Main file.05『5W1H』

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 2016年11月22日 20:45

 その日は、雨が降った日だった。

「……君が?」

「そうです。

 僕が、夏目です」

「そうかい。

 案内するよ、責任をもって、私が」


 濡れたコンクリートが妙に白く見える。

 色が鮮やかで小綺麗で、どうも暗い学校だった。

 先生は、諦観した40代ほどの男性で。

 悔恨が顔に張りついて、

 そのまま定着してしまった、という印象を受けた。

 多分、橿之さんに起こった出来事のせいなのだろう。


 キャンパスを、説明と共にめぐっていく。

 橿之さんがどう学んでいたかを一つずつ、一つずつ。

 実習室 講義室 研究室 演習室 図書室 食堂 医務室

 彼女が何を食べていただかとか、彼女がどんなミスを冒したか。

 そういう、よくある世間話に近い会話内容だった。

 僕も先生も、そんな心持ちでは無かったのは確かなことだけれど。


 ツアーの終着点は職員室。

 来客間だった。


「コーヒー……飲めるかい?」

「砂糖を……二粒ほど入れてくれれば、飲めます」

「わかった、取ってくるから少し待っててくれ」

「ありがとうございます」

「橿之君も……よく飲んでいたんだよ、このコーヒー」

「……そうなんですか」


 湿度が高い日だった。

 会話も、空気も。


「……どうだった?楽しかった……かい?」

「ああ…はい」

「それを聞けて、よかったよ」


「それで……橿之さんの事なんですが……

 何が……あったんですか……?」

「ああ、話す…………話すとも」


 先生が言葉を出そうとするさまは、

 まるで心の、割れてしまった綴じ蓋を開いて、その中に綴じ込めた腐ったものを取り出すように。

 どんな金属よりも重たそうな唇から、楽になりたいからといった風に。

 そんな言葉を、咥内こうないからずるりと吐き出した。

「──強姦、だよ…………未遂……だったん…だけど。

それがよかったのか 悪かったのかも もう……分からないや……」

 先生は少しだけ、憑き物が落ちたように見えた。

「そうなん……ですか……」

 僕はただ、二つのこの耳で、滔々とうとうと明かされていく事実を聞いていった。

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 2016年12月4日 17:50

 彼女の、当時の友人。

「The 優等生な子だったよ。

 え、そういう話じゃない?

 ま、だろうね」


「でもさ、言っても──

 ……それでも?

 分かった………じゃあ話すよ」


「加害者は32歳のフリーター。

 帰るのが遅くなっちゃった時、背後から襲い掛かられたんだって。

 必死に……必死に抵抗したんだって。

 そこに………君は会ったことあるのかな、この情報制限してる人たちに助けられたの」


「そこまでは……まだよかったんだけど…………

 ……ここから先はその助けた人達に聞いてみて」


「あと……橿之ちゃん、助けてあげてね」

「……はい──もちろん、助けます」

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 2017年1月9日 2:47

 ずっと、僕を試していたのであろう人は、

 軽薄という印象を受ける容姿に、いかにも、みたいな黒いスーツを身にまとった人だった。


「は ろ ー 。

 君は夏目虞瞳、だね」

 その人は胡散臭い笑いを浮かべていて、言葉は軽いのに口調は酷く重かった。


「……初めまして」

「俺は初めてじゃないけどね。

まあ君が色々やらかしてた頃に、一方的だったけど」


 ……彬愛がいた時期か?

 それだと心当たりはいくらでもあるけど……


「ああ別に文句言ってる訳じゃないから。

 今回俺が介入したのは、単純に俺が橿之ちゃんを受け持ってたってだけ」


「……あなた方って、そんな慈善事業するんですか?」


「NOだね、俺達は普通に犯罪者グループさ。

 まあ、橿之ちゃんのお母さん……というより

 その血はちょっと俺達的にないがしろにするとまずいんで、な」


「……?」


「いや、単に恩があるんでね、

 それも末代までしないと返せないぐらいの恩が。

 まあ、橿之ちゃんに関しては俺達、正義のヒーローやんないといけないわけだと思ってくれりゃあいいよ」


「そうですか。

 その点は感謝しておきます ありがとうございました」

「ハッ、即お辞儀するんだ、いいね」


「じゃあこっちももう言ってしまうか。

 俺達が助けた後、橿之ちゃんに何があったか──




 ​──と、言う訳さ。

 ……思えばあれは失敗だった。

 もっと初めから、徹底的にやっておけば……」


 全貌を、聞かされた。

 彼女にもたらされた全てを。

 いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように、やったかを。


 6年前、大学で、■■が、彼女を、悪意ともつかぬ悪辣さで、陰湿に──

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