Main file.07『雨のち晴れ、見つかった』

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 2010年 7月4日 21:45

 ──私は大学をやめた。

 もともとお母さんが死んじゃった時から行く気なんてそんなになかったんだ。

 ただ手に職をつけるために、学んでいた医学に進もうとしていただったんだ。

 あの後あの人達に仕事をもらった。

 普通の、人手の足りない会社の事務作業を斡旋してもらった。

 住処も変えた。

 穴も穴の隠れ家。

 否認可のビルの地下。

 みてくれは倒壊寸前のぼろビルだし、それもかなり面倒な認証をして初めて入れる。

 ひとは本当に来ない。

 面倒な場所にあるのもそうだけど人払いでもしてるのだろうか。

 まあどうでもいいか。

 ひときらいになったし。

 吐き気がするんだ。

 ひとと、一緒にいると。


 食材だったりは月末にあの人達から送られてくる。

 これが欲しいというのを伝えて、箱詰めで玄関へ。

 内装は防音で灰色で。

 真四角で、生活感のないただ生きるためだけの部屋だ。

 私は仕事以外はゲームとかばっかしてる。

 人の顔を見れなくなったから、TVも雑誌も見れなくなった。

 せいぜい音楽とかアニメぐらいか、あと得れるのは。

 父は今まで通り生きている。

 別に不満というわけではない。

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 2011年 7月7日 4:56

 ず~~っと ず~~っっっと。

 仕事をして、ゲームをして、仕事して。

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 2012年 4月30日 9:12

 ふと、外に出た。

 気まぐれだった。

 もうひととかどうでもよくなったみたいだ。

 他人は他人、それだけだ。

 どうでもいい。

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 2014年 11月9日 1:25

 仕事 ゲーム 仕事 料理 音楽 仕事 読書 仕事。

 色々ミックス。

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 2015年 2月27日 12:48

 う~ん、ひま!!

 ちょっと外に出る習慣つけるか!

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 2016年 2月29日 11:06

『お客さん?』

 うっそん。

 いや、マジか?

 こんなこと、あるもんなんだなあ。

 この世って変な因果あるよね。

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 2016年 6月29日 14:07

「君若いんだからいっぱい食べなよ〜」

「いや、いいですしそれは樫之さんのものですから」

 ん〜もう素直じゃないよねこの子〜!

 まあいいんだけどさ、そんなふくれっ面しなくてもいいじゃないか!

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 2016年 7月29日 13:24

「熱い………日本の湿度ってのはどうなってるのかね、どう思う?」

「どうも思いません、別に適応するだけです」

 君さあ、もうちょい愛想をよくしないとモテないよ。

 なんでこうさあ、人間味ないのよ君は。

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 2016年 8月29日 12:45

「アイス買ってきたんですけど食べますか?」

「やたら買ってきたんだね。

 お、アーモンドだ」

 いいよね、アーモンド。

 私は好きだよ。

 歯ごたえのある感じが。

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 2016年11月29日 20:45

「いやーでさ、ここのファミレス美味しいよね〜」

「そうですね、美味しいですね」

「虞瞳くんは和食が好きなんだっけ?

 いや、お弁当がすごいキッチリしたの食べてたからさ」

「……そうですね和食が……好きです」

 ……?もうちょい生きた返事が帰ってくるか、愛想のない返答が来そうなものだけど、彼なら。

 前の時と言い、元気ないのかな。

 よし!なんか作ってあげよ!

 虞瞳くんの方が料理とか上手いけど!

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 2016年12月29日 15:30

「樫之さん鍋とかおでんとかが好きなんですよね?ここは僕の知人がやってるところです。

 お気に召したのなら知人も喜ぶ」

「しゃぶしゃぶ系のお店……まさかここまで美味しいとは……」

 私が長年作ってきた鍋より美味しい……だと!?

 クソッなんか敗北感ある!

 今度私の鍋虞瞳くんに食わせたろ!!

 いい加減一人鍋飽きたし!

