148、モモ、招かれる~お茶会でのおしゃべりは仲良しのきっかけになるかも~前編
加護者としてのお役目を終えてバルコニーから室内に戻ると、王妃様がティータイムに誘ってくれた。すごいんだよ? 王妃様がパンパンッと手を叩くと、護衛兵士さんとメイドさんが丸テーブルを用意してくれて、その上に山のようなおやつが乗せられていく。ケーキ、クッキー、マフィン、ゼリー、果物の盛り合わせ、などなど、甘いもの好きには天国、そして甘いものが苦手な人には地獄のセッティングされていく。というのも、王様が無表情で目を眇めているんだよ。苦手なのかな?
「二人共、加護者としてよく務めてくれた。それは王妃からお前達への褒美だ。隣の部屋に酒の用意もさせている。ダレジャとジュノラスはこちらへ来い」
「ジュノラス、お前は甘いものも好きだろう。酒のつまみに一皿持っていくか?」
「それはさすがに多いですよ。オレはこのクッキーを少し頂いていきます」
「……ふん。別に一皿くらいなら構わん。この部屋のように甘ったるい匂いが充満するわけではあるまい」
「聞いたか? ラルンダがいいと言ったぞ。一皿持って行け」
「これはなんとも型破りなティータイムですな。ミラ、私は陛下の元にお邪魔させて頂くから、お前はこちらで楽しみなさい。帰る時に声をかけよう」
「お酒を召し上がるなら、飲み過ぎてはいけませんわよ!」
「はははっ、わかっているとも」
ジュノラスさんは王妃様に押し付けられたお皿を大事そうに抱えて、いそいそと王様と隣室に移動していく。その後を笑い声を残しながらダレジャさんが追いかける。ミラが心配そうに釘をさしてる姿はまるでダレジャさんの小さな奥さんだ。
きっとお家でお母さんがそう言ってる姿を無意識に真似してるんだろうね。両手を腰に当てて「もうっ!」 って憤慨してるのが可愛い。王様と王妃様も仲良しでいいね。……バル様と別れたばかりなのにもう恋しくなっちゃってる。これはもう、お菓子で心とお腹の隙間を埋めるしかない!
「さぁ、女だけのティータイムだ。どこでも好きな席に座ってくれ。あぁ、モモは私が座らせてやろう。これで手が届くな?」
「はいっ。どれもおいしそうですねぇ。王妃様はどれが好きですか?」
さっそく椅子に手を伸ばそうとしたら、王妃様が軽々と抱っこして椅子に乗せてくれる。丁寧な仕草に優しさを感じた。桃子は親しみを覚えて、緊張しながらも話しかけてみた。どんな反応が返ってくるのかなぁ? そわそわしながら見ていると、隣に腰を下ろした王妃様は茶目っ気たっぷりに大きなお皿に乗せられたタルトを指差す。
「私のおすすめはその花タルトだ。花ビラはスイートポテトになってるんだが、こいつが最高に美味い。祖国でもよく食べた好物なんだ」
「スイートポテト!」
元の世界でも親しみのある名称に、桃子は興奮してタルトを凝視した。ふおおおっ! まさかここでそのお菓子がくるとは思わなかったよ! 学校の家庭科実習で作ったことがきっかけで、仲の良かった女の子達で集まってスイートパーティしようって話になったんだよねぇ。私もさつまいもの裏ごしをお手伝いしたっけ。裏ごし器を使ってしっかりとこすと、食感がなめらかになって、スプーンで簡単に潰すだけだとざっくりと食べ応えの残る食感になるのが面白くて、二種類作ったっけ。1つのスイーツで二種類の触感を楽しめるって素敵だよね!
「モモもこれが食べたいのか?」
「食べたい! ……です!」
興奮してうっかり敬語を落っことしちゃったから慌てて拾う。ちょっと間が空いて付け足したから怒られるかなぁって王妃様を伺うと、笑顔でぐりぐりと頭を撫でられた。おおおぅ、頭がぐらぐらーすーるー。
「よしよし、私が取ってやろうな。ミラはどれだ? 好きなものを言うといい」
「どれもおいしそうで目移りしてしまいそうですわ。そうですわね、わたくしはチョコレートケーキをお願いできますか?」
「あぁ、いいとも」
こちらもホールにワンカットサイズの切り込みが入ってる。量が多いけど、残ったら皆で食べるのかな? そうしたら、レリーナさん達も食べられる? さすがに聞けないけど、そうだったらいいなぁと思っておく。扉の前には兵士さんが立ってるし、部屋の隅ではメイドさん達が待機してる。
桃子の専属護衛さんになってくれた二人は視界の端にいるのだけど、ジャックさんが緊張した面持ちなのはお城にいるせいじゃなさそう。ちょっとお顔が赤いし、レリーナさんを意識してるっぽい。なんだろう、恋をしたばかりの女の子みたいな反応が男らしい外見とギャップがあってすごく可愛いらしい人に思える。
はっ、わかったかも! なにかに似てるなぁって思ってたんだけど、あれだよ、テディベア! 実際に熊に鉢合わせしちゃったら短い足を筋肉痛になるまでしゃかしゃか動かして逃げるけど、お人形だと可愛いよね。
王妃様がお菓子をお皿に乗せて、お子様用のフォークも添えて桃子の前に置いてくれた。わざわざ用意してくれたんだろうね。その優しさに感謝! 桃子の中の五歳児が、もういい!? 食べていい!? って聞いてくる。興奮気味なのは、十六歳の桃子に逆につられたのかもしれないねぇ。もうちょっと待って、って返してたのに、五歳児の身体は正直過ぎたのか、無意識にフォークを握りしめていた。この食いしん坊め!
「ふふふ、食べていいぞ。──紅茶を淹れてくれ」
「はい、王妃様」
はしたないって言われなくてよかったぁ。お城に居候させてもらうのは心配だったんだけど、こんな風に笑い飛ばしてくれる人がいるなら大丈夫かも! 桃子はお言葉に甘えてタルトを口に納める。サクサクしたタルトの生地と中のふわふわのまったりしたスイートポテトがとっても美味しい。
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