145、モモ、強く願う~保護者様達のためならば、お子様は頑張りたくなるのです!~前編

 動き出した馬車の中で、お城までの短い時間を桃子はバル様の膝の上でおしゃべりしながら過ごした。「バル様は緊張した時はどうやって緊張をほぐすの?」 なんて聞いてみると、バル様は顎をさすりながら首を僅かに傾げていた。なるほど、バル様はあまり緊張したことがないんだね? でも、それも当然なのかも。だって、よくよく考えたら、バル様は王子様で団長さんだし、どっちかって言うと緊張させる側だもん。


 でも、さすがにまったくないわけではないんだって。「子供の頃は特定の家庭教師に極度な緊張を与えられていた」と教えてくれた。そんな時は剣の鍛錬で教えられた呼吸法で落ち着きを取り戻していたんだって。バル様は子供の頃から大人びていたのかな? その頃のバル様にも会ってみたかったねぇ。今よりも身体の線も細かっただろうし、もしかしたら女の子みたいな可愛い子だった可能性もある。


 そんな想像をしていたら、馬車の震動が止まった。窓から外を見ればお城の門がすぐ傍にあった。外側からジャックさんが扉を開いてくれる。桃子はバル様の抱っこで馬車を降りた。すると、ちょうど門を挟んだ向こう側でも、煌びやかでど派手な赤い馬車からミラが父親にエスコートされて、馬車を下りているところだった。ミラも桃子達に気付くと、父親の手を引っ張り近づいてくる。


「御機嫌よう、バルクライ様、モモ。今日はご一緒出来て嬉しいわ」


「ミラ、先を歩いてはエスコートにならないぞ。おてんばな娘がいつも申し訳ない。バルクライ様、モモ殿、本日はよろしくお願いいたします」


「あぁ。モモは加護者として初めての仕事だ。こちらこそミラによろしく頼みたい」


「まぁ! バルクライ様のお願いでしたら、あたくし頑張りますわ! なんと言っても、あたくしはモモよりお姉さまですもの!」


「これは心強いな、モモ」


「うん!」


 ふふんと得意気な顔をするミラに、初めての大役に石のように硬くなっていた桃子の緊張もちょっぴりほぐれる。可愛いなぁ。初めてお茶会をした時から、すっかり仲良くなれたようで嬉しい。最初はツンとした対応をされたけど、今は心を許してくれてるのか、今日もお姉さん役をかって出てくれる。とっても微笑ましいよね! 


 桃子はバル様の片腕抱っこで、ミラはダレジャさんのエスコートを受けて、開かれたお城の門に向かう。そこにはいつぞやと同じように門番さんが2人立っており、彼等はバル様達に気付くと入口から左右の端に寄る。



「バルクライ殿下、ご同行者で加護者のモモ様、使用人と護衛を各1名、グロバフ様と加護者のミラ様のご到着です!」


「どうぞ、お通りください」



 そこから巨大な門を抜けるとそこには甲冑を着こんだ兵士さん達が待っていた。数えてみよう! 1、2、3……ウムウムフム、10人もいるよ! どの人も帯剣してて、甲冑を着込んでいる。まん中の人が前に出た。


 その人は三十代半ばくらいで、麦色の明るい髪色とオレンジに近い黄土色の目をしている。髪は短く刈り上げてる短髪で、ザ・強面! って感じの、荒々しい男らしさが漂う顔立ちの人だった。目や鼻のパーツ自体は整ってるんだけど、雰囲気が軍人さん軍人さんしてるから、ちょっと怖い。ミラもエスコート役のダレジャさんの腕にしがみ付いてさりげなく顔を隠してるくらいだ。


「──皆様をお部屋まで護衛します。私の後にお続き下さい」


 男の人が颯爽と歩き出す。9人の護衛兵さんに周囲を囲まれて、桃子達は足を進める。バル様もダレジャさんもこういうことには慣れたものなのか、平然と受け入れている。


「物々しい護衛だな。これなら下手な貴族も近づけまいよ」


「今年はモモ様も加護者におなりですから、数を増やして更に厳重にさせて頂きました。本日はルーガ騎士団の出立とあって、みな浮足立っている分、我等が城内に目を光らせねばなりません」


「そこまでお考え下さるとは、真に有難い! おかげで私共親子も安心して城内を歩けておりますよ」


「いえ、これが我等の職務なれば」


 ダレジャさんの感謝の言葉に淡々と感情を交えずに答える隊長さん。職務に忠実そうな感じがする。無骨で不器用、よく人に誤解されるタイプと見た! 桃子は五歳児の本能の赴くままに周囲の兵隊さんに目を向ける。上司に似たのか職務に誠実な兵士さん達は真面目に広いお庭を警戒している様子だ。噴水やベンチにも目を向けてどこかに怪しい人が潜んでいないか注意を怠らない。


 やがてお城の前を警備をする兵士さん達の横を通り抜けて青いお城に入場すると、広過ぎるほど広い廊下を右側に進んでいく。何個か頑丈そうな扉の部屋を過ぎたら、これまた真っ白で凝った造りの広い階段を上がっていく。


カツコツと足音が鳴るのを聞いてたら、楽しくなってくる。五歳児の心が弾むまま、リズムに乗って頭をちょっとだけふりふりしてると、兵士のお兄さんの目がちょうど向けられていた。十六歳の桃子は我に返って、ピタッと動きを止める。……何度体験しても恥ずかしいね、これ。学習能力のないお子様ですみません。タップダンスが踊れそう! とか一人で盛り上がっちゃってた。兵士のお兄さん達、護衛対象にこんなお子様が居てがっかりしちゃったかな……?

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