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 2017年1月29日 12:00

「もうすぐ一年……一年か」

 早いなあ。

 もう彼と会うのも12回目になるのかな。

 ……ああ、母の死からも、9回目。

 もうか。

 もうなのか。

 時の流れってこんなに早いものだったっけ。

 いや……時間の密度か。

 私の六年、スカスカだもんな………


 何やってんだか。

 ……あ、虞瞳君きた。

「おはよ~」

「おはようございます」

 ま、いいか。

 君と会えてるなら、それでいい気がする。

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 2017年 2月28日 11:56

 う〜ん、やけに精悍な顔して虞瞳君やってきたな。

 実は私に何かサプライズでも仕掛けてるのかな?

 おお、アンドロイドみたいな人間性から遂に成長したのか!

「橿之さん、お話がありまして」

 あや!!?

 え~~~なになに!?

 え~なんだろ、彼女が出来たとか?

 うわ~お土産持ってきてないよ。



「橿之さん、僕は」

「うん、なんだい?」

「あなたの過去を知りました」


 ……………わお。

 そっかあ。

 知っちゃったかあ。


「………そっか。

 だれから聞いたの?」


「いろんなひと、です」


「あの人達にはあったの?」

「ええ。

 具体的な内容はあの人たちから」


 言ったんだ。

 ふーん。


「それで、なにを話そうと君は言うんだい?」

 精一杯、最低限嫌味ったらしく、薄情に言ってみた。

 突き放すように。

 遠ざけるように。

 私の瑕疵に触れたのだ。

 これぐらいの反応をしたとしても、罰は当たらないだろう。

 首を傾け、ニヒルに笑い、君が悪いという被害者意識をぶつけさせる。


 君は、

 そこの立ち尽くした君はどう出るのだろうか。

 どう返すのだろうか。

 わざわざ触れてきたのだし、何かをする気なんだろう。

 話というのはそれなんだろう。

 あんな勿体つけて、こんな大げさにやるのだから、

 さぞかしそれは彼にとって重要なことなんだろう。

 さて、それはなんであろうな?


 お、深呼吸しだした、どうやら今から言うみたいだぞ。

「──僕と、一緒に探偵やりませんか」


 ………………はいはいはい探偵ねOKOK。

「突拍子もないねぇ!!!!」

 思わず意思のまま、外面も整えずに言葉を口にした。

「あれ、そうですか?」

「いやないよ!!」

 ほんときみさぁ!!!

 流れというものがものがあるでしょう!!?


「ん~~まず!まず!

 なぜ、探偵なんだい?」

「え~っと、まずですね。

 僕が以前友人と人助け………でいいか。

 とにかくそれをなんて呼ぶか、決まってなくて」


 はぁ!?

 いやどういうこと!?

 それがどうつながるのよ!!


