7、モモ、大事なものを装備する~ダメと言われるほどしたくなるよね~
とうとう手に入れたぞ! お子様パンツを握りしめて桃子は打ち震えた。これだこれ、私はこれを求めていたのだ!
感動のあまりにぷるぷるしていた桃子の背を、労わるように擦ってくれる人がいた。顔を上げると、頬を赤らめた綺麗なメイドさんが見つめていた。
メイドさんのお名前はレリーナさん。それから、壁際に控えているオールバックのおじ様が、執事頭のロンさんだ。バル様から紹介されたので、笑顔でご挨拶した。ロンさんは口元に八の字おひげがあってダンディなおじ様だ。これが大人の色気ってやつかなぁ?
ちなみに年齢は若い順に、レリーナさんが十九歳。バル様が二十一歳。キルマとカイが二十三歳。ロンさんが三十五歳なのだそうだ。
意外な結果だ。バル様の落ち着きようは、もっと年を重ねた人が得るものに思えたのに。いや、老けて見えるなんてことはないよ? 桃子と同じ黒目黒髪なのに、美しさが桁違いなだけで。
高い鼻筋と物静かな眼差し、雨の日の夜を思わせる黒い髪。これに均整の取れた身体がついているのだ。それは目を奪われちゃうよねぇ。美形オーラが常人とは明らかに違うもん。ふとバル様に視線を向けられて、びくっと反応する。悪いことは考えてないよ……?
「モモ様、隣の部屋でお着替えをいたしましょう。私がお手伝いいたします」
「レリーナ、動きやすいものを頼む。この後、医師の元につれていく」
「はい、バルクライ様」
「じゃあ、行って来まーす」
桃子は食堂に残っていた四人に手を振って、裸足の桃子を気遣って抱き上げてくれたレリーナさんに身を任せる。
一度通った廊下は、横幅が広く窓が大きい。高く上った太陽がレリーナさんの腕の中からもよく見える。桃子の世界を元に考えれば、おやつくらいの時間帯かな。
それにしても、さっきはどきっとしたよぅ。心臓に冷や汗をかくっていう意味で。キルマとカイは純粋な保護欲を桃子に向けてくれたけれど、バル様のそれはちょっと違う。保護を義務としているのだろう。スキンシップが多いのは、子供にあんまりかかわったことがないから加減がわかっていないのかも。
「でも、嬉しくなっちゃうの」
やわらかい好意に、心がふんわりする。
バル様からのスキンシップには欲を感じない。単純に桃子という珍しい生き物に興味を持っているだけなのだろう。だから安心して甘えられる。こうなったら、この状態をとことん楽しんでやるもんね!
「ご機嫌ですね。さぁ、着きましたよ」
レリーナさんが開けたのは桃子が寝かされていた部屋だった。ベッドの上には1セット分の服と小さなブーツがすでに用意されている。このメイドさん、有能だ。
大事なパンツをいそいそと身に着けて、白いシャツを脱がしてもらう。襟が水色のボタンシャツにひざ上の桃色キュロットパンツを着れば、後は小さな靴下と長靴のような革靴を履いて完了だ。
「まぁ、よくお似合いです。お可愛いらしい」
「お手伝いありがとうございました。今度は自分で歩けるね」
「では、あの、手を繋いでもよろしゅうございますか?」
恥ずかしそうにそう言われて、キュンとした。レリーナさん可愛い。こちらから彼女の手を取ってにっこりする。
「バル様達に早く見せに行こう!」
心が早く早くと弾む。これ、あれだ。五歳児の精神が顔を出している。なになに出番? いや、まだだから。いやだい! 私は走るのだーっ!
「バル様────っ!」
レリーナさんがドアを開けてくれた瞬間、頭の中でよーい、どんと声がした。まるではしゃぎまわる子犬のように廊下を駆け出す。しかし、短い足ではそんなに速くは走れない。レリーナさんが小走りしてくれるけど、この足笑っちゃうくらい呪い。間違えた、のろい。
広い玄関を通り過ぎまして食堂が目の前に見えている。すると、扉の前で三人がいて、バル様が片膝をつき、両手を広げてゴールの役割を果たす。
桃子選手のゴールです! そのままどーんと腕の中に飛び込むと、力強い腕にあっさりと受け止められた。
「楽しかったか?」
「あははっ、楽しかった! ごめんね、ときどき私の精神が五歳児の心に引きずられてるみたい。なんでかなぁ?」
「キルマ、予測は出来るか?」
「おそらくですが、身体が幼児になっているので精神もそれにあわせようとしているのではないかと。大丈夫、今の状態を見る限り、幼児のままになることはないですよ」
「それなら、いいかな? これはこれで面白いし」
「なんにしても、専門に見てもらうのが一番いいだろ。おチビちゃん、今度はオレに抱っこさせてくれる?」
「カイ、順番ですからね。可愛い走りっぷりでしたが、危ないですから、私達が見ている場所以外ではダメですよ?」
「はーい」
素直な返事を返して、桃子はカイの抱っこを歓迎した。
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