第12話

 それからしばらく、渡里さんからの強いアタックは無かった。

 時折話しかけてきては、二言三言交わして去っていく。

 まるで忘れてないよと言うように。いつかの為の下準備でもしているかのように。


「……で、お前は結局どうしたいんだ?」

「知らね。強いて言うなら

「帰りたいなら帰ればいいだろうが」

「土にだよ」

「そっちかよ。アホか」


 ある日の下校途中、コンビニでお菓子類を物色しながら葵とそんなことを駄弁っていた。

 我ながら不謹慎が過ぎる会話だと思う。還りたいって言ってるわけだし。


「改めて聞くけど、マジでどうしたいんだ?」

「マジで知らない。相手の発言とか行動に対して、馬鹿らしく答えるんじゃない?」


 そう言いながら税抜き30円のチューイングキャンディを3つほど手に取り、会計へと向かう。


「……そういう話はしてねえよ」

「知ってる。あ、レシートはいらないです」


 会計を済ませながらそう言って切り捨てる。

 そんな俺の様子に眉間の皺を深くしながら、葵もまた店員に取っていた商品を渡して会計を済ませていく。

 知っているとも。俺の本質部分がどう思っているか、そこを聞きたいんだろう。

 でも、意外とわからないものなのだ。

 根っこの部分がどう感じているのかなんて、臨界に達して傷害事件を起こしかけた、あの時のように。

 もう既に限界ギリギリなのかもしれない。

 意外とまだ余裕があるのかもしれない。


「────どっちでもいいよ」


 会計を互いに済ませてコンビニの扉に手を掛けながら、俺はポツリと呟いた。

 そんな俺に対し、葵は意外そうに目を丸くしていた。


「そんなこと言う割に、随分と気を許してるじゃん」

「そうか?……いや、そうかもな」


 問いの言葉を口にしてすぐ、実際にそうかもしれないと思って考える。

 でもどっちでもいいというのも嘘じゃない。

 彼女は俺を救いたいと願っているらしいが、俺としてはどちらでもいいのだ。

 救われなかったとしても、ただの愚者が自業自得で押しつぶされるだけ。

 俺の責任を、俺の末来が背負うだけならばどうでもいいのだ。


「……葵はどう思う?」

「とっとと救われろ馬鹿、かな」

「救われると思うか?」

「半々じゃねぇの? お前が何抱えてんのか知らんけど、少なくとも器ではあると思うが」

「……話してみていいか?」


 俺の言葉に葵が目を見開く。


「……今かよ」

「もうなんか、俺も色々めんどいんだよ……」

「え、今お前────……辞退していい?」

「話すわ。お前のその反応で話したくなった」

「やめろ!重てぇ話押し付けんじゃねぇ!」

「実は────」


 ────話してみれば、なんということは無いこと。

 これだけで、少なからず心は楽になった。

 して、これに対する葵の答えはこちら。


「…………どうでもいい上に、おっっっっっも」


 是非もなし、俺もそう思うわ。

 

 

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