「まあ明日探し、みたいな名前を付けてました。

 そいつの方から誘ってきて、それの始まり………が要約すると。

 今日と昨日はもう良くならないかもしれない。

 けど、今日誰か助けてあげられる人に会えたら、じゃあ明日は良く出来る。

 その助ける人に、僕らがなろうって話でした」


「…………大層な口説き文句だね」

「ほんとですよ、あいつ当時小学生でしたからね」

 私たち二人とも呆れた感じでこれを言った。


 ……虞瞳君はその友人くんのことになるとなんか、年相応だよな。

 口調だったり、雰囲気といい。


「ああ、それで……思い直してみたんですよ」

「なにをさ」

「もう一度やるのなら、定義から図りなおしてみようと。

 ……探偵の意味って、知ってますか?」

「ん……?言われてみれば分からないね。

 どこぞの英国探偵みたいなイメージとかしかないや」

 まあ現実の探偵は仕事のほとんどが浮気調査らしいけど。


「人の情報をうかがい、そしてそれをひたすらにさぐるもの。

 ピッタリじゃないかと思って」

「………なにに?」

「このに。

 その人に何があったかを探求し、明日を見つける」

「………………なるほど?」


「僕はやっぱり一人じゃダメなんですよ。

 あなたを探すのにあんまりにもかかってしまったし。

 色んな人にお膳立てしてもらってこれだから」

「だから、私を誘うって?」

「はい、だからです」


 ああ、もう随分爽やかにいってくれちゃって。

 そんなに笑顔で言わないで欲しいものだね。

 やりたくなるじゃないか。


 ……手を差し出してきた。

 これをどうするかで決めろってことね。


「……わかったよ。

 いいよ、私がその手をとればいいんでしょう?」


 虞瞳君は少し息を吐くと

 安心しきった顔で心から、笑った。


 ……よかった。

 手を取ってよかった。

 その笑顔だけで手を取った意味はあった。

 価値はあった。

 そう思えた。


 ああ、なんだか泣きそうだ。


 ん、考えてみればこれなんで、

 今日に彼は来たのだろう。

 来てくれたのだろう。


「​──そういえばさ、なんで今日来るってわかったの?」

 明日来る可能性もあったのだし。

「えっと…………貴女のお父さんと会いまして、その時に」

「え……マジで……?」

「マジですとも」

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 2017年2月14日 13:20

 樫之さんのお父さん、樫之 作かしのつくるさん。

 白いスーツを身にまとっていて、

 随分畏まった真面目な人だった。

「私は妻が死んだ時から、娘にどう接すれば分からなくなりました。

 酷く当たってしまって、決定的なものはそれでした………………

 悔やんでも……悔やんでも……

 いくら悔恨しても、晴れることは無かったんです」

「……よく分かります。

 その感情は、覚えがあります」

「…………娘も私も、妻が死んだことを受け入れられていません。

 まだ、縋っていたいのです」

 だから一日でも早く、墓に行くのだと、続けた。

 同じ理由で、僕は1日に行くけれど、この人達の方がよっぽど……

 いや、よそう。

 意味が無い。

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 2017年 2月29日15:47


「これを機にお父さんとも会ってみたらどうですか?」

「え〜?

 ……気乗りしないけど会うかあ」

「よかった」


「あの……樫之さん」

「なに?」

 伝えておきたいことがあった。


「人と関わりたくないのなら、僕が日向にいますから、僕の影に隠れててください。

 僕があなたに明日もまた、笑えるようにしますから」


「え、なに?」

「宣誓みたいなものです。

 僕の決意ですね」


 ちょっと呆れた風の仕草をして、樫之さんがこう言った。

「……ずっと笑えない今日が続いてた。

 また笑える明日なんて来ないと思ってたんだよ」


 乗っかってくれたので、少し思い出した事も込めてこう返した。

「前にも言いましたけど、僕を明日に進ませてくれたのは、あなた……お客さんですね」


「じゃあ、私を明日に進ませたのは君、店員さんだよ」


「随分懐かしいの出すね」

「僕たちの出会いから一周年アニバーサリーですし記念に」

「お〜う頭痛が痛い」

「今はもう2人とも探偵さんになるんですかね?」

「じゃない?」


 僕ら二人セリフを考えて、お互いに言い合うことにした。

 ちょっと小っ恥ずかしかったけど、それも記念として、思い出として。


『ありがとう、明日を見つけてくれて。

 心から感謝を、探偵さん』


「いや、クサイわ……!」

「ですねえ……流石に!」

 僕らは心から、心から、笑いあった。

 でも、このセリフが事実だから、

 こうして僕らは笑っているのだ。

 見つかったのだ、明日は。

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 2017年 3月1日0:10

「彬愛。

 お前が死んでから4年間、ずっっと、ずっと見つからなかったんだ。

 やっとだ、やっと、僕の明日、見つかったよ」

 墓前の前で、泣きながら、ぐしゃぐしゃの顔で僕は彼に誓った。

 もう、見失わないって。


 来るたび来るたび雨だったこの墓地が

 今日は晴れていた。

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 明日探し依頼

 備忘録及び報告書

 No.0でありNo.1書き上げ完了。

 脱稿。

 出来上がりましたよ、樫之さーん

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『明日探しの探偵さん』 天 下句 @dsp_a

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