に行ったのかと思い、ここまで来てみたが何一つ情報は得られなかった。」


センドの父親は悔しそうに言った。


アルド

「そうだったのか…。」

アルドは悲しげな表情で言った。


エイミ

「… …」


リィカ

「エイミさん、ドウカシマシタカ?」


エイミは黙って考えていた。そして夫婦に質問した。


エイミ

「そのオーブの子守唄について教えてくれないかしら?」


センドの母親

「あの子守唄を聞いたのですね。あの唄はセンドが泣くときいつもに流れて、あの子はそれを聴くとすぐに泣き止んだわ。きっとあの声の主がセンドの本当の母親なんだと思います。」


エイミは納得したかのように頷いた。


エイミ

「私たち、その子の行方を知っているかもしれない!」


アルド

「急に何を言い出すんだ?」


エイミ

「アルド、気づかないの? ほら、時の忘れ物亭にいるあの子のことよ。」


アルド

「そうか!あの子は確かエイミの母さんの子守唄を聴いたことがあると言っていたな。」


リィカ

「そしてソノ唄ハ、あのオーブから流れた子守唄に酷似シテイマス。エイミさんナイス発見デス。」


センドの父親

「それは本当か! いったいどこにいるんだ?」


エイミ

「難しくて説明できないけど、今はとても遠いところにいて、私たちはその子に一度会ってるの。でも、その子は記憶ほとんど失ってしまっていて、あなたたちのもとに帰ることができるかわからない。」


センドの母親

「そうですか… でも、センドが生きていると聞けただけでも良かった。」


涙を流す妻に夫はそっと寄り添う。そしてアルドは改めて自分たちの目的を話した。


アルド

「実は俺たち、その子の記憶を取り戻すための手がかりを求めてここに来たんだ。このオーブはそのカギになるかもしれない。だからしばらくの間、これを貸してくれないか?」


センドの父親

「ああ、あんたたちにセンドのことは任せる。俺たちはそろそろサルーパに戻ることにするよ。あの子がいつでも帰ってこれるように待っててあげないとな。」


妻は大きく頷いた。


センドの母親

「センドにもう一度会ったら渡してほしいものがあります。」


そういうと懐から小さなペンダントを取り出してアルドたちに渡した。


センドの母親

「これはセンドがいなくなったあの日から、あの子にまた会いたい、という祈りを込めて作ったペンダントです。どうかよろしくおねがいします。」


アルド

「わかった。俺たちに任せておけ。」


そう言ってアルドたちはアクトゥールを後にした。それを見送りながら夫婦は話す。


センドの母親

「アルドさん達ならきっと…」


センドの父親

「ああ、そうだな。あの子を救ってくれると信じよう。」


パルシファル宮殿を後にしたアルドたちは次の目的地を決めることに。


アルド

「鍵はやっぱりこのオーブだな。」


リィカ

「このオーブには更ナル解析が必要なヨウデス。」


エイミ

「ここはセバスちゃんに頼んでみない?」


アルド

「確かにそれが良さそうだな。よし、次の目的地はエルジオンだ。」



第三話 「本当の家族」 へ続く






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