Side file.03『雨日和に暖かな』

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 2016年 5月29日

「今日は随分な雨ですね……僕は抜きにしても、ずっと座ってたら樫之さんの腕疲れちゃいますよ」

 あの年の5月は、多く雨が降った。

 僕は月白色げっぱくいろ雨合羽あまがっぱを着て、カラカラとクーラーボックスを転がす。

 あの人は真っ黒で大きな傘を携えていた。

「いつもの席には座れないね、コレは。

 ……あの木陰のところに行こうか」

 樫之さんが指さした、

 深緑の下には雨はやってこなかった。

 その日は、ゆったりとした、静かでささやかな時間があった。

 ──心地良かったのを、覚えている。

「今度雨が降った時はここね。

 もうここで取り決めちゃおうよ。

 雨が降ったらここ、晴れてたら、いつもの寂れたあそこ」

「じゃあ、雪が降ったらどうします?」

「それは……どうしよっか……

 考えてないや」

 はにかみながらそう言う。

 この人の笑った顔は、とても魅力的に見えた。

「あ、今っておなかすいてますか?」

「……?事実空いているけど、なんだい?」

「よかった……どうぞ。

 ご賞味あれ、というやつです」

 その為のクーラーボックス。

 保温機能が付いているものだ。

「えっ!ウソぉ!!おでんじゃないか!!

 作ったのかい!?」

「はい、作りました。

 楽しそうに食べていたものですから、作りたくなったんです。

 食べて欲しくなったんです」

「……まぁーた素でそういう事を言う〜。

 …………ありがとう。いただきます」

 これとは別の話だけれど。

 僕の職場では、季節外れのおでんが何度か食べられたそうだ。

「あ、おいしーい」

 実に幸せそうに食べてくれる。

 ──何よりだ。

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