レアスキル“贖罪の水瓶”で魔法が使えません。

@dailtop

第1話 エピソード

 ディルデェラ国の第7代ディルデェラ王が国王に即位する祭典で皇帝を名乗った。


 第二王子だったディルデェラ・E・ネイルスに5歳離れていた兄がいて、近衛騎士団の副団長をしていた。

 仲の良い兄弟で時間が合えば一緒にいて、剣術の相手もしてくれた。

 武芸も知識も優れていて、人に優しい自慢な兄で誇らしく思っていた。


 心の底から兄が国王になり、自分は兄を守れる男になる予定だった。


 父と一緒に右手を失った兄を見る日までは…


 国王が王族の血縁者であるエンラム公爵家の即位式の帰りに完全武装した逆賊に襲われた。

 近衛兵団は逆賊の足止めと安全地帯に避難する二班に分けて、兄は逆賊の足止めを行った。

 国王の避難が完了して戻った兵団は死体の中に盾にもたれかかる兄と横にいるクラウデ第2副団長を発見した。


 2人以外に生き残りはなかった。


 兄は怪我の後遺症で右腕が動かなくなり、ウラウデ第2副団長は走る事が出来なくなった。

 もう、剣は振れなくなった。

 

 自分に負い目を感じた父は兄を王国学術研究所の所長として任命し、王位の順番を下げた。

 城に居なくなった兄に定期的に会いに行くと前の様な明るさがなくなっていたが兄を慕っていたから会いたかった。


 変わらずに優しく接してくれる兄の傍に居たかった。


 国王が死後に兄は即位の意思がない事を告げて、弟の即位を希望した。

 兄は自分から王国学術研究所の所長の継続を希望した。


 弟は兄の意思を組んで即位を行う事を決めた。



 ディルデェラ・E・ネイルスはディルデェラ国の王になり、初代ディルデェラ皇帝になった。



 初代ディルデェラ皇帝は国内の王族の整理を行い、兵を国の直轄管理に変更する事で分離を行った。

 王族に裏切り者が出ない様に近衛兵団の保有の許可と貴族階級特権を与えた。

 貴族になれば、何もしなくても裕福に暮らせるようにした。


 改革が終わると王国を帝国に変更して、強兵強国制を唱えた。

 兵力の増強と優秀な人材の登用、魔法の研究を進めて、強い国へと進んでいった。


 当時の戦争は武力と武力のぶつかり合いで、魔法は身体強化と回復がメインだった。

 身体強化は短時間しか使えず、回復も止血に近い能力しかなかった。


 3年後に魔法論が確立され、雷を生み出す事が可能になると魔法攻撃が生み出された。

 魔法攻撃は魔力を使って魔法陣の形成に時間がかかるために戦闘中に多用される事はなかった。

 しかし、相手の戦意を削ぐのには友好的であった。


 攻撃魔法が確立すると魔法師団を作り、ディルデェラ帝国に属しない国は敵国とする宣告を各国に送り付けた。

 近隣の小国は戦争を回避する為にディルデェラ帝国に属したが神国ミルトナとテルアト国は敵対を示した。


 千年戦争と言われる戦争の始まりだった。


 攻撃魔法の時間短縮が行われ、羊皮を用いた魔法陣の技術が確立された。

 羊皮の魔法陣は魔力を注ぐと魔法が短時間で使えるが羊皮が燃えて使えなくなってしまう。

 使用回数が1回だけの魔道具であり、魔法陣を1つ書くのに4~6時間がかる為に問題があった。

 

 シェル・アーザスは1回しか使えなかった羊皮の魔法陣を水晶内に魔法陣を封印する事に成功させ、数回使える魔石生成法を発表した。

 他にも、魔力特性論や戦術的魔術論等を発表した。

 その功績から魔術師最高位の賢者の称号をもらった。



 その後に画期的な計算方法で多重魔法理論を出した。

 多重魔法理論は魔法陣を複数展開し、それを一定の法則で重ね合わせる事で魔法の効果を飛躍的に強力する理論だった。


 これには大きな問題が多くあった。

 魔術師は複数の魔法陣を出すと魔力の消費が大きくて、魔法陣の安定せずに暴発を起ってしまった。

 また、複数の魔術者で魔法陣の重ね掛けは魔力特性が反発して、暴発を起こした。


 シェル・アーザスの多重魔法理論を証明が出来ない仮説となった。

 死後に証明できない多重魔法理論が真実でないと言われるようになり、“空想の賢者”と言われた。



 多重魔法理論を実現する者が現れるまで、160年間はディルデェラ帝国が領土を広げていった。


 テルアト国に協力している小国のネステアニ国に大量の魔力を保有できるスキルを持つ物が現れた。

 テルアト国は魔力特性が同調する魔術師を探し、多重魔法理論の“グレイス”を実現化した。

 “グレイス”は火球魔法に雷と風の魔法の要素を含んだ4重魔法で直線上に威力がなくなるまで全ての物を破壊する事ができた。

 現代の大砲の様な魔法で城壁や魔法壁さえも破壊が可能だった。


 テルト平原の対戦の初日に“グレイス”が初めて用いられた。

 ディルデェラ帝国は多重魔法の効果を無効化する為に魔法壁を複数展開していたが、“グレイス”の威力の前に意味を成さなかった。

 魔法壁ごと火球が飲み込み、指揮官や主力部隊、魔法兵団を含む4割の兵が損失した。

 残った兵は蜘蛛の子を散らすように敗走した。


 この戦いでディルデェラ帝国の優勢が崩れた。